養生訓 / 巻第一・総論上
病多く命みじかくしては、大富貴をきはめても用なし。貧賤にして命ながきにおとれり。わが鄕里の年若き人を見るに、養生の術をしらで、放蕩にして短命なる人多し。又わが里の老人を多く見るに、養生の道なくして多病にくるしみ、元氣おとろへて早く老耄す。如此にては、たとひ百年のよはひをたもつとも、樂なくして苦多し、長生も益なし。いけるばかりを思出にすともいひがたし。
新字:病多く命みじかくしては、大富貴をきはめても用なし。貧賤にして命ながきにおとれり。わが郷里の年若き人を見るに、養生の術をしらで、放蕩にして短命なる人多し。又わが里の老人を多く見るに、養生の道なくして多病にくるしみ、元気おとろへて早く老耄す。如此にては、たとひ百年のよはひをたもつとも、楽なくして苦多し、長生も益なし。いけるばかりを思出にすともいひがたし。
書き下し
病多く命みじかくしては、大富貴をきはめても用なし。貧賤にして命ながきにおとれり。わが郷里の年若き人を見るに、養生の術をしらで、放蕩にして短命なる人多し。又わが里の老人を多く見るに、養生の道なくして多病にくるしみ、元気おとろへて早く老耄す。如此にては、たとひ百年のよはひをたもつとも、楽なくして苦多し、長生も益なし。いけるばかりを思出にすともいひがたし。
現代語訳
病が多く命が短くては、大富貴をきわめても用はありません。貧しく卑しくても命が長いのに劣ります。わが郷里の若い人を見ると、養生の術を知らずに、放蕩して短命な人が多くいます。またわが里の老人を多く見ると、養生の道がなくて多病に苦しみ、元気が衰えて早く老いぼれてしまいます。このようでは、たとえ百年の齢を保ったとしても、楽しみがなく苦しみが多く、長生きしても益はありません。生きているというだけを思い出にするとも言いがたいものです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『養生訓』巻第一・総論上一人生五十にいたらざれば、血気いまだ定まらず、知慮いまだ開けず。古今にうとくして世変になれず、言あやまり多く、行悔多し。人生の理も楽もいまだ知らず。五十にいたらずして死するを夭といふ。是亦不幸短命と云ふべし。長生すれば楽多く益多し。日々にいまだ知らざる事を知り、日々にいまだ能せざる事をよくす。この故に、学問の長進する事も、知識の明達なる事も、長生せざれば得がたし。ここを以て養生の術を行ひ、いかにもして天年をたもち、五十歳をこえ、成るべきほどは、弥長生して六十以上の寿域に登るべし。古人長生の術ある事をいへり。又人の命は我にあり天にあらずともいへれば、此術に志だにふかくば、長生をたもつ事、人力を以ていかにもなし得べき理あり。うたがふべからず。只気あらくして、慾を恣にしてこらへず、慎なき人は、長生を得べからず。
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『養生訓』巻第一・総論上一養生の道なければ、生れつき強く、若くさかんなる人も、天年をたもたずして早世する人多し。是天のなせる禍にあらず、みづからなせる禍なり。天年とはいひがたし。つよき人は強きをたのみて慎まざる故に、よわき人より却つて早く死す。又体気よわく飲食すくなく、常に病多くして短命ならんと思ふ人、かへつて長生する人多し。是よわきをおそれて慎むによれり。この故に、命の長短は身の強弱によらず、慎と不慎とによれり。白楽天が語に、福と禍とは、慎むと慎まざるにありといへるが如し。一世に富貴財禄をむさぼりて、人にへつらひ、仏神にいのり求むる人多し。されども其しるしなし。無病長生を求めて、養生をつつしみ、身をたもたんとする人は稀なり。富貴財禄は外にあり、求めても天命なければ得がたし。無病長生は我にあり、もとむれば得やすし。得がたき事を求めて、得やすき事を求めざるはなんぞや、愚なるかな。たとひ財禄を求め得ても、多病にして短命なれば用なし。
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『養生訓』巻第一・総論上一凡の人、生れつきたる天年は多くは長じ、天年をみじかく生れつきたる人は、稀なり。生れつきて、元気さかんにして身つよき人も、養生の術をしらず、朝夕元気をそこなひ、日夜精力をへらせば、生れつきたる其の年をたもたずして、早世する人世に多し。又天性は、甚虚弱にして多病なれど、多病なる故に、慎みおそれて保養すれば、かへつて長生する人、是また世にあり。此の二ツは、世間眼前に多く見る所なれば、疑ふべからず。慾を恣にして身をうしなふは、たとへば刀を以て自害するに同じ。早きとおそきとのかはりはあれど、身を害する事は同じ。
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『養生訓』巻第一・総論上人の身はいたりて貴く、是をやしなひてたもつは、至りて大なる術なるを、師なく教なく、学ばず習はず、これを養ふ術を知らで、わが心の慾にまかせば、豈其道を得て、生れつきたる天年をよくたもたんや。故に生を養ひ命をたもたんと思はば、其術を習はずんばあるべからず。夫養生の術そくばくの大道にして小芸にあらず。心にかけて其術をつとめまなばずんば、其道を得べからず。其術を知れる人ありて習ひ得ば、千金にも替へがたし。天地父母よりうけたるおもき身をもちて、これをたもつ道を知らで、みだりに身をもちて、大病をうけ、身を失ひ、世をみじかくする事、いたりて愚なるかな。天地父母に対し大不孝と云ふべし。其上病なく命ながくしてこそ、人となれる楽多かるべけれ。
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『養生訓』巻第一・総論上如此ならん事を願はば、先古の道をかうがへ、養生の術をまなんで、よくわが身をたもつべし。是人生第一の大事なり。人身は、至りて貴く重くして、天下四海にもかへがたき物にあらずや。然るに、これを養ふ術をしらず、慾を恣にして、身を亡ぼし、命を失ふ事、愚なる至なり。身命と私慾との軽重をよくおもんぱかりて、日々に一日を慎み、私欲の危をおそるる事、深き淵に臨むが如く、薄き氷をふむが如くならば、命ながくして、つひに殃なかるべし。豈楽まざるべけんや。命みじかければ、天下四海の富を得ても益なし。財の山を前につんでも用なし。然れば、道にしたがひ、身をたもちて、長命なるほど大なる福なし。故に、寿きは、尚書に、五福の第一とす。是万福の根本なり。
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『養生訓』巻第一・総論上一人の身は百年を以て期とす。上寿は百歳、中寿は八十、下寿は六十なり。六十以上は長生なり。世上の人を見るに、下寿をたもつ人すくなく、五十以下短命なる人多し。人生七十古来稀なりといへるは虚語にあらず。長命なる人すくなし。五十なれば不夭と云ひて、わか死にあらず。人の命なんぞ此くの如くみじかきや。是皆養生の術なければなり。短命なるは生れつきて短きにはあらず、十人に九人は、皆みづからそこなへるなり。ここを以て、人皆養生の術なくんばあるべからず。
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