養生訓 / 巻第四・飲食下
一炙肉すでに炙りて、又熱湯に少しひたし、水毒を去りて食ふべし。不然ば津液をかわかす。又能く喉痹を發す。一茄子、本草等の書に、性不好と云ふ。生なるは毒あり、食ふべからず。煮たるも、瘧痢傷寒などには誠に忌むべし。他病には、皮を去り、切りて米泔に浸し、一夜か半日を歴て、やはらかに煮て食す、害なし。葛粉、水に溲ねて、切りて線條とし、水にて煮又豉汁に堅魚の末を加へ、再び煮て食す。瀉を止め胃を補ふ。保養に益あり。一胃虛弱の人は、蘿蔔、胡蘿蔔、芋、薯蕷、牛蒡など、うすく切りてよく煮たる、食ふべし。大にあつく切りたると、煮ていまだ熟せざると、皆脾胃をやぶる。一度うす豆豉か薄じやうゆにて煮、其汁にひたし置き、半日か一夜か間置きて、再び前の汁にて煮れば、大に切りたるも害なし、味よし。鷄肉、野猪肉なども如此すべし。
新字:一炙肉すでに炙りて、又熱湯に少しひたし、水毒を去りて食ふべし。不然ば津液をかわかす。又能く喉痹を発す。一茄子、本草等の書に、性不好と云ふ。生なるは毒あり、食ふべからず。煮たるも、瘧痢傷寒などには誠に忌むべし。他病には、皮を去り、切りて米泔に浸し、一夜か半日を歴て、やはらかに煮て食す、害なし。葛粉、水に溲ねて、切りて線条とし、水にて煮又豉汁に堅魚の末を加へ、再び煮て食す。瀉を止め胃を補ふ。保養に益あり。一胃虚弱の人は、蘿蔔、胡蘿蔔、芋、薯蕷、牛蒡など、うすく切りてよく煮たる、食ふべし。大にあつく切りたると、煮ていまだ熟せざると、皆脾胃をやぶる。一度うす豆豉か薄じやうゆにて煮、其汁にひたし置き、半日か一夜か間置きて、再び前の汁にて煮れば、大に切りたるも害なし、味よし。鶏肉、野猪肉なども如此すべし。
書き下し
一炙肉すでに炙りて、又熱湯に少しひたし、水毒を去りて食ふべし。不然ば津液をかわかす。又能く喉痹を発す。一茄子、本草等の書に、性不好と云ふ。生なるは毒あり、食ふべからず。煮たるも、瘧痢傷寒などには誠に忌むべし。他病には、皮を去り、切りて米泔に浸し、一夜か半日を歴て、やはらかに煮て食す、害なし。葛粉、水に溲ねて、切りて線条とし、水にて煮又豉汁に堅魚の末を加へ、再び煮て食す。瀉を止め胃を補ふ。保養に益あり。一胃虚弱の人は、蘿蔔、胡蘿蔔、芋、薯蕷、牛蒡など、うすく切りてよく煮たる、食ふべし。大にあつく切りたると、煮ていまだ熟せざると、皆脾胃をやぶる。一度うす豆豉か薄じやうゆにて煮、其汁にひたし置き、半日か一夜か間置きて、再び前の汁にて煮れば、大に切りたるも害なし、味よし。鶏肉、野猪肉なども如此すべし。
現代語訳
焼いた肉は、焼いたあと熱湯に少しひたし、水毒を除いてから食べるべきです。そうしないと体の津液(うるおい)を乾かします。また喉痹(のどの腫れ痛み)をおこしやすくなります。茄子は、本草などの書物に性質がよくないと書かれています。生のものは毒があり、食べてはいけません。煮たものでも、瘧(おこり)や痢病、傷寒などの病には本当に避けるべきです。ほかの病気のときは、皮をむき、切って米のとぎ汁に浸し、一晩か半日おいてからやわらかく煮て食べれば害はありません。葛粉を水でこね、切って麺のように細長くし、水で煮るか、または豆豉の汁に鰹節の粉を加えてもう一度煮て食べます。これは下痢を止め、胃を補い、保養に役立ちます。胃の弱い人は、大根、人参、芋、山芋、牛蒡などを薄く切ってよく煮たものを食べるべきです。大きく厚く切ったものや、煮えきっていないものは、みな脾胃をそこないます。一度、薄い豆豉の汁か薄い醤油で煮て、その汁にひたしておき、半日か一晩おいてから、再び前の汁で煮れば、大きく切ったものも害がなく、味もよくなります。鶏肉や猪肉などもこのようにするべきです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『養生訓』巻第三・飲食上一脾虚の人は、生魚をあぶりて食するに宜し。煮たるよりつかへず。小魚は煮て食するに宜し。大なる生魚はあぶりて食ひ、或は煎酒を熱くして、生薑わさびなど加へ、浸し食すれば害なし。一大魚は小魚より油多くつかへやすし。脾虚の人は多食すべからず。薄く切りて食へばつかへず。大なる鯉、鮒大に切り、或は全身を煮たるは、気をふさぐ、うすく切るべし。蘿蔔、胡蘿蔔、南瓜、菘根なども、大に厚く切りて煮たるは、つかへやすし。薄く切りて煮るべし。
-
『養生訓』巻第三・飲食上一脾胃虚して生菜を忌む人は、乾菜を煮食ふべし。冬月蘿蔔をうすく切りて、生ながら日に乾す。蓮根、牛蒡、薯蕷、うどの根、いづれもうすく切りて煑てほす。椎蕈、松露、石茸も、乾したるよし。松蕈、塩漬よし。壺盧切りて塩に一夜つけ、おしをかけ置きて、ほしたるがよし。瓠畜もよし。白芋の茎、熱湯をかけ日にほす。是皆虚人の食するに宜し。枸杞、五加、莧菊蘿摩、鼓子花葉など、わか葉をむし、煑てほしたるをあつ物とし、味噌にてあへ物とす。菊花は生にてほす。皆虚人に宜し。老葉はこはし。海菜は冷性なり。老人虚人に宜しからず。昆布多く食へば気をふさぐ。
-
『養生訓』巻第三・飲食上一酒食を過し、或は時ならずして飲食し、生冷の物、性あしく病をおこす物を食ひて、しばしば泄瀉すれば、必ず胃気へる。久しくかさなりては、元気衰へて短命なり。つつしむべし。一塩と酢と辛き物と、此三味を多く食ふべからず。此三味を多く食ひ、渇きて湯を多くのめば、湿を生じ脾をやぶる。湯、茶、羹多く飲むべからず。右の三味を食つて、大にかわかば、葛の粉か天花粉を、熱湯にたてて呑んで、渇をとどむべし。多く湯をのむ事をやめんがためなり。葛などのねば湯は気をふさぐ。
-
『養生訓』巻第四・飲食下一萊菔、菘薯蕷、芋、慈姑、胡蘿蔔、南瓜、大葱白等の甘き菜は、大に切りて煮食すれば、つかへて気をふさぎ、腹痛す。薄く切るべし。或は辛き物をくはへ、又物により、酢を少し加ふるもよし。再び煮る事を右に記せり。又如此の物、一時に二三品くらふべからず。又甘き菜の類、およそつかへやすき物、つづけ食ふべからず。生魚肥肉、厚味の物、つづけ食ふべからず。
-
『養生訓』巻第三・飲食上一清き物、かうばしき物、もろく和かなる物、味かろき物、性よき物、此五の物をこのんで食ふべし。益ありて損なし。是に反する物食ふべからず。此事もろこしの書にも見えたり。一衰病虚弱の人は、つねに魚鳥の肉を味よくして、少しづつ食ふべし。参芪の補にまされり。性よき生魚を烹炙よくすべし。塩つけて一両日過ぎたる、尤よし。久しければ味よからず、且滞りやすし。生魚の肉、豉につけたるを炙り煮て食ふもよし。夏月は久しくたもたず。
-
『養生訓』巻第三・飲食上一食は身をやしなふ物なり。身を養ふ物を以て、かへつて身をそこなふべからず。故に、凡食物は、性よくして身をやしなふに益ある物を、つねにえらんで食ふべし。益なくして損ある物、味よしとても食ふべからず。温補して気をふさがざる物は益あり。生冷にして瀉下し、気をふさぎ腹はる物、辛くして熱ある物、皆損あり。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る