養生訓 / 巻第三・飲食上
一五味偏勝とは、一味を多く食ひ過すを云ふ。甘き物多ければ、腹はりいたむ。辛き物過ぐれば、氣上りて氣へり、瘡を生じ、眼あしゝ。鹹き物多ければ、血かわき、のんどかわき、湯水多く飮めば、濕を生じ、脾胃をやぶる。苦き物多ければ、脾胃の生氣を損ず。酸き物多ければ、氣ちゞまる。五味をそなへて、少しづつ食へば、病生ぜず。諸肉も諸菜も、同じ物をつゞけて食すれば、滯りて害あり。
新字:一五味偏勝とは、一味を多く食ひ過すを云ふ。甘き物多ければ、腹はりいたむ。辛き物過ぐれば、気上りて気へり、瘡を生じ、眼あしゝ。鹹き物多ければ、血かわき、のんどかわき、湯水多く飲めば、湿を生じ、脾胃をやぶる。苦き物多ければ、脾胃の生気を損ず。酸き物多ければ、気ちゞまる。五味をそなへて、少しづつ食へば、病生ぜず。諸肉も諸菜も、同じ物をつゞけて食すれば、滞りて害あり。
書き下し
一五味偏勝とは、一味を多く食ひ過すを云ふ。甘き物多ければ、腹はりいたむ。辛き物過ぐれば、気上りて気へり、瘡を生じ、眼あしし。鹹き物多ければ、血かわき、のんどかわき、湯水多く飲めば、湿を生じ、脾胃をやぶる。苦き物多ければ、脾胃の生気を損ず。酸き物多ければ、気ちぢまる。五味をそなへて、少しづつ食へば、病生ぜず。諸肉も諸菜も、同じ物をつづけて食すれば、滞りて害あり。
現代語訳
五味の偏りとは、一つの味を多く食べ過ぎることをいいます。甘い物が多ければ、腹が張って痛みます。辛い物が過ぎれば、気がのぼって気が減り、できものを生じ、目を悪くします。塩辛い物が多ければ、血が乾き、のどが渇き、湯水を多く飲むので湿を生じ、脾胃を損ないます。苦い物が多ければ、脾胃の生気を損ないます。酸っぱい物が多ければ、気が縮みます。五味を備えて少しずつ食べれば、病は生じません。肉も野菜も、同じ物を続けて食べると、滞って害があります。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『養生訓』巻第三・飲食上一酒食を過し、或は時ならずして飲食し、生冷の物、性あしく病をおこす物を食ひて、しばしば泄瀉すれば、必ず胃気へる。久しくかさなりては、元気衰へて短命なり。つつしむべし。一塩と酢と辛き物と、此三味を多く食ふべからず。此三味を多く食ひ、渇きて湯を多くのめば、湿を生じ脾をやぶる。湯、茶、羹多く飲むべからず。右の三味を食つて、大にかわかば、葛の粉か天花粉を、熱湯にたてて呑んで、渇をとどむべし。多く湯をのむ事をやめんがためなり。葛などのねば湯は気をふさぐ。
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五行大義・第十四論雑配・第三論配気味酸は肝に入り、辛は肺に入り、苦は心に入り、甘は脾に入り、醎(かん)は腎に入る。病、筋に在れば、酸を食すること無かれ。病、気に在れば、辛を食すること無かれ。病、骨に在れば、醎を食すること無かれ。病、血に在れば、苦を食すること無かれ。病、肉に在れば、甘を食すること無かれ。口嗜(この)みてこれを飲食するも、多くすべからざるなり。必ず自ら賊(そこな)うなり。故に五賊と名づく。又云う、肝病は辛を禁じ、心病は醎を禁じ、脾病は酸を禁じ、肺病は苦を禁じ、腎病は甘を禁ず。此れ皆悪む所の味なり、故に禁ず。又云う、肺病は宜しく糯米(だまい)の飯・牛肉・棗(なつめ)・葵(あおい)を食すべし。心病は宜しく麦・羊肉・杏(あんず)・薤(らっきょう)を食すべし。腎病は宜しく大豆・黄黍(こうしょ)・彘肉(ていにく)・藿(かく)を食すべし。肝病は宜しく麻・犬肉・李(すもも)・韭(にら)を食すべし。脾病は宜しく鶏肉・桃・黍・葱を食すべし。此の五つの宜しく食すべき者は、肝・心・腎の三蔵は実なり、故に各々その本味を以てこれを補う。脾・肺は虚なり、故にその子母相養う者を以てするなり。『春秋潜潭巴(せんたんは)』に云う、五味の五蔵を生ずる者は、醎は肝を生じ、酸は心を生じ、苦は脾を生じ、甘は肺を生じ、辛は腎を生ず、と。『養生経』に云う、肝の色は青、宜しく醎・稲米・牛肉・棗を食すべし。心の色は赤、宜しく酢・犬肉・李を食すべし。肺の色は白、宜しく甘・麦・羊肉・杏を食すべし。脾の色は黄、宜しく苦・大豆・豕肉(しにく)・粟(あわ)を食すべし。腎の色は黒、宜しく辛・黍・鶏肉を食すべし。此の五食は、皆生ずる所を以て能くその子を養うなり。又云う、五味の口に入るや、各々走る所有り、各々病む所有り。酸は筋に走り、多くこれを食すれば人をして癃(りゅう)せしむ。醎は血に走り、多くこれを食すれば人をして渇せしむ。辛は気に走り、多くこれを食すれば人をして洞心(どうしん)せしむ。苦は骨に走り、多くこれを食すれば人をして攣(れん)せしむ。甘は皮に走り、多くこれを食すれば人をして悪心せしむ。辛は散じ、酸は収め、甘は緩め、苦は堅め、醎は濡(うるお)す。五穀を養と為し、五菓を助と為し、五畜を益と為す。気味合わせてこれを服し、四時に随う、五蔵の宜しき所なり。
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五行大義・第十四論雑配・第三論配気味天官に云う、凡そ和は、春は酸を多くし、夏は苦を多くし、秋は辛を多くし、冬は醎を多くし、調うるに滑甘を以てす、と。解に両家有り。一に云う、宜しく時気に従うべし。春の食は須く酸を多くすべく、夏の食は須く苦を多くすべし、と。一に云う、多とは過なり。春の食は酸に過ぐ、宜しく其の醎味を減ずべし。夏の食は苦に過ぐ、宜しく其の酸味を減ずべし、と。是を以て後の句に云う、調うるに滑甘を以てす、と。今前の解に依る。四時の味は、各々時気の当たる所に随う。故に時を逐いて醎苦酸辛、体を養うの宜しきなり。土は既に中に居り、総べて四財を戴く。是を以て四時の味兼ね、須く甘味以て之を調うべし。又云う、膳食の宜しき所を会(あわ)す。牛は稌(と)に宜し、稌は稲なり。羊は黍に宜し、豕は稷に宜し、犬は梁に宜し、鳥は麦に宜し、魚は菰(こ)に宜し。菰は彫胡(ちょうこ)なり。凡そ君子の食は、恒に焉(これ)に放(なら)う、と。凡そ薬は、酸は骨を養い、苦は気を養い、甘は肉を養い、辛は筋を養い、醎は脈を養う、と。此れ並びに相扶の義なり。河図に云う、人の食、醎を極むること無かれ。腎気をして盛んならしめ、心気衰え、人をして狂を発し、喜(しばしば)衂(じく)し、吐血し、心神定まらざらしむ。辛を極むること無かれ。肺気をして盛んならしめ、肝気衰え、人をして懦怯(だきょう)悲愁し、目盲い、髪白からしむ。甘を極むること無かれ。脾気をして盛んならしめ、腎気衰え、人をして癡淫(ちいん)泄精し、腰背痛み、膿血を利せしむ。苦を極むること無かれ。心気をして盛んならしめ、肺気衰え、人をして果敢にして死を軽んじ、欬逆(がいぎゃく)し、胸満たしむ。酸を極むること無かれ。肝気をして盛んならしめ、脾気衰え、人をして穀消化せず、喑聾(いんろう)癥固(ちょうこ)ならしむ、と。此れ五蔵の相制剋するの義なり。黄帝養生経に云う、
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『養生訓』巻第三・飲食上一食は身をやしなふ物なり。身を養ふ物を以て、かへつて身をそこなふべからず。故に、凡食物は、性よくして身をやしなふに益ある物を、つねにえらんで食ふべし。益なくして損ある物、味よしとても食ふべからず。温補して気をふさがざる物は益あり。生冷にして瀉下し、気をふさぎ腹はる物、辛くして熱ある物、皆損あり。
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『養生訓』巻第三・飲食上一清き物、かうばしき物、もろく和かなる物、味かろき物、性よき物、此五の物をこのんで食ふべし。益ありて損なし。是に反する物食ふべからず。此事もろこしの書にも見えたり。一衰病虚弱の人は、つねに魚鳥の肉を味よくして、少しづつ食ふべし。参芪の補にまされり。性よき生魚を烹炙よくすべし。塩つけて一両日過ぎたる、尤よし。久しければ味よからず、且滞りやすし。生魚の肉、豉につけたるを炙り煮て食ふもよし。夏月は久しくたもたず。
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『養生訓』巻第四・飲食下一朝夕の食、塩味をくらふ事すくなければ、のんどかわかず、湯茶を多くのまず。脾に湿を生ぜずして、胃気発生しやすし。一中華朝鮮の人は脾胃つよし。飯多く食し、六畜の肉を多く食つても害なし。日本の人は是にことなり、多く穀肉を食すればやぶられやすし。是日本人の、異国の人より体気よわき故なり。
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