養生訓 / 巻第四・慎色慾
是天神地祇に對しておそれつゝしむと、わが身において病を愼むなり。若是を愼まざれば、神祇のとがめおそるべし。男女共に病を生じ壽を損ず。生るゝ子も亦形も心も正しからず、或はかたはとなる。禍ありて福なし。古人は胎敎とて、婦人懷姙の時より愼める法あり。房室の戒は胎敎の前にあり。是天地神明の照臨し給ふ所尤おそるべし。我身及び妻子の禍も亦おそるべし。胎敎の前此戒なくんばあるべからず。一小便を忍びて房事を行ふべからず、龍腦、麝香を服して房に入るべからず。一入門曰、婦人懷胎の後交合して、慾火を動かすべからず。一腎は五藏の本、脾は滋養の源なり。こゝを以て人身は脾腎を本源とす、草木の根本あるが如し。保ち養つて堅固にすべし。本固ければ身安し。
新字:是天神地祇に対しておそれつゝしむと、わが身において病を慎むなり。若是を慎まざれば、神祇のとがめおそるべし。男女共に病を生じ寿を損ず。生るゝ子も亦形も心も正しからず、或はかたはとなる。禍ありて福なし。古人は胎教とて、婦人懐姙の時より慎める法あり。房室の戒は胎教の前にあり。是天地神明の照臨し給ふ所尤おそるべし。我身及び妻子の禍も亦おそるべし。胎教の前此戒なくんばあるべからず。一小便を忍びて房事を行ふべからず、竜脳、麝香を服して房に入るべからず。一入門曰、婦人懐胎の後交合して、慾火を動かすべからず。一腎は五蔵の本、脾は滋養の源なり。こゝを以て人身は脾腎を本源とす、草木の根本あるが如し。保ち養つて堅固にすべし。本固ければ身安し。
書き下し
是天神地祇に対しておそれつつしむと、わが身において病を慎むなり。若是を慎まざれば、神祇のとがめおそるべし。男女共に病を生じ寿を損ず。生るる子も亦形も心も正しからず、或はかたはとなる。禍ありて福なし。古人は胎教とて、婦人懐姙の時より慎める法あり。房室の戒は胎教の前にあり。是天地神明の照臨し給ふ所尤おそるべし。我身及び妻子の禍も亦おそるべし。胎教の前此戒なくんばあるべからず。一小便を忍びて房事を行ふべからず、竜脳、麝香を服して房に入るべからず。一入門に曰く、婦人懐胎の後交合して、慾火を動かすべからず。一腎は五蔵の本、脾は滋養の源なり。ここを以て人身は脾腎を本源とす、草木の根本あるが如し。保ち養つて堅固にすべし。本固ければ身安し。
現代語訳
これは天の神・地の神に対して恐れ慎むことと、わが身において病を慎むことです。もしこれを慎まなければ、神々のとがめが恐ろしいものです。男女ともに病を生じ、寿命をそこないます。生まれる子もまた形も心も正しくなく、あるいは体に障害をもつこともあります。災いがあって福はありません。古人は胎教といって、女性が妊娠したときから慎む法がありました。房室の戒めは胎教より前にあるものです。これは天地の神々が照らし見ておられるところで、もっとも恐れるべきです。わが身と妻子の災いもまた恐れるべきです。胎教の前に、この戒めがなくてはなりません。小便を我慢して房事を行ってはいけません。竜脳や麝香を服用して寝所に入ってはいけません。『医学入門』に、「女性が妊娠した後は、交わって欲の火を動かしてはならない」とあります。腎は五臓の本であり、脾は滋養の源です。ですから人の体は脾と腎を根本とします。草木に根があるのと同じです。保ち養って堅固にすべきです。根本が固ければ体は安らかです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『養生訓』巻第四・慎色慾一素問に、腎者五蔵の本といへり、然らば養生の道腎を養ふ事を重ずべし。腎を養ふ事薬補をたのむべからず。只精気を保ちてへらさず、腎気ををさめて動すべからず。論語に曰、若き時は血気方に壮なり、戒之在色。聖人の戒守るべし。血気さかんなるにまかせ色慾をほしいままにすれば、必ず先礼法をそむき、法外を行ひ、恥辱を取つて、面目をうしなふ事あり。時過ぎて後悔すれどもかひなし。かねて後悔なからん事を思ひ、礼法をかたく慎むべし。況や精気をつひやし、元気をへらすは寿命をみじかくする本なり、おそるべし。年若き時より男女の欲ふかくして、精気を多くへらしたる人は、生れつきさかんなれども、下部の元気すくなくなり、五蔵の根本よわくして、必ず短命なり。つつしむべし。飲食男女は人の大欲なり。恣になりやすき故、此の二事尤かたく慎むべし。是をつつしまざれば脾胃の真気へりて、薬補食補のしるしなし。老人は殊に脾胃の真気を保養すべし、補薬のちからをたのむべからず。
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『養生訓』巻第四・慎色慾然れば、これ気をめぐらし、精気をたもつ良法なるべし。四十歳以上、猶血気甚衰へざれば、情慾を絶つ事は忍びがたかるべし。忍べば却て害あり。もし年老いてしばしばもらせば大に害あり。故に時にしたがつて此法を行ひて、情慾をやめ、精気をたもつべしとなり。是によりて精気をつひやさずんば、しばしば交接するも、精も気も少しももれずして、当時の情慾はやみぬべし。是古人の教、情慾の絶ちがたきをおさへずして、精気をたもつ良法なるべし。人身は脾胃の養を本とすれども、腎気堅固にしてさかんなれば、丹田の火蒸し上げて、脾土の気も亦温和にして盛になる故、古人の曰く、脾を補ふは腎を補ふに如かず。若年より精気ををしみ、四十以後、弥精気をたもちて泄さず、是命の根源を養ふ道なり。
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『養生訓』巻第四・慎色慾一房室の戒多し。殊に天変の時をおそれいましむべし。日蝕、月蝕、雷電、大風、大雨、大暑、大寒、虹蜺地震、此時房事をいましむべし。春月雷初めて声を発する時夫婦の事を忌む。又土地につきては、凡神明の前をおそるべし。日月星の下、神祠の前、わが父祖の神主の前、聖賢の像の前、是皆おそるべし。且我が身の上につきて時の禁あり。病中病後、元気いまだ本復せざる時、殊に、傷寒、時疫、瘧疾の後、腫物、癰疽いまだいえざる時、気虚労損の後、飽渇の時、大酔大飽の時、身労動し、遠路行歩につかれたる時、忿り、悲み、うれひ、驚きたる時、交接を忌む。冬至の前五日、冬至の後十日、静養して精気を泄すべからず。又女子の経水いまだ尽きざる時、皆交合を禁ず。
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『養生訓』巻第四・慎色慾一わかく盛なる人は、殊に男女の情慾かたく慎みて、過すくなかるべし。慾念をおこさずして、腎気をうごかすべからず。房事を快くせんために、烏頭附子等の熱薬飲むべからず。一達生録に曰く、男子年いまだ二十ならざる者、精気いまだ足らずして慾火うごきやすし。たしかに交接を慎むべし。
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『養生訓』巻第四・慎色慾一孫真人が千金方に、房中補益説あり。年四十に至らば房中の術を行ふべしとて、其説頗詳なり。其大意は、四十以後血気やうやく衰ふる故、精気をもらさずして、只しばしば交接すべし、如此すれば元気へらず、血気めぐりて補益となるといへる意なり。ひそかに思ふに、四十以上の人、血気いまだ大に衰へずして、槁木死灰の如くならず、情慾忍びがたし。然るに精気をしばしばもらせば、大に元気をつひやす故、老年の人に宜しからず。ここを以て、四十以上の人は交接のみしばしばにして、精気をば泄らすべからず。四十以後は腎気やうやく衰ふる故、泄さざれども壮年のごとく精気動かずして、滞らず、此法行ひやすし。此法を行へば、泄さずして情慾は遂げやすし。
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『養生訓』巻第四・慎色慾一情慾をおこさずして、腎気動かざれば害なし、若情慾をおこし、腎気うごきて、精気を忍んでもらさざれば、下部に気滞りて瘡癤を生ず。はやく温湯に浴し、下部をよくあたたむれば、滞れる気めぐりて鬱滞なく、腫物などのうれひなし。此術また知るべし。
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