養生訓 / 巻第七・用薬
一藥を煎ずるは磁器よし。陶器なり、又砂罐と云ふ。銅を忌まざる藥は、ふるき銅器もよし。新しきは銅氣多くしてあしし。世俗に藥鍋と云ふは、銅厚くして銅氣多し。藥罐と云ふは、銅うすくして銅氣すくなし。形小なるがよし。
新字:一薬を煎ずるは磁器よし。陶器なり、又砂罐と云ふ。銅を忌まざる薬は、ふるき銅器もよし。新しきは銅気多くしてあしし。世俗に薬鍋と云ふは、銅厚くして銅気多し。薬罐と云ふは、銅うすくして銅気すくなし。形小なるがよし。
書き下し
一薬を煎ずるは磁器よし。陶器なり、又砂罐と云ふ。銅を忌まざる薬は、ふるき銅器もよし。新しきは銅気多くしてあしし。世俗に薬鍋と云ふは、銅厚くして銅気多し。薬罐と云ふは、銅うすくして銅気すくなし。形小なるがよし。
現代語訳
薬を煎じるのは磁器がよいのです。陶器であり、また砂罐ともいいます。銅を忌まない薬には、古い銅器もよいでしょう。新しい銅器は銅の気が多くてよくありません。世間で薬鍋というのは、銅が厚くて銅の気が多いものです。薬罐というのは、銅が薄くて銅の気が少ないものです。形の小さいものがよいでしょう。
解説
薬を煎じる器の選び方を述べた短い条です。焼き物の器を最良とし、銅器を使うなら銅の気の少ない古いものや薄いものを選べと述べています。薬の成分が器の材質と反応することを経験的に知っていたのでしょう。今でも漢方薬を煎じるには土瓶やガラス、ほうろうの器がよいとされ、鉄や銅の器は避けるように言われます。道具の材質にまで気を配るという丁寧さは、料理や日々の暮らしの中で道具を選ぶときにも参考になる心がけです。
この章句が説くこと
道具器薬材質煎じ方
関連する章句
-
『養生訓』巻第七・用薬一又曰、薬を煎ずるに砂罐を用ふべし。やきものなべなり。又曰人をえらぶべし。いふ意は、心謹信なる人に煎じさせてよしとなり。粗率なる者に任すべからず。一薬を服するに、五蔵四肢に達するには湯を用ふ。胃中にとどめんとせば散を用ふ。下部の病には丸に宜し。急速の病ならば湯を用ふ。緩々なるには散を用ふ。甚緩き症には丸薬に宜し。食傷腹痛などの急病には、煎湯を用ふ。散薬も可なり、丸薬はにぶし。もし用ひば、細に噛くだきて用ふべし。
-
『養生訓』巻第七・用薬一凡薬を煎ずるに水をえらぶべし。清くして味よきを用ふ。新に汲む水を用ふべし。早天に汲む水を井華水と云ふ。薬を煎ずべし。又茶と羹を煮るべし。新汲水は、平旦ならでも、新に汲みていまだ器に入れざるを云ふ。是亦用ふべし。汲みて器に入れ久しくなるは用ふべからず。
-
『養生訓』巻第七・用薬一補薬を煎ずるには、かたき木かたき炭などのつよき火を用ふべからず。枯れたる蘆の火、枯竹、桑柴の火、或はけし炭など、一切のやはらかなる火よし。烈しく燃ゆる火を用ふれば、薬力を損ず。利薬を煎ずるには、かたき木かたき炭などの、熾なる強き火を用ふべし。是薬力をたすくるなり。
-
『養生訓』巻第七・用薬一世俗には、振薬とて、薬を袋に入れて、熱湯につけて、箸にてはさみ、しきりに振動し、薬汁を出して服す。是は、自然に薬汁出づるにあらず、しきりにふり出す故、薬湯にごり、薬力滞りやすし。補薬は、常の煎法の如く、煎じ熟すべし。泡薬に宜しからず。凡、煎薬を入るる袋は、あらき布はあしし。薬末もりて、薬汁にごれば滞りやすし。もろこしの書にて、泡薬の事いまだ見ずといへども、今の時宜によりて用ふるも可なり。古法にあらずしても、時宜によくかなはば用ふべし。
-
『養生訓』巻第七・用薬一頤生微論に曰く、大抵散利の剤は生に宜しく、補養の剤は熟に宜し。入門に曰く、補湯は須く熟を用ふべし。利薬は生を嫌はず。此法、薬を煎ずる要訣なり。補湯は、久しく煎じて熟すれば、やはらかにして能く補ふ。利薬は、生気のつよきを用ひて、はげしく病邪をうつべし。
-
『養生訓』巻第七・用薬一いかなる珍味も、これを煮る法ちがひて悪しければ、味あしし。良薬も、煎法ちがへば、験なし。此の故に、薬を煎ずる法に、よく心を用ふべし。文火とは、やはらかなる火なり。武火とは、つよき火なり。文武火とは、強からず柔かならざる、よき加減の火なり。風寒を発散し、食滞を消導する類の剛剤を利薬と云ふ。利薬は、武火にてせんじて、はやく煮あげ、いまだ熟せざる時、生気のつよきを服すべし。如此すれば、薬力つよくして、邪気に勝ちやすし。久しく煎じて熟すれば、薬に生気の力なくしてよわく、邪気にかちがたし。補湯は、やはらかなる文火にて、ゆるやかに久しく煎じつめて、よく熟すべし。如此ならざれば、純補しがたし。ここを以て、利薬は、生に宜しく、熟に宜しからず。補薬は、熟に宜しくして、生に宜しからず。知るべし、薬を煎ずるに、此二法あり。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る