養生訓 / 巻第三・飲食上
一湯は熱きをさまして、よき比の時飮むはよし。半沸の湯を飮めば腹はる。一食すくなければ、脾胃の中に空處ありて、元氣めぐりやすく、食消化しやすくして、飮食する物、皆身の養となる。是を以て、病すくなくして身つよくなる。もし食多くして、腹中にみつれば、元氣のめぐるべき道をふさぎ、すき間なくして、食消せず。是を以て、飮みくふ物、身の養とならず。滯りて元氣の道をふさぎ、めぐらずして病となる。甚しければ、もだえて死す。是食過ぎて腹にみち、氣ふさがりてめぐらざる故なり。食後に病おこり、或は頓死するは、此故なり。凡大酒大食する人は、必ず短命なり。早く止むべし。かへすがへす、老人は膓胃よわき故に、飮食にやぶれやすし、多く飮食すべからず。おそるべし。
新字:一湯は熱きをさまして、よき比の時飲むはよし。半沸の湯を飲めば腹はる。一食すくなければ、脾胃の中に空処ありて、元気めぐりやすく、食消化しやすくして、飲食する物、皆身の養となる。是を以て、病すくなくして身つよくなる。もし食多くして、腹中にみつれば、元気のめぐるべき道をふさぎ、すき間なくして、食消せず。是を以て、飲みくふ物、身の養とならず。滞りて元気の道をふさぎ、めぐらずして病となる。甚しければ、もだえて死す。是食過ぎて腹にみち、気ふさがりてめぐらざる故なり。食後に病おこり、或は頓死するは、此故なり。凡大酒大食する人は、必ず短命なり。早く止むべし。かへすがへす、老人は膓胃よわき故に、飲食にやぶれやすし、多く飲食すべからず。おそるべし。
書き下し
一湯は熱きをさまして、よき比の時飲むはよし。半沸の湯を飲めば腹はる。一食すくなければ、脾胃の中に空処ありて、元気めぐりやすく、食消化しやすくして、飲食する物、皆身の養となる。是を以て、病すくなくして身つよくなる。もし食多くして、腹中にみつれば、元気のめぐるべき道をふさぎ、すき間なくして、食消せず。是を以て、飲みくふ物、身の養とならず。滞りて元気の道をふさぎ、めぐらずして病となる。甚しければ、もだえて死す。是食過ぎて腹にみち、気ふさがりてめぐらざる故なり。食後に病おこり、或は頓死するは、此故なり。凡大酒大食する人は、必ず短命なり。早く止むべし。かへすがへす、老人は膓胃よわき故に、飲食にやぶれやすし、多く飲食すべからず。おそるべし。
現代語訳
湯は熱いのを冷まして、ほどよい頃合いに飲むのがよいのです。半沸きの湯を飲めば腹が張ります。食が少なければ、脾胃の中に空いたところがあって元気がめぐりやすく、食べ物も消化しやすくて、飲食した物がみな身の養いとなります。こうして病が少なく体が丈夫になります。もし食が多くて腹の中に満ちれば、元気のめぐるべき道をふさぎ、すき間がなくて食べ物が消化しません。こうして飲み食いした物が身の養いとならず、滞って元気の道をふさぎ、めぐらずに病となります。ひどければ悶え苦しんで死にます。これは食べ過ぎて腹に満ち、気がふさがってめぐらないからです。食後に病が起こり、あるいは急死するのはこのためです。およそ大酒・大食の人は必ず短命です。早くやめなさい。くれぐれも、老人は腸胃が弱いので飲食に損なわれやすく、多く飲食してはいけません。恐るべきことです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『養生訓』巻第三・飲食上一俗のことばに、食をひかへ過せば、養たらずして痩せ衰ふと云ふ。是養生不知人の言なり。欲多きは人のうまれつきなれば、ひかへ過すと思ふが、よき程なるべし。一すける物にあひ、飢ゑたる時にあたり、味すぐれて珍美なる食にあひ、其品おほく前につらなるとも、よきほどのかぎりの外はかたく慎みて、其節にすぐすべからず。一飲み食ふものにむかへば、むさぼりの心すすみて、多きにすぐる事をおぼえざるは、つねの人のならひなり。酒食茶湯ともに、よきほどと思ふよりも、ひかへて七八分にて、猶も不足と思ふ時、早く止むべし。飲食して後には、必ず十分に満つるものなり。食する時十分と思へば、必ずあき満ちて、分に過ぎて病となる。
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『養生訓』巻第三・飲食上一うゑて食し、かわきて飲むに、飢渇にまかせて、一時に多く飲食すれば、飽満して脾胃をやぶり、元気をそこなふ。飢渇の時慎むべし。又飲食いまだ消化せざるに、又いやかさねに早く飲食すれば、滞りて害となる。よく消化して後、飲食を好む時、飲み食ふべし。如此すれば、飲食皆養となる。
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『養生訓』巻第三・飲食上一珍美の食に対すとも、八九分にてやむべし。十分に飽き満つるは後の禍なり。少しの間欲をこらふれば後の禍なし。少し飲みくひて味のよきを知れば、多く飲みくひて飽き満ちたるに其楽同じく、且後の災なし。万の事十分に至れば、必ずわざはひとなる。飲食尤満意を忌むべし。又初に慎めば、必ず後の禍なし。
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『養生訓』巻第三・飲食上一酒食を過し、或は時ならずして飲食し、生冷の物、性あしく病をおこす物を食ひて、しばしば泄瀉すれば、必ず胃気へる。久しくかさなりては、元気衰へて短命なり。つつしむべし。一塩と酢と辛き物と、此三味を多く食ふべからず。此三味を多く食ひ、渇きて湯を多くのめば、湿を生じ脾をやぶる。湯、茶、羹多く飲むべからず。右の三味を食つて、大にかわかば、葛の粉か天花粉を、熱湯にたてて呑んで、渇をとどむべし。多く湯をのむ事をやめんがためなり。葛などのねば湯は気をふさぐ。
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『養生訓』巻第三・飲食上一脾胃虚弱の人、殊に老人は、飲食にやぶられやすし。味よき飲食にむかはば忍ぶべし。節に過ぐべからず。心よわきは慾に勝ちがたし。心つよくして慾にかつべし。一交友と同じく食する時、美饌にむかへば食ひ過ぎやすし。飲食十分に満足するは、禍の基なり。花は半開に見、酒は微酔に飲むといへるが如くすべし。興に乗じて戒を忘るべからず。欲を恣にすれば禍となる。楽の極まれるは悲の基なり。
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『養生訓』巻第一・総論上一養生の術は、先心気を養ふべし。心を和かにし、気を平かにし、いかりと慾とをおさへ、うれひ思ひをすくなくし、心をくるしめず、気をそこなはず、是心気を養ふ要道なり。又臥す事を好むべからず。久しく睡り臥せば気滞りてめぐらず。飲食いまだ消化せざるに早く臥し睡れば、食気ふさがりて甚元気をそこなふ。いましむべし。酒は微酔に飲み、半酣をかぎりとすべし。食は半飽に食ひて、十分に満つべからず。酒食ともに限を定めて、節にこゆべからず。又わかき時より、色慾をつつしみ、精気を惜むべし。精気を多くつひやせば、下部の気よわくなり、元気の根本たえて、必ず命短し。もし飲食色慾の慎なくば、日々補薬を服し、朝夕食補をなすとも、益なかるべし。
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