養生訓 / 巻第四・飲食下
一東坡曰、早晩の飮食、一爵一肉に過ぎず。尊客あれば三之。へらすべくして、ますべからず。我をよぶ者あれば、是を以てつぐ。一に曰、分を安んじて以て福を養ふ。二に曰、胃を寬くして以て氣を養ふ。三に曰、費をはぶきて以て財を養ふ。東坡が此法、儉約養生のため、ともにしかるべし。
新字:一東坡曰、早晩の飲食、一爵一肉に過ぎず。尊客あれば三之。へらすべくして、ますべからず。我をよぶ者あれば、是を以てつぐ。一に曰、分を安んじて以て福を養ふ。二に曰、胃を寛くして以て気を養ふ。三に曰、費をはぶきて以て財を養ふ。東坡が此法、倹約養生のため、ともにしかるべし。
書き下し
一東坡曰、早晩の飲食、一爵一肉に過ぎず。尊客あれば三之。へらすべくして、ますべからず。我をよぶ者あれば、是を以てつぐ。一に曰、分を安んじて以て福を養ふ。二に曰、胃を寛くして以て気を養ふ。三に曰、費をはぶきて以て財を養ふ。東坡が此法、倹約養生のため、ともにしかるべし。
現代語訳
蘇東坡はこう言いました。「朝晩の飲食は、酒一杯と肉一品を超えない。大切な客があれば三品にする。減らすことはあっても増やしてはならない。自分を招いてくれる人があれば、この法を伝えて守ってもらう。一つには、分に安んじて福を養う。二つには、胃をゆったりさせて気を養う。三つには、出費を省いて財を養う。」東坡のこの法は、倹約のためにも養生のためにも、どちらにもふさわしいものです。
解説
宋の文人蘇軾(東坡)が自らに課した食事の決まりを引き、倹約と養生が一つの行いで両立することを示した条です。分を知る、胃に余裕を残す、無駄な出費をしないという三つの「養」は、益軒が『養生訓』全体で説く腹八分と節度の考えにそのまま重なります。食べ過ぎを控えることが健康だけでなく家計や心の安定にもつながるという視点は、外食や付き合いの多い現代の暮らしにも、そのまま使える知恵といえるでしょう。
この章句が説くこと
倹約養生食事福腹八分
関連する章句
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『家道訓』巻之六・用財下一東坡がいへる蔬食の三養あり。蔬食とは、味の淡薄なるものを食するを云ふ。一には、分を安んじて以て福をやしなふ。是はおごらざるなり。二には、胃をゆるくして以て気をやしなふ。是は肥濃なる美味を多くくらへば、胃の気をやぶる故なり。三には、費を省きて以て財を養ふ。是淡薄なるものは財の費なきなり。是亦家をたもつに益ある法なり。
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『養生訓』巻第三・飲食上一俗のことばに、食をひかへ過せば、養たらずして痩せ衰ふと云ふ。是養生不知人の言なり。欲多きは人のうまれつきなれば、ひかへ過すと思ふが、よき程なるべし。一すける物にあひ、飢ゑたる時にあたり、味すぐれて珍美なる食にあひ、其品おほく前につらなるとも、よきほどのかぎりの外はかたく慎みて、其節にすぐすべからず。一飲み食ふものにむかへば、むさぼりの心すすみて、多きにすぐる事をおぼえざるは、つねの人のならひなり。酒食茶湯ともに、よきほどと思ふよりも、ひかへて七八分にて、猶も不足と思ふ時、早く止むべし。飲食して後には、必ず十分に満つるものなり。食する時十分と思へば、必ずあき満ちて、分に過ぎて病となる。
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『養生訓』巻第四・飲食下一朝夕一飣を用ふべし。其上に、醬か肉醢か、或は菹か、一品を加ふるもよし。あつものは、富める人も常に只一なるべし。客に饗するに、二用ふるは、本汁もし心に叶はずば、二の汁を用ひさせん為なり。常には無用の物なり。唐の高侍郎と云ひし人、兄弟あつものと肉を二にせず、朝夕一品のみ用ふ。晩食には、只蔔匏をくらふ。大根と夕がほとを云ふ。范忠宣と云ひし富貴の人、平生肉をかさねず。其倹約養生、二ながら則とすべし。
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『養生訓』巻第三・飲食上一珍美の食に対すとも、八九分にてやむべし。十分に飽き満つるは後の禍なり。少しの間欲をこらふれば後の禍なし。少し飲みくひて味のよきを知れば、多く飲みくひて飽き満ちたるに其楽同じく、且後の災なし。万の事十分に至れば、必ずわざはひとなる。飲食尤満意を忌むべし。又初に慎めば、必ず後の禍なし。
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『養生訓』巻第三・飲食上一凡飲食をひかへこらふる事、久しき間にあらず、飲食する時、須臾の間欲を忍ぶにあり。又分量は多きにあらず、飯は只二三口、飣は只一二片、少しの欲をこらへて食せざれば害なし。酒も亦しかり。多飲の人も、少しこらへて酔ひ過ぎざれば害なし。
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『養生訓』巻第三・飲食上一湯は熱きをさまして、よき比の時飲むはよし。半沸の湯を飲めば腹はる。一食すくなければ、脾胃の中に空処ありて、元気めぐりやすく、食消化しやすくして、飲食する物、皆身の養となる。是を以て、病すくなくして身つよくなる。もし食多くして、腹中にみつれば、元気のめぐるべき道をふさぎ、すき間なくして、食消せず。是を以て、飲みくふ物、身の養とならず。滞りて元気の道をふさぎ、めぐらずして病となる。甚しければ、もだえて死す。是食過ぎて腹にみち、気ふさがりてめぐらざる故なり。食後に病おこり、或は頓死するは、此故なり。凡大酒大食する人は、必ず短命なり。早く止むべし。かへすがへす、老人は膓胃よわき故に、飲食にやぶれやすし、多く飲食すべからず。おそるべし。
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