養生訓 / 巻第三・飲食上
一煮過して飪を失へる物と、いまだ煮熟せざる物くらふべからず。魚を煮るに、煮えざるはあしし。煮過して飪を失へるは、味なくつかへやすし。よき程の節あり。魚を蒸したるは、久しく蒸しても飪を失はず。魚をにるに、水多きは味なし。此の事李笠翁が閑情寓寄にいへり。
書き下し
一煮過して飪を失へる物と、いまだ煮熟せざる物くらふべからず。魚を煮るに、煮えざるはあしし。煮過して飪を失へるは、味なくつかへやすし。よき程の節あり。魚を蒸したるは、久しく蒸しても飪を失はず。魚をにるに、水多きは味なし。此の事李笠翁が閑情寓寄にいへり。
現代語訳
煮過ぎて煮えばなを失った物と、まだ煮えていない物は食べてはいけません。魚を煮るのに、煮えていないのはよくありません。煮過ぎて煮えばなを失ったのは、味がなく胃につかえやすいのです。ほどよい加減があります。魚を蒸したのは、長く蒸しても煮えばなを失いません。魚を煮るのに水が多いと味がありません。このことは李笠翁が『閑情偶寄』に言っています。
解説
煮え加減についての条で、生煮えも煮過ぎもよくないとし、ほどよい加減を守れと説きます。「飪(じん)」は煮え加減のことで、論語郷党篇の「飪を失へるは食はず」を受けています。後半は、明末清初の文人李漁(号は笠翁)の随筆『閑情偶寄』の料理論を引いて、魚は蒸すと煮え過ぎにくく、水が多いと味が抜けると紹介しています。最新の中国の書物にも目を通していた益軒の博学がうかがえます。火の通し方一つで味も消化も変わるという話は、今の料理にもそのまま役立ちます。
この章句が説くこと
調理煮え加減魚消化養生
関連する章句
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『養生訓』巻第七・用薬一利薬を久しく煎じつめては、消導発散すべき生気の力なし。煎じつめずして飪を失はざる生気あるを服して、病をせむべし。たとへば、茶を煎じ、生魚を煮、豆腐を煮るが如し。生熟の間よき程の飪を失はざれば、味よくして痞へず。飪を失へば、味あしくしてつかへやすきが如し。
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