養生訓 / 巻第二・総論下
一天地の理、陽は一陰は二なり。水は多く火は少し。水はかわきがたく火は消えやすし。人は陽類にて少く、禽獸蟲魚は陰類にて多し。此の故に、陽はすくなく、陰は多きこと自然の理なり。すくなきは貴く、多きはいやし。君子は陽類にて少く、小人は陰類にて多し。易道は陽を善として貴び、陰を惡としていやしみ、君子を貴び、小人をいやしむ。水は陰類なり。暑月はへるべくして、ますます多く生ず。寒月は增すべくして、かへつて涸れてすくなし。春夏は陽氣盛なる故に水多く生ず。秋冬は陽氣衰ふる故水すくなし。血はへれども死なず。氣多くへれば忽死す。吐血金瘡產後など、陰血大に失する者は、血を補へば、陽氣いよいよ盡きて死す。氣を補へば、生命をたもちて、血も自生ず。
新字:一天地の理、陽は一陰は二なり。水は多く火は少し。水はかわきがたく火は消えやすし。人は陽類にて少く、禽獣虫魚は陰類にて多し。此の故に、陽はすくなく、陰は多きこと自然の理なり。すくなきは貴く、多きはいやし。君子は陽類にて少く、小人は陰類にて多し。易道は陽を善として貴び、陰を悪としていやしみ、君子を貴び、小人をいやしむ。水は陰類なり。暑月はへるべくして、ますます多く生ず。寒月は增すべくして、かへつて涸れてすくなし。春夏は陽気盛なる故に水多く生ず。秋冬は陽気衰ふる故水すくなし。血はへれども死なず。気多くへれば忽死す。吐血金瘡産後など、陰血大に失する者は、血を補へば、陽気いよいよ尽きて死す。気を補へば、生命をたもちて、血も自生ず。
書き下し
一天地の理、陽は一陰は二なり。水は多く火は少し。水はかわきがたく火は消えやすし。人は陽類にて少く、禽獣虫魚は陰類にて多し。此の故に、陽はすくなく、陰は多きこと自然の理なり。すくなきは貴く、多きはいやし。君子は陽類にて少く、小人は陰類にて多し。易道は陽を善として貴び、陰を悪としていやしみ、君子を貴び、小人をいやしむ。水は陰類なり。暑月はへるべくして、ますます多く生ず。寒月は增すべくして、かへつて涸れてすくなし。春夏は陽気盛なる故に水多く生ず。秋冬は陽気衰ふる故水すくなし。血はへれども死なず。気多くへれば忽死す。吐血金瘡産後など、陰血大に失する者は、血を補へば、陽気いよいよ尽きて死す。気を補へば、生命をたもちて、血も自生ず。
現代語訳
天地の道理では、陽は一、陰は二です。水は多く火は少ない。水は乾きにくく、火は消えやすい。人は陽の類で少なく、禽獣虫魚は陰の類で多い。このため、陽は少なく陰は多いのが自然の道理です。少ないものは貴く、多いものは卑しい。君子は陽の類で少なく、小人は陰の類で多い。易の道は陽を善として貴び、陰を悪として卑しみ、君子を貴び小人を卑しみます。水は陰の類です。暑い月には減るはずなのに、ますます多く生じます。寒い月には増えるはずなのに、かえって涸れて少なくなります。春夏は陽気が盛んなので水が多く生じ、秋冬は陽気が衰えるので水が少ないのです。血は減っても死にませんが、気が多く減ればたちまち死にます。吐血、刀傷、産後などで陰である血を大いに失った者は、血を補えば陽気がいよいよ尽きて死にます。気を補えば生命を保ち、血もおのずから生じます。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『慎思録』巻之四元気を得る者は滋息し、元気を失ふ者は枯涸す。人物皆然り。水の如きは是れ陰類なり。暑月には減ずべくして却つて滋益し、寒月には増すべくして却つて耗涸する者は何ぞや。蓋し水は本陽気の化生する所なり。春夏は陽気盛んなり、故に水の生ずるや多し。秋冬は陽気衰ふ、故に水の生ずるや寡し。医家、金瘡産後の陰血大いに脱する者を治するに、補血の薬を以てせずして、益気の薬を用ふ。蓋し気を補へば則ち血も亦た自ら生ず。若し専ら血を補へば、則ち血生ぜず、元気彌虚耗して死す。故に古人は血脱する者必ず気を補ふ。此れ陽長ずれば則ち水自ら生ずると、亦た同一の理なり。
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『養生訓』巻第二・総論下古人も、血脱して気を補ふは、古聖人の法なりといへり。人身は、陽常にすくなくして貴く、陰つねに多くしていやし。故に陽を貴びてさかんにすべし。陰をいやしみて抑ふべし。元気生々すれば、真陰も亦生ず。陽盛なれば陰自長ず。陽気を補へば陰血自生ず。もし陰不足を補はんとて、地黄、知母、黄柏等、苦寒の薬を久しく服すれば、元陽をそこなひ、胃気衰へて、血を滋生せずして、陰血も亦消えぬ。又陽不足を補はんとて、烏附等の毒薬を用ふれば、邪火を助けて、陽気も亦亡ぶ。是は陽を補ふにはあらず。丹渓が陽有余陰不足論は、何の経に本づけるや、其本拠を見ず。もし、丹渓一人の私言ならば、無稽の言信じ難し。易道の、陽を貴び陰を賤むの理にそむけり。
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『養生訓』巻第一・総論上一陰陽の気天にあつて流行して滞らざれば、四時よく行はれ、百物よく生る。偏にして滞れば、流行の道ふさがり、冬あたたかに、夏さむく、大風大雨の変ありて、凶害をなせり。人身にあつても亦しかり。気血よく流行して滞らざれば、気つよくして病なし。気血流行せざれば病となる。其の気上に滞れば頭疼眩暈となり、中に滞れば、心腹痛となり、痞満となり、下に滞れば腰痛脚気となり淋疝痔漏となる。此の故によく生を養ふ人は、つとめて元気の滞なからしむ。
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『養生訓』巻第八・灸治一人の身に灸をするは、いかなる故ぞや。曰、人の身の生けるは、天地の元気をうけて本とす。元気は陽気なり。陽気は、あたたかにして火に属す。陽気は、よく万物を生ず、陰血も亦元気より生ず。元気不足し、欝滞してめぐらざれば、気減りて病生ず。血も亦へる。然る故、火気をかりて陽をたすけ元気を補へば、陽気発生してつよくなり、脾胃調ひ食すすみ、気血めぐり飲食滞塞せずして、陰邪の気去る。是灸のちからにて、陽をたすけ気血をさかんにして、病をいやすの理なるべし。
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『慎思録』巻之三陰陽は物として在らざる無し。一気の流行を陽と為し、凝聚を陰と為す。長進を陽と為し、消退を陰と為す。春夏を陽と為し、秋冬を陰と為す。温熱を陽と為し、涼寒を陰と為す。生長を陽と為し、収蔵を陰と為す。動を陽と為し、静を陰と為す。木火を陽と為し、金水を陰と為す。昼を陽と為し、夜を陰と為す。明を陽と為し、暗を陰と為す。仁礼を陽と為し、義智を陰と為す。鬼を陰と為し、人を陽と為す。鬼を陰と為し、神を陽と為す。淑慝の分を以て之を言へば、善を陽と為し、悪を陰と為す。君子を陽と為し、小人を陰と為す。中国を陽と為し、夷狄を陰と為す。
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『養生訓』巻第一・総論上一人の元気は、もと是天地の万物を生ずる気なり。是人身の根本なり。人此の気にあらざれば生ぜず。生じて後は、飲食衣服居処の外物の助によりて、元気養はれて命をたもつ。飲食衣服居処の類も、亦天地の生ずる所なり。生るるも養はるるも、皆天地父母の恩なり。外物を用ひて、元気の養とする所の飲食などをかろく用ひて過さざれば、生れつきたる内の元気を養ひて、いのちながくして天年をたもつ。もし外物の養をおもくし過せば、内の元気外の養にまけて病となる。病おもくして元気尽くれば死す。たとへば草木に水と肥との養を過せば、かじけて枯るるがごとし。故に、人ただ心の内の楽を求めて、飲食などの外の養をかろくすべし。外の養おもければ内の元気損ず。
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