養生訓 / 巻第三・飲食上
一生魚味をよく調へて食すれば、生氣ある故、早く消化しやすくしてつかへず、煮過し、又はほして油多き肉、或は鹽につけて久しき肉は、皆生氣なき陰物なり。滯りやすし。此理を知らで、生魚より鹽藏をよしとすべからず。
新字:一生魚味をよく調へて食すれば、生気ある故、早く消化しやすくしてつかへず、煮過し、又はほして油多き肉、或は塩につけて久しき肉は、皆生気なき陰物なり。滞りやすし。此理を知らで、生魚より塩蔵をよしとすべからず。
書き下し
一生魚味をよく調へて食すれば、生気ある故、早く消化しやすくしてつかへず、煮過し、又はほして油多き肉、或は塩につけて久しき肉は、皆生気なき陰物なり。滞りやすし。此理を知らで、生魚より塩蔵をよしとすべからず。
現代語訳
生魚の味をよく調えて食べれば、生気があるので早く消化しやすく、胃につかえません。煮過ぎたもの、また干して脂の多い肉、あるいは塩に漬けて長くたった肉は、みな生気のない陰の物です。滞りやすいのです。この理を知らないで、生魚より塩蔵のものをよいとしてはいけません。
解説
新鮮な魚には「生気」があって消化しやすく、干物や長く塩漬けにした物は生気のない「陰物」で滞りやすいという、益軒の食物観がよく表れた条です。保存のきく塩蔵品のほうが体によいと思い込む人への注意でもあります。前の条では塩をして一、二日のものが最もよいと述べており、短い塩漬けと長い塩蔵とを区別しています。新鮮な食材ほど体によいという考えは今も広く受け入れられており、塩分の多い保存食を控えるという今の健康指導とも合っています。
この章句が説くこと
新鮮魚塩蔵消化養生
関連する章句
-
『養生訓』巻第三・飲食上一清き物、かうばしき物、もろく和かなる物、味かろき物、性よき物、此五の物をこのんで食ふべし。益ありて損なし。是に反する物食ふべからず。此事もろこしの書にも見えたり。一衰病虚弱の人は、つねに魚鳥の肉を味よくして、少しづつ食ふべし。参芪の補にまされり。性よき生魚を烹炙よくすべし。塩つけて一両日過ぎたる、尤よし。久しければ味よからず、且滞りやすし。生魚の肉、豉につけたるを炙り煮て食ふもよし。夏月は久しくたもたず。
-
『養生訓』巻第三・飲食上一諸の食物、皆あたらしき生気ある物をくらふべし。ふるくして臭あしく、色も味もかはりたる物、皆気をふさぎて滞りやすし。くらふべからず。一すける物は、脾胃のこのむ所なれば、補となる。李笠翁も、本性甚すける物は薬にあつべしといへり。尤此理あり。されど、すけるままに多食すれば、必ずやぶられ、好まざる物を少し食ふにおとる。好む物を少し食はば益あるべし。
-
『養生訓』巻第四・飲食下一一切の食、陰気の鬱滞せる物は毒あり、食ふべからず。郷党篇にいへる、聖人の食し給はざる物、皆陽気を失ひて、陰物となれるなり。穀肉など、ふたをして時を経たるは、陰鬱の気にて味を変ず。魚鳥の肉など、久しく時をへたる、又塩につけて久しくして色臭味変ず。是皆陽気を失へるなり。菜蔬など、久しければ生気を失ひて、味変ず。如此なるは皆陰物なり、腸胃に害あり。又害なきも補養をなさず。水など新に汲むは、陽気さかんにて生気あり。久しきを歴れば、陰物となり、生気を失ふ。一切の飲食、生気を失ひて、味と臭と色と少しにてもかはりたるは、食ふべからず。干して色かはりたると、塩に浸して不損とは陰物にあらず、食ふに害なし。然れども乾物の気のぬけたると、塩蔵の久しくして、色臭味変じたるも、皆陰物なり、食ふべからず。
-
『養生訓』巻第三・飲食上一食は身をやしなふ物なり。身を養ふ物を以て、かへつて身をそこなふべからず。故に、凡食物は、性よくして身をやしなふに益ある物を、つねにえらんで食ふべし。益なくして損ある物、味よしとても食ふべからず。温補して気をふさがざる物は益あり。生冷にして瀉下し、気をふさぎ腹はる物、辛くして熱ある物、皆損あり。
-
『養生訓』巻第三・飲食上一生魚あざらけきに、塩を淡くつけ、日にほし、一両日過ぎて少しあぶり、うすく切りて酒にひたし食ふ。脾に妨なし。久しきは滞りやすし。一味噌、性和にして腸胃を補ふ。たまりと醬油は、味噌より生ずるとなり。泄瀉する人に宜しからず。酢は多く食ふべからず、脾胃に宜しからず。然れども、積聚ある人は少し食してよし。醱醋を多く食ふべからず。
-
『養生訓』巻第三・飲食上一甚腥く脂多き魚食ふべからず。魚のわたは油多し、食ふべからず。鱁鮧殊につかへやすし、痰を生ず。一さし身鱠は人により斟酌すべし。酢過ぎたるを忌む。虚冷の人はあたため食ふべし。鮓は老人病人食ふべからず。消化しがたし。殊に未熟の時、又熟し過ぎて日をへたる。食ふべからず。えびの鮓毒あり。うなぎの鮓消化しがたし、皆食ふべからず。大なる鳥の皮、魚の皮のあつきは、かたくして油多し、食ふべからず。消じがたし。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る