養生訓 / 巻第一・総論上
一およそ人の身は、弱くもろくしてあだなる事、風前の燈のきえやすきが如し。あやふきかな。つねに愼みて身をたもつべし。况んや内外より身をせむる敵多きをや。先飮食の欲、好色の欲、睡臥の欲、或は怒悲憂を以て身をせむ。是等は皆我が身の内よりおこりて、身をせむる欲なれば內敵なり。中について、飮食好色は內欲より外敵を引き入る。尤恐るべし。風寒暑濕は身の外より入りて我を攻むる物なれば、外敵なり。人の身は金石に非ず、やぶれやすし。况や内外に大敵をうくる事かくの如くにして、內の愼外の防なくしては、多くの敵にかちがたし。至りてあやふきかな。此の故に人々長命をたもちがたし。用心きびしくして、常に内外の敵をふせぐ計策なくんばあるべからず。
新字:一およそ人の身は、弱くもろくしてあだなる事、風前の灯のきえやすきが如し。あやふきかな。つねに慎みて身をたもつべし。況んや内外より身をせむる敵多きをや。先飲食の欲、好色の欲、睡臥の欲、或は怒悲憂を以て身をせむ。是等は皆我が身の内よりおこりて、身をせむる欲なれば内敵なり。中について、飲食好色は内欲より外敵を引き入る。尤恐るべし。風寒暑湿は身の外より入りて我を攻むる物なれば、外敵なり。人の身は金石に非ず、やぶれやすし。況や内外に大敵をうくる事かくの如くにして、内の慎外の防なくしては、多くの敵にかちがたし。至りてあやふきかな。此の故に人々長命をたもちがたし。用心きびしくして、常に内外の敵をふせぐ計策なくんばあるべからず。
書き下し
一およそ人の身は、弱くもろくしてあだなる事、風前の灯のきえやすきが如し。あやふきかな。つねに慎みて身をたもつべし。況んや内外より身をせむる敵多きをや。先飲食の欲、好色の欲、睡臥の欲、或は怒悲憂を以て身をせむ。是等は皆我が身の内よりおこりて、身をせむる欲なれば内敵なり。中について、飲食好色は内欲より外敵を引き入る。尤恐るべし。風寒暑湿は身の外より入りて我を攻むる物なれば、外敵なり。人の身は金石に非ず、やぶれやすし。況や内外に大敵をうくる事かくの如くにして、内の慎外の防なくしては、多くの敵にかちがたし。至りてあやふきかな。此の故に人々長命をたもちがたし。用心きびしくして、常に内外の敵をふせぐ計策なくんばあるべからず。
現代語訳
およそ人の身は、弱くもろくはかないこと、風の前の灯火が消えやすいようなものです。危ういことです。常に慎んで身を保つべきです。まして内と外から身を攻める敵が多いのですからなおさらです。まず飲食の欲、好色の欲、眠りの欲、あるいは怒り・悲しみ・憂いによって身を攻めます。これらはみな自分の身の内から起こって身を攻める欲ですから、内敵です。中でも飲食と好色は、内の欲から外の敵を引き入れます。もっとも恐れるべきです。風・寒・暑・湿は身の外から入って自分を攻めるものですから、外敵です。人の身は金石ではなく、破れやすいものです。まして内外に大敵を受けることこのようであって、内の慎みと外の防ぎがなければ、多くの敵に勝つことはできません。このうえなく危ういことです。だから人々は長命を保ちにくいのです。用心を厳しくして、常に内外の敵を防ぐ計略がなくてはなりません。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『養生訓』巻第一・総論上敵にかたざれば、必ずせめ亡されて身を失ふ。内外の敵にかちて身をたもつも、其の術を知りて能くふせぐによれり。生れつきたる気つよけれど、術を知らざれば身を守りがたし。たとへば武将の、勇あれども知なくして兵の道をしらざれば、敵にかちがたきが如し。内敵にかつには、心つよくして忍の字を用ふべし。忍はこらふるなり。飲食好色などの欲は、心つよくこらへて、恣にすべからず。心よわくしては内欲にかちがたし。内欲にかつ事は猛将の敵をとりひしぐが如くすべし。是内敵にかつ兵法なり。外敵にかつには、畏の字を用ひて早くふせぐべし。たとへば城中にこもり、四面に敵をうけて、ゆだんなく敵をふせぎ、城をかたく保つが如くなるべし。風寒暑湿にあはば、恐れて早くふせぎ退くべし。
-
『養生訓』巻第一・総論上一養生の術は、先わが身をそこなふ物を去るべし。身をそこなふ物は、内慾と外邪となり。内慾とは、飲食の慾、好色の慾、睡の慾、言語をほしいままにするの慾と、喜怒憂思悲恐驚の七情の慾を云ふ。外邪とは天の四気なり、風寒暑湿を云ふ。内慾をこらへて少くし、外邪をおそれてふせぐ。是を以て元気をそこなはず、病なくして天年を永くたもつべし。
-
『初学訓』巻之五一養生の道も、亦よく謹みて、慾を堪ふるにあり。養生の要は、飲食色慾をこらへて過さず、心を和け気を平らかにし、かなしみ、いかり、うれへ、思ひを過さず、又風寒暑湿の外邪を防ぐべし。飲食色慾は内慾なり。風寒暑湿は外邪なり。つよき人も、内慾を過し、外邪に傷らるれば、病に冒されて、長生を得がたし。又、生れつきよわけれど、よく保養すれば、天年をたもちて長寿なり。わかき時より、早く養生をつとむべし。わかく血気さかんなれば、飲食色慾恣なり。いましむべし。飲食色慾を恣にすれば、元気つきて短命なり。中年以後は、色慾より、飲食の慾尤こらへ難し。内慾にやぶられて元気減れば、外邪も侵しやすく、病起りやすし。人の天年を保たずして、早く死ぬるは、多くは、飲食色慾の二に傷らるればなり。
-
『養生訓』巻第一・総論上一風寒暑湿は外邪なり。是にあたりて病となり、死ぬるは天命なり。聖賢といへども免れがたし。されども、内気実してよくつつしみ防がば、外邪のおかす事も亦まれなるべし。飲食色慾によりて病生ずるは、全く我身より出づる過なり。是天命にあらず、わが身のとがなり。万の事、天より出づるは力に及ばず、わが身に出づる事は力を用ひて為しやすし。風寒暑湿の外邪をふせがざるは怠なり。飲食好色の内慾を忍ばざるは過なり。怠と過とは、皆慎まざるよりおこる。
-
『養生訓』巻第一・総論上忍の字を禁じて、外邪をこらへて久しくあたるべからず。古語に、風を防ぐ事箭を防ぐが如くすといへり。四気の内風寒尤おそるべし。久しく風寒にあたるべからず。凡是外敵をふせぐ兵法なり。内敵にかつには、けなげにして強くかつべし。外敵をふせぐは、おそれて早くしりぞくべし。けなげなるは悪しし。
-
『養生訓』巻第一・総論上慾をおさへ、心を平にし、気を和かにして暴くせず、静かにして騒がしからず、心はつねに和楽なるべし。憂ひ苦むべからず。是皆内慾をこらへて、元気を養ふ道なり。又風寒暑湿の外邪を防ぎてやぶられず。此の内外の数の慎は、養生の大なる条目なり。是をよく慎み守るべし。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る