養生訓 / 巻第二・総論下
一易に曰、思患豫防之。いふ意は、後の患をおもひ、かねて其のわざはひを防ぐべし。論語にも、人遠き慮なければ必ず近き憂ありとのたまへり。是皆初に愼んで、終をたもつの意なり。一人慾を恣にして樂めば、其樂いまだ盡きざる内に、はやくうれひ生ず。酒食色慾をほしいまゝにして樂む內に、はやく祟をなして、苦生ずるの類なり。
新字:一易に曰、思患予防之。いふ意は、後の患をおもひ、かねて其のわざはひを防ぐべし。論語にも、人遠き慮なければ必ず近き憂ありとのたまへり。是皆初に慎んで、終をたもつの意なり。一人慾を恣にして楽めば、其楽いまだ尽きざる内に、はやくうれひ生ず。酒食色慾をほしいまゝにして楽む内に、はやく祟をなして、苦生ずるの類なり。
書き下し
一易に曰、思患予防之。いふ意は、後の患をおもひ、かねて其のわざはひを防ぐべし。論語にも、人遠き慮なければ必ず近き憂ありとのたまへり。是皆初に慎んで、終をたもつの意なり。一人慾を恣にして楽めば、其楽いまだ尽きざる内に、はやくうれひ生ず。酒食色慾をほしいままにして楽む内に、はやく祟をなして、苦生ずるの類なり。
現代語訳
『易』に「患いを思って、あらかじめこれを防ぐ」とあります。その意味は、後の患いを思って、前もってその災いを防ぐべきだということです。『論語』にも、人は遠い先の配慮がなければ、必ず身近な憂いがある、とおっしゃっています。これはみな、初めに慎んで終わりを保つという意味です。人が欲をほしいままにして楽しめば、その楽しみがまだ尽きないうちに、早くも憂いが生じます。酒食や色欲をほしいままにして楽しんでいるうちに、早くも祟りとなって苦しみが生じる、といった類いです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『養生訓』巻第一・総論上一聖人は未病を治すとは、病いまだおこらざる時かねて慎めば病なく、もし飲食色慾などの内慾をこらへず、風寒暑湿の外邪をふせがざれば、其おかす事はすこしなれども、後に病をなす事は大にして久し。内慾と外邪をつつしまざるによりて大病となりて、思ひの外にふかきうれひにしづみ、久しく苦むは病のならひなり。病をうくれば、病苦のみならず、いたき針にて身をさし、あつき灸にて身をやき、苦き薬にて身をせめ、くひたき物をくはず、飲みたき物を飲まずして、身をくるしめ、心をいたましむ。病なき時、かねて養生よくすれば、病おこらずして、目に見えぬ大なるさいはひとなる。孫子が曰、よく兵を用ふる者は、赫々の功なし。いふ意は、兵を用ふる上手は、あらはれたるてがらなし。
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『養生訓』巻第六・慎病一古語に、常に病想を作す。いふ意は、無病の時、病ある日のくるしみを常に思ひやりて、風寒暑湿の外邪をふせぎ、酒食好色の内欲を節にし、身体の起臥動静をつつしめば病なし。又古詩に曰く、安楽にして常に病苦の時を思ふ。いふ意は、病なくて安楽なる時に、初病に苦める時を常に思ひ出して、忘るべからずと也。無病の時、慎ありて恣ならざれば、病生ぜず。是病おこりて、良薬を服し、鍼灸をするにまされり。邵康節の詩に、其病後能く薬を服せんより、病前能自防ぐにしかず、といへるがごとし。
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『養生訓』巻第六・慎病一病なき時、かねてつつしめば病なし。病おこりて後薬を服しても、病癒えがたく、癒ゆる事おそし。小慾をつつしまざれば大病となる。小慾をつつしむ事はやすし、大病となりては苦多し。かねて病苦を思ひやり、後の禍をおそるべし。
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『大和俗訓』巻之六・躬行上一尚書、備へ有れば患ひ無しといへり。言ふ意は、万の心、かねて早く用意をすれば、にはかなる事にあひても、患なしとなり。つねに武を心がくる人は、無事の時の用意ある故、俄に兵乱ありても、行きあたりて患なし。常に倹約して、財をたくはへあれば、にはかなる変にあひても困窮せず。其余の諸事、皆かくの如し。当時のつひえをはぶき、私欲をこらへて、後の用意をしおくべし。常の時に、変にあへる時の覚悟なければ、不意に変にあひてつまづく。明日のことは、今日より心を用ふ。来年のことは、今年より心を用ふ。一生の事は唯今よりつとむべし。すべて万の事、後悔なきやうに、かねて思ひはかるべし。人遠き慮なければ、必近きうれひありと、聖人のたまへり。
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『養生訓』巻第六・慎病一千金方に曰く、冬温なる事を極めず、夏涼しき事をきはめず。凡一時快き事は、必ず後の災となる。一病生じては、心のうれひ、身の苦甚し。其上、医をまねき、薬を飲み、炙をし、針をさし、酒をたち、食をへらし、さまざまに心をなやまし、身をせめて、病を治せんとせんよりは、初に内欲をこらへ、外邪をふせげば、病おこらず、薬を服せず、針灸せずして、身のなやみ心の苦なし。初しばしの間つつしみ忍ぶは、少しの心づかひなれど、後の患なきは、大なるしるしなり。後に薬と針灸を用ひ、酒食をこらへつつしむは、其苦甚しけれど益すくなし。古語に、終をつつしむ事は、始に於てせよといへり。万の事、始によくつつしめば、後に悔なし。養生の道、ことさらかくのごとし。一飲食色慾の内欲をほしいままにせずして、かたく慎み、風寒暑湿の外邪をおそれ防がば、病なくして、薬を用ひずとも患なかるべし。もし慾をほしいままにして慎まず、只脾腎を補ふ薬治と食治とを頼まば、必ずしるしなかるべし。
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『養生訓』巻第二・総論下一古語に曰く、日に一日を慎めば、寿終るまで殃無し。言は、一日々々をあらためて、朝より夕迄、毎日つつしめば、身にあやまちなく、身をそこなひやぶる事なくして、寿くして天年終るまでわざはひなしとなり。是身をたもつ要道なり。一飲食色慾をほしいままにして、其はじめ、少しの間我心に快き事は、後に必ず身をそこなひ、長きわざはひとなる。後にわざはひ無からん事を求めば、初わが心に快からん事をこのむべからず。万の事、はじめ快くすれば、必ず後の禍となる。初つとめてこらふれば、必ず後の楽となる。
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