養生訓 / 巻第四・飲食下
一松蕈、竹筍、豆腐など、味すぐれたる野菜は、只一種煮て食すべし。他物と兩種合せ煮れば味おとる。李笠翁が閑情寓寄にかくいへり。味あしければ腸胃に相應せずして、養とならず。一餻餌の新に成りて、再び煮ず、あぶらずして、卽ち食するは、消化しがたし。蒸したるより煮たるが、やはらかにして消化しやすし。餻は數日の後燒き煮て食ふに宜し。一朝食肥濃の物ならば、晩食は必ず淡薄に宜し。晩食豐腴ならば、明朝の食は輕くすべし。一諸の食物、陽氣の生理ある新しきを食ふべし、毒なし。日久しく歷たる陰氣鬱滯せる物、食ふべからず、害あり。煮過して飪を失へるも同じ。
新字:一松蕈、竹筍、豆腐など、味すぐれたる野菜は、只一種煮て食すべし。他物と両種合せ煮れば味おとる。李笠翁が閑情寓寄にかくいへり。味あしければ腸胃に相応せずして、養とならず。一餻餌の新に成りて、再び煮ず、あぶらずして、即ち食するは、消化しがたし。蒸したるより煮たるが、やはらかにして消化しやすし。餻は数日の後焼き煮て食ふに宜し。一朝食肥濃の物ならば、晩食は必ず淡薄に宜し。晩食豊腴ならば、明朝の食は軽くすべし。一諸の食物、陽気の生理ある新しきを食ふべし、毒なし。日久しく歴たる陰気鬱滞せる物、食ふべからず、害あり。煮過して飪を失へるも同じ。
書き下し
一松蕈、竹筍、豆腐など、味すぐれたる野菜は、只一種煮て食すべし。他物と両種合せ煮れば味おとる。李笠翁が閑情寓寄にかくいへり。味あしければ腸胃に相応せずして、養とならず。一餻餌の新に成りて、再び煮ず、あぶらずして、即ち食するは、消化しがたし。蒸したるより煮たるが、やはらかにして消化しやすし。餻は数日の後焼き煮て食ふに宜し。一朝食肥濃の物ならば、晩食は必ず淡薄に宜し。晩食豊腴ならば、明朝の食は軽くすべし。一諸の食物、陽気の生理ある新しきを食ふべし、毒なし。日久しく歴たる陰気鬱滞せる物、食ふべからず、害あり。煮過して飪を失へるも同じ。
現代語訳
松茸、筍、豆腐など、味のすぐれた野菜は、ただ一種類だけで煮て食べるのがよいです。他の物と二種類合わせて煮ると味が落ちます。李笠翁が『閑情寓寄』でそのように言っています。味が悪ければ胃腸に合わず、養いになりません。餅や団子は、できたてのものを煮直しもあぶりもせずにそのまま食べると消化しにくいものです。蒸したものより煮たもののほうがやわらかで消化しやすいです。餅は数日たってから焼くか煮るかして食べるのがよいです。朝食が脂っこく濃いものであれば、夕食は必ずあっさりしたものにするのがよいです。夕食が豊かであれば、翌朝の食事は軽くすべきです。あらゆる食物は、陽気の生きた力のある新しいものを食べるべきで、それには毒がありません。日数を経て陰気がこもったものは食べてはいけません、害があります。煮すぎて煮えばなを失ったものも同じです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『養生訓』巻第三・飲食上一諸の食物、皆あたらしき生気ある物をくらふべし。ふるくして臭あしく、色も味もかはりたる物、皆気をふさぎて滞りやすし。くらふべからず。一すける物は、脾胃のこのむ所なれば、補となる。李笠翁も、本性甚すける物は薬にあつべしといへり。尤此理あり。されど、すけるままに多食すれば、必ずやぶられ、好まざる物を少し食ふにおとる。好む物を少し食はば益あるべし。
-
『養生訓』巻第三・飲食上晩食に飣の数多きは宜しからず。飣多く食ふべからず。魚鳥などの味の濃くあぶら有りて重き物、夕食にあしし。菜類も、薯蕷、胡蘿蔔、菘菜、芋根、慈姑などの如き、滞りやすく、気をふさぐ物、晩食に多く食ふべからず。食はざるは尤よし。一飯のすえり、魚のあざれ、肉のやぶれたる、色のあしき物、臭のあしき物、にえばなをうしなへる物くらはず。朝夕の食時にあらずんば、くらふべからず。又早くしていまだ熟せず、或はいまだ生ぜざる物、根を掘りとりて、芽だちをくらふの類、又時過ぎてさかりを失へる物、皆時ならざる物なり。くらふべからず。是論語にのする所、聖人の食し給はざる物なり。聖人身を慎み給ふ養生の一事なり、法とすべし。又肉は多けれども、飯の気に勝たしめずといへり。肉を多く食ふべからず。食は飯を本とす。何の食も飯より多かるべからず。
-
『養生訓』巻第三・飲食上一朝夕飯を食するごとに、初一椀は、羹ばかり食して飣を食せざれば、飯の正味をよく知りて、飯の味よし。後に五味の飣を食して、気を養ふべし。初より飣をまじへ食へば、飯の正味を失ふ。後に飣を食へば、飣多からずして足りやすし。是身を養ふによろしくて、又貧に処るによろし。魚鳥菜蔬の飣を多く食はずして、飯の味のよき事を知るべし。菜肉多く食へば、飯のよき味は知らず。貧民は飣肉ともしくして、飯と羹ばかり食ふ故に、飯の味よく、食滞の害なし。
-
『養生訓』巻第三・飲食上一飯はよく熟して、中心まで和かなるべし。こはく粘きを忌む。煖なるに宜し。羹は熱きに宜し。酒は夏月も温なるべし。冷飲は脾胃をやぶる。冬月も熱飲すべからず。気を上せ血液をへらす。一飯を炊ぐに法多し。たきぼしは壮実なる人に宜し。饙は、積聚気滞ある人に宜し。湯取飯は、脾胃虚弱の人に宜し。粘りて糊の如くなるは滞塞す。硬きは消化し難し、新穀の飯は性つよくして虚人はあしし。殊に早稲は気を動かす、病人に忌む。晩稲は性かろくしてよし。
-
『養生訓』巻第四・飲食下一炙肉すでに炙りて、又熱湯に少しひたし、水毒を去りて食ふべし。不然ば津液をかわかす。又能く喉痹を発す。一茄子、本草等の書に、性不好と云ふ。生なるは毒あり、食ふべからず。煮たるも、瘧痢傷寒などには誠に忌むべし。他病には、皮を去り、切りて米泔に浸し、一夜か半日を歴て、やはらかに煮て食す、害なし。葛粉、水に溲ねて、切りて線条とし、水にて煮又豉汁に堅魚の末を加へ、再び煮て食す。瀉を止め胃を補ふ。保養に益あり。一胃虚弱の人は、蘿蔔、胡蘿蔔、芋、薯蕷、牛蒡など、うすく切りてよく煮たる、食ふべし。大にあつく切りたると、煮ていまだ熟せざると、皆脾胃をやぶる。一度うす豆豉か薄じやうゆにて煮、其汁にひたし置き、半日か一夜か間置きて、再び前の汁にて煮れば、大に切りたるも害なし、味よし。鶏肉、野猪肉なども如此すべし。
-
『養生訓』巻第三・飲食上一食は身をやしなふ物なり。身を養ふ物を以て、かへつて身をそこなふべからず。故に、凡食物は、性よくして身をやしなふに益ある物を、つねにえらんで食ふべし。益なくして損ある物、味よしとても食ふべからず。温補して気をふさがざる物は益あり。生冷にして瀉下し、気をふさぎ腹はる物、辛くして熱ある物、皆損あり。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る