養生訓 / 巻第五・五官
一入門に曰、年四十以上は、事なき時は、つねに目を瞑ぎて宜し。要事なくんば開くべからず。一衾爐は爐上に櫓をまうけ、衾をかけて、火を入れ、身をあたゝむ。俗にこたつと云ふ。是にあたれば、身をあたゝめ過し、氣ゆるまり、身おこたり、氣を上せ、目をうれふ。只中年以上の人は、火をぬるくしてあたり、寒をふせぐべし。足を出して箕踞すべからず。わかき人は用ふる事なかれ。わかき人は、嚴寒の時、只爐火に對し、又たき火にあたるべし。身をあたゝめ過すべからず。
新字:一入門に曰、年四十以上は、事なき時は、つねに目を瞑ぎて宜し。要事なくんば開くべからず。一衾炉は炉上に櫓をまうけ、衾をかけて、火を入れ、身をあたゝむ。俗にこたつと云ふ。是にあたれば、身をあたゝめ過し、気ゆるまり、身おこたり、気を上せ、目をうれふ。只中年以上の人は、火をぬるくしてあたり、寒をふせぐべし。足を出して箕踞すべからず。わかき人は用ふる事なかれ。わかき人は、厳寒の時、只炉火に対し、又たき火にあたるべし。身をあたゝめ過すべからず。
書き下し
一入門に曰、年四十以上は、事なき時は、つねに目を瞑ぎて宜し。要事なくんば開くべからず。一衾炉は炉上に櫓をまうけ、衾をかけて、火を入れ、身をあたたむ。俗にこたつと云ふ。是にあたれば、身をあたため過し、気ゆるまり、身おこたり、気を上せ、目をうれふ。只中年以上の人は、火をぬるくしてあたり、寒をふせぐべし。足を出して箕踞すべからず。わかき人は用ふる事なかれ。わかき人は、厳寒の時、只炉火に対し、又たき火にあたるべし。身をあたため過すべからず。
現代語訳
『医学入門』に、「年が四十以上の人は、用事のないときはいつも目を閉じているのがよい。大事な用事がなければ開いてはならない」とあります。衾炉は、炉の上にやぐらを設け、布団をかけて火を入れ、体を温めるものです。俗にこたつといいます。これにあたると、体を温めすぎて気がゆるみ、体がだらけ、のぼせて目を患います。ただ中年以上の人は、火をぬるくしてあたり、寒さを防ぐのがよいでしょう。足を投げ出して座ってはいけません。若い人は用いてはいけません。若い人は、厳寒のときにはただ炉の火に向かい、またたき火にあたるのがよいです。体を温めすぎてはいけません。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『養生訓』巻第五・五官一頭辺に火炉をおくべからず、気上る。一東垣曰、にはかに風寒にあひて、衣うすくば、一身の気をはりて、風寒をふせぎ、肌に入らしむべからず。一めがねを靉靆と云ふ。留青日札と云ふ書に見えたり。又眼鏡と云ふ。四十歳以後は、早くめがねをかけて、眼力を養ふべし。和水晶よし。拭ふに、きぬを以て、両指にてさしはさみて拭ふべし。或は羅紗を以てぬぐふ。硝子はくだけやすし、水晶におとれり。硝子は灯心にてぬぐふべし。
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『養生訓』巻第五・五官一坐するには正坐すべし、かたよるべからず。燕居には安坐すべし、膝をかがむべからず。又よりより牀几にこしかけ居れば、気めぐりてよし。中夏の人は常にかくのごとくす。一常に居る室も、常に用ふる器も、かざりなく質朴にして、けがれなく潔かるべし。居室は風寒をふせぎ、身をおくに安からしむべし。器は用をかなへて、事欠けざれば事足りぬ。華美を好めばくせとなり、おごりむさぼりの心おこりて、心を苦しめ、事多くなる。養生の道に害あり。坐する処、臥す処、少しも透間あらば塞ぐべし。すき間の風と、吹き通す風は、人のはだへに通りやすくして病おこる。おそるべし。夜臥して、耳辺に風の来る穴あらば、ふさぐべし。
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『養生訓』巻第五・五官翌朝おきんとする時、又足をのべてあたたむべし。又ふたの熱きを木棉袋に入れて、腹と腰をあたたむ。葢二三こしらへ置き、とりかへて腹腰をあたたむべし。取手なきふたを以ては、腰をあたたむ。腰の下に敷くべし。温石より速に熱くなりて自由なり。急用に備ふべし。腹中の食滞気滞をめぐらして、消化しやすき事、温石並に薬石よりはやし。甚要用の物なり。此事知れる人すくなし。
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『養生訓』巻第五・五官一凡衣をあつく著、あつき火にあたり、あつき湯に浴し、久しく浴し、熱物を食して、身をあたため過せば、気外にもれて、気へり、気のぼる。是皆人の身に甚だ害あり、いましむべし。一貴人の前に久しく侍り、或は公廨に久しく坐して、足しびれ、にはかに立つ事ならずして、倒れふす事あり。立たんとする前より、かねてみづから、足の左右の大指をしばしば動かし、伸屈すべし。かやうにすれば、痺痿えずして、立ちがたきのうれひなし。平日、時々両足の大指をのべかがめ、きびしくしてならひとなれば、転筋のうれひなし。又転筋したる時も、足の大指をしばしば動かせば止む。是急を治するの法なり、知るべし。上気する人も、両足をのべて、大指をしばしば動かすべし、気下る。此の法亦人に益あり。
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『養生訓』巻第五・五官一髪はおほくけづるべし。気をめぐらし、上気をくだす。櫛の歯しげきは、髪ぬけやすくしてあしし。牙歯はしばしばたたくべし。歯をかたくし、虫ばまず。時々両の手を合せすりてあたため、両眼をあたためのすべし。目を明らかにし、風をさる。よつて髪ぎはより、下額と面を、上より下になづる事二七遍、古人、両手はつねに面に在るべしと云へるは、時々両手にて面を撫つべしとなり。如此すれば、気をめぐらし、上気をくだし、面色をうるはしくす。左右の中指を以て、鼻の両わきを多くなで、両耳の根を多くなづべし。
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『養生訓』巻第五・五官一夜臥すに、衣を以て面をおほふべからず、気をふさぎ、気上る。夜臥すに、灯をともすべからず、魂魄定らず。もしともさば、灯をかすかにしてかくすべし。ねぶるに口を閉づべし。口をひらきてねぶれば、真気を失ひ、又牙歯早くおつ。
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