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養生訓 / 巻第六・択医

それをつとめ習ふべし。醫生其術におろかなれば、天道にそむき、人をそこなふのみならず、我が身の福なく、人に卑しめらる。其術にくらくして知らざれば、いつはりを言ひ、みづから我術をてらひ、他醫をそしり、人のあはれみを求めへつらへるは賤むべし。醫は三世をよしとする事、禮記に見えたり。醫の子孫相つゞきて、其才を生れ附きたらば、世々家業をつぎたるがよかるべし。如此なるは稀なり。三世とは、父子孫にかゝはらず、師弟子相傳へて三世なれば、其業くはし。此說然るべし。もし其才なくば、醫の子なりとも醫とすべからず。他の業を習はしむべし。不得手なるわざを以て家業とすべからず。

新字:それをつとめ習ふべし。医生其術におろかなれば、天道にそむき、人をそこなふのみならず、我が身の福なく、人に卑しめらる。其術にくらくして知らざれば、いつはりを言ひ、みづから我術をてらひ、他医をそしり、人のあはれみを求めへつらへるは賤むべし。医は三世をよしとする事、礼記に見えたり。医の子孫相つゞきて、其才を生れ附きたらば、世々家業をつぎたるがよかるべし。如此なるは稀なり。三世とは、父子孫にかゝはらず、師弟子相伝へて三世なれば、其業くはし。此説然るべし。もし其才なくば、医の子なりとも医とすべからず。他の業を習はしむべし。不得手なるわざを以て家業とすべからず。

書き下し

それをつとめ習ふべし。医生其術におろかなれば、天道にそむき、人をそこなふのみならず、我が身の福なく、人に卑しめらる。其術にくらくして知らざれば、いつはりを言ひ、みづから我術をてらひ、他医をそしり、人のあはれみを求めへつらへるは賤むべし。医は三世をよしとする事、礼記に見えたり。医の子孫相つづきて、其才を生れ附きたらば、世々家業をつぎたるがよかるべし。如此なるは稀なり。三世とは、父子孫にかかはらず、師弟子相伝へて三世なれば、其業くはし。此説然るべし。もし其才なくば、医の子なりとも医とすべからず。他の業を習はしむべし。不得手なるわざを以て家業とすべからず。

現代語訳

それを努めて習うべきです。医者でありながらその術に愚かであれば、天道にそむき、人をそこなうだけでなく、自分にも福がなく、人にいやしめられます。その術に暗くて知らなければ、うそを言い、自分で自分の術を見せびらかし、他の医者をそしり、人の同情を求めてへつらうのは、いやしむべきことです。医は三代続いたものをよしとすることが『礼記』に見えます。医者の子孫が続いて、その才を生まれつき持っていれば、代々家業を継ぐのがよいでしょう。このような者はまれです。三世とは、父・子・孫にかかわらず、師と弟子が伝えて三代になれば、その業は詳しくなる、という意味です。この説はもっともです。もしその才がなければ、医者の子であっても医者にしてはいけません。ほかの業を習わせるべきです。得意でないわざを家業としてはいけません。

解説

医術の未熟な者のふるまいを戒め、医の家業の継ぎ方を論じた単位です。『礼記』曲礼にある「医、三世ならざれば其の薬を服せず」の三世を、血筋ではなく師弟の相伝と解する説をよしとし、才のない子に家業だからと医を継がせるなと述べています。世襲が当然だった江戸時代に、家より才能と適性を重んじたこの主張は注目に値します。家業や親の期待より本人の向き不向きを大切にするという考えは、今の進路や事業承継を考えるうえでも示唆に富みます。

この章句が説くこと

医者家業才能継承礼記

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