養生訓 / 巻第五・五官
一凡衣をあつく著、あつき火にあたり、あつき湯に浴し、久しく浴し、熱物を食して、身をあたゝめ過せば、氣外にもれて、氣へり、氣のぼる。是皆人の身に甚だ害あり、いましむべし。一貴人の前に久しく侍り、或は公廨に久しく坐して、足しびれ、にはかに立つ事ならずして、倒れふす事あり。立たんとする前より、かねてみづから、足の左右の大指をしばしば動かし、伸屈すべし。かやうにすれば、痺痿えずして、立ちがたきのうれひなし。平日、時々兩足の大指をのべかゞめ、きびしくしてならひとなれば、轉筋のうれひなし。又轉筋したる時も、足の大指をしばしば動かせば止む。是急を治するの法なり、知るべし。上氣する人も、兩足をのべて、大指をしばしば動かすべし、氣下る。此の法亦人に益あり。
新字:一凡衣をあつく著、あつき火にあたり、あつき湯に浴し、久しく浴し、熱物を食して、身をあたゝめ過せば、気外にもれて、気へり、気のぼる。是皆人の身に甚だ害あり、いましむべし。一貴人の前に久しく侍り、或は公廨に久しく坐して、足しびれ、にはかに立つ事ならずして、倒れふす事あり。立たんとする前より、かねてみづから、足の左右の大指をしばしば動かし、伸屈すべし。かやうにすれば、痺痿えずして、立ちがたきのうれひなし。平日、時々両足の大指をのべかゞめ、きびしくしてならひとなれば、転筋のうれひなし。又転筋したる時も、足の大指をしばしば動かせば止む。是急を治するの法なり、知るべし。上気する人も、両足をのべて、大指をしばしば動かすべし、気下る。此の法亦人に益あり。
書き下し
一凡衣をあつく著、あつき火にあたり、あつき湯に浴し、久しく浴し、熱物を食して、身をあたため過せば、気外にもれて、気へり、気のぼる。是皆人の身に甚だ害あり、いましむべし。一貴人の前に久しく侍り、或は公廨に久しく坐して、足しびれ、にはかに立つ事ならずして、倒れふす事あり。立たんとする前より、かねてみづから、足の左右の大指をしばしば動かし、伸屈すべし。かやうにすれば、痺痿えずして、立ちがたきのうれひなし。平日、時々両足の大指をのべかがめ、きびしくしてならひとなれば、転筋のうれひなし。又転筋したる時も、足の大指をしばしば動かせば止む。是急を治するの法なり、知るべし。上気する人も、両足をのべて、大指をしばしば動かすべし、気下る。此の法亦人に益あり。
現代語訳
およそ衣服を厚く着たり、熱い火にあたったり、熱い湯に入ったり、長く湯に入ったり、熱い物を食べたりして、体を温めすぎれば、気が外に漏れて、気が減り、気がのぼります。これはみな人の体にたいへん害があるので、戒めるべきです。身分の高い人の前に長く控えていたり、役所に長く座っていたりして、足がしびれ、急に立つことができずに倒れ伏すことがあります。立とうとする前から、前もって自分で足の左右の親指をしばしば動かし、伸ばしたり曲げたりすべきです。このようにすれば、しびれて萎えることがなく、立てなくなる心配はありません。ふだんから時々両足の親指を伸ばしたり曲げたりし、しっかりと習慣にしておけば、こむら返りの心配はありません。またこむら返りしたときも、足の親指をしばしば動かせば止まります。これは急を治す方法であり、知っておくべきです。のぼせる人も、両足を伸ばして親指をしばしば動かすべきです、気が下ります。この方法もまた人に益があります。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『養生訓』巻第五・五官一五更に起きて坐し、一手にて足の五指をにぎり、一手にて足の心を撫でさする事、久しくすべし。如此して足心熱せば、両手を用ひて、両足の指を動すべし。右の法、奴婢にも命じて、かくのごとくせしむ。或は云、五更にかぎらず、毎夜おきて坐し、如此する事久しければ、足の病なし。上気を下し、足よわく立ちがたきを治す。久しくして怠らざれば、脚のよわきをつよくし、足の立ちかぬるをよく癒す。甚しるしある事を古人いへり。養老寿親書、及び東坡が説にも見えたり。
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『養生訓』巻第五・五官閑暇ある人は、日々かくの如くす。又奴婢児童にをしへて、跗を撫でさせ、足心をしきりにすらせ、熱生じてやむ。又足の指を引かしむ。朝夕如此すれば、気下り、気めぐり、足の痛を治す。甚益あり。遠方へ歩行せんとする時、又は歩行して後、足心を右のごとく按すべし。
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『養生訓』巻第五・五官一膝より下のはぎのおもてうらを、人をして手を以てしばしば撫でくださせ、足の甲をなで、其後足のうらをしきりに多く撫で、足の十指を引かすれば、気を下しめぐらす。みづからするは尤よし。是良法なり。一気のよくめぐりて快き時に、導引按摩すべからず。又冬月按摩を忌む事、内経に見えたり。身を労動して気上る病には、導引按摩ともにあしし。只身をしづかに動かし歩行する事は、四時ともによし。尤飯後によろし。湧泉の穴を撫づる事も、四時ともによし。
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『養生訓』巻第五・五官一坐するには正坐すべし、かたよるべからず。燕居には安坐すべし、膝をかがむべからず。又よりより牀几にこしかけ居れば、気めぐりてよし。中夏の人は常にかくのごとくす。一常に居る室も、常に用ふる器も、かざりなく質朴にして、けがれなく潔かるべし。居室は風寒をふせぎ、身をおくに安からしむべし。器は用をかなへて、事欠けざれば事足りぬ。華美を好めばくせとなり、おごりむさぼりの心おこりて、心を苦しめ、事多くなる。養生の道に害あり。坐する処、臥す処、少しも透間あらば塞ぐべし。すき間の風と、吹き通す風は、人のはだへに通りやすくして病おこる。おそるべし。夜臥して、耳辺に風の来る穴あらば、ふさぐべし。
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『養生訓』巻第六・慎病一冬は天地の陽気とぢかくれ、人の血気をさまる時なり。心気を閑にしをさめて保つべし。あたため過して、陽気を発し泄すべからず、上気せしむべからず。衣服をあぶるに、少しあたためてよし。熱きを忌む。衣を多くかさね、又は火気を以て、身をあたため過すべからず。熱湯に浴すべからず。労力して汗を発し、陽を泄すべからず。
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『養生訓』巻第二・総論下およそ人の身、慾をすくなくし、時々身をうごかし、手足をはたらかし歩行して、久しく一所に安坐せざれば、血気めぐりて滞らず。養生の要務なり。日々かくのごとくすべし。呂氏春秋に曰く、流水は腐らず、戸枢は螻まず、動けばなり、形気も亦然り。いふ意は、流水は腐らず、たまり水はくさる。から戸のぢくの下のくるるは虫くはず。此二のものは、つねに動く故わざはひなし。人の身も亦かくの如し。一所に久しく安坐してうごかざれば、飲食とどこほり、血気めぐらずして病を生ず。食後に臥すと、昼臥すと、尤禁ずべし。夜も飲食の消化せざる内に早く臥せば、気をふさぎ病を生ず。是養生の道において尤いむべし。
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