養生訓 / 巻第二・総論下
一老人は、つよく痰を去る藥を用ふべからず。痰をことごとく去らんとすれば元氣へる。是古人の說なり。一呼吸は、人の鼻よりつねに出入る息なり。呼は出づる息なり。内氣を吐くなり。吸は入る息なり、外氣を吸ふなり。呼吸は人の生氣なり、呼吸なければ死す。人の腹中の氣は、天地の氣と同じくして、内外相通ず。人の天地の氣の中にあるは、魚の水中にあるが如し。魚の腹中の水も、外の水と出入して同じ。人の腹中にある氣も天地の氣と同じ。されども腹中の氣は、臟腑にありて舊くけがる。天地の氣は新しくして淸し。時々鼻より外氣を多く吸入るべし。吸入るゝところの氣、腹中に多くたまりたるとき、口中より少しづつしづかに吐き出すべし。あらく早く吐き出すべからず。
新字:一老人は、つよく痰を去る薬を用ふべからず。痰をことごとく去らんとすれば元気へる。是古人の説なり。一呼吸は、人の鼻よりつねに出入る息なり。呼は出づる息なり。内気を吐くなり。吸は入る息なり、外気を吸ふなり。呼吸は人の生気なり、呼吸なければ死す。人の腹中の気は、天地の気と同じくして、内外相通ず。人の天地の気の中にあるは、魚の水中にあるが如し。魚の腹中の水も、外の水と出入して同じ。人の腹中にある気も天地の気と同じ。されども腹中の気は、臓腑にありて旧くけがる。天地の気は新しくして清し。時々鼻より外気を多く吸入るべし。吸入るゝところの気、腹中に多くたまりたるとき、口中より少しづつしづかに吐き出すべし。あらく早く吐き出すべからず。
書き下し
一老人は、つよく痰を去る薬を用ふべからず。痰をことごとく去らんとすれば元気へる。是古人の説なり。一呼吸は、人の鼻よりつねに出入る息なり。呼は出づる息なり。内気を吐くなり。吸は入る息なり、外気を吸ふなり。呼吸は人の生気なり、呼吸なければ死す。人の腹中の気は、天地の気と同じくして、内外相通ず。人の天地の気の中にあるは、魚の水中にあるが如し。魚の腹中の水も、外の水と出入して同じ。人の腹中にある気も天地の気と同じ。されども腹中の気は、臓腑にありて旧くけがる。天地の気は新しくして清し。時々鼻より外気を多く吸入るべし。吸入るるところの気、腹中に多くたまりたるとき、口中より少しづつしづかに吐き出すべし。あらく早く吐き出すべからず。
現代語訳
老人は、痰を強く取り去る薬を用いてはいけません。痰をすべて取り去ろうとすれば元気が減ります。これは古人の説です。呼吸とは、人の鼻から常に出入りする息です。呼は出る息で、内の気を吐くことです。吸は入る息で、外の気を吸うことです。呼吸は人の生きる気であり、呼吸がなければ死にます。人の腹の中の気は天地の気と同じで、内と外は通じ合っています。人が天地の気の中にいるのは、魚が水の中にいるようなものです。魚の腹の中の水も外の水と出入りして同じです。人の腹の中にある気も天地の気と同じです。けれども腹の中の気は臓腑にあって古く汚れています。天地の気は新しくて清らかです。ときどき鼻から外の気を多く吸い込みなさい。吸い込んだ気が腹の中に多くたまったとき、口から少しずつ静かに吐き出しなさい。荒く早く吐き出してはいけません。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『養生訓』巻第二・総論下一千金方に、常に鼻より清気を引入れ、口より濁気を吐出す。入るる事多く、出す事すくなくす。出す時は、口をほそく開きて、少し吐くべし。一常の呼吸のいきは、ゆるやかにして、深く丹田に入るべし、急なるべからず。
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『養生訓』巻第二・総論下是ふるくけがれたる気を吐き出して、新しき清き気を吸入るるなり。新とふるきとかふるなり。是を行ふ時、身を正しく仰ぎ、足をのべ臥し、目をふさぎ、手をにぎりかため、両足の間去ること五寸、両臂と体との間も、相去ることおのおの五寸なるべし。一日一夜の間、一両度行ふべし。久しくしてしるしを見るべし。気を安和にして行ふべし。
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『養生訓』巻第二・総論下一調息の法、呼吸をととのへ静にすれば、息やうやく微なり。弥久しければ、後は鼻中に全く気息なきが如し。只臍の上より、微息往来する事をおぼゆ。如此すれば神気定まる。是気を養ふ術なり。呼吸は一身の気の出入する道路なり、あらくすべからず。一養生の術、まづ心法をよくつつしみ守らざれば行はれがたし。心を静にして、さわがしからず、いかりをおさへ、慾をすくなくして、つねに楽んでうれへず。是養生の術にて、心を守る道なり。心法を守らざれば養生の術行はれず。故に心を養ひ身を養ふの工夫二なし、一術なり。
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『養生訓』巻第八・養老一老人の保養は、常に元気を惜みてへらすべからず。気息を静にして、あらくすべからず。言語をゆるやかにして早くせず、言すくなくし、起居行歩をもしづかにすべし。言語あららかに、口はやく声高く、颺言すべからず。怒なくうれひなく、過ぎ去りたる人の過をとかむべからず、我が過をしきりに悔ゆべからず、人の無礼なる横逆をいかりうらむべからず。是皆、老人養生の道なり。又老人の徳行のつつしみなり。
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『養生訓』巻第二・総論下一心はつねに従容と静かにせはしからず、和平なるべし。言語は殊に静かにしてすくなくし、無用の事いふべからず。是尤気を養ふ良法なり。一人の身は、気を以て生の源、命の主とす。故に養生をよくする人は、常に元気を惜みてへらさず、静にしては元気をたもち、動きては元気をめぐらす。たもつとめぐらすと二の者そなはらざれば、気を養ひがたし。動静其時を失はず、是気を養ふの道なり。一もし大風雨と雷甚しくば、天の威をおそれて、夜といへども必ず起き、衣服をあらためて坐すべし、臥すべからず。
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『養生訓』巻第二・総論下一内慾をすくなくし、外邪をふせぎ、身を時々労動し、ねぶりをすくなくす。此の四は養生の大要なり。一気を和平にし、あらくすべからず。静かにして、妄に動すべからず。ゆるやかにして急なるべからず。言語をすくなくして、気をうごかすべからず。つねに気を臍の下にをさめて、胸にのぼらしむべからず。是気を養ふ法なり。
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