養生訓 / 巻第一・総論上
敵にかたざれば、必ずせめ亡されて身を失ふ。内外の敵にかちて身をたもつも、其の術を知りて能くふせぐによれり。生れつきたる氣つよけれど、術を知らざれば身を守りがたし。たとへば武將の、勇あれども知なくして兵の道をしらざれば、敵にかちがたきが如し。内敵にかつには、心つよくして忍の字を用ふべし。忍はこらふるなり。飮食好色などの欲は、心つよくこらへて、恣にすべからず。心よわくしては內欲にかちがたし。内欲にかつ事は猛將の敵をとりひしぐが如くすべし。是内敵にかつ兵法なり。外敵にかつには、畏の字を用ひて早くふせぐべし。たとへば城中にこもり、四面に敵をうけて、ゆだんなく敵をふせぎ、城をかたく保つが如くなるべし。風寒暑濕にあはば、恐れて早くふせぎ退くべし。
新字:敵にかたざれば、必ずせめ亡されて身を失ふ。内外の敵にかちて身をたもつも、其の術を知りて能くふせぐによれり。生れつきたる気つよけれど、術を知らざれば身を守りがたし。たとへば武将の、勇あれども知なくして兵の道をしらざれば、敵にかちがたきが如し。内敵にかつには、心つよくして忍の字を用ふべし。忍はこらふるなり。飲食好色などの欲は、心つよくこらへて、恣にすべからず。心よわくしては内欲にかちがたし。内欲にかつ事は猛将の敵をとりひしぐが如くすべし。是内敵にかつ兵法なり。外敵にかつには、畏の字を用ひて早くふせぐべし。たとへば城中にこもり、四面に敵をうけて、ゆだんなく敵をふせぎ、城をかたく保つが如くなるべし。風寒暑湿にあはば、恐れて早くふせぎ退くべし。
書き下し
敵にかたざれば、必ずせめ亡されて身を失ふ。内外の敵にかちて身をたもつも、其の術を知りて能くふせぐによれり。生れつきたる気つよけれど、術を知らざれば身を守りがたし。たとへば武将の、勇あれども知なくして兵の道をしらざれば、敵にかちがたきが如し。内敵にかつには、心つよくして忍の字を用ふべし。忍はこらふるなり。飲食好色などの欲は、心つよくこらへて、恣にすべからず。心よわくしては内欲にかちがたし。内欲にかつ事は猛将の敵をとりひしぐが如くすべし。是内敵にかつ兵法なり。外敵にかつには、畏の字を用ひて早くふせぐべし。たとへば城中にこもり、四面に敵をうけて、ゆだんなく敵をふせぎ、城をかたく保つが如くなるべし。風寒暑湿にあはば、恐れて早くふせぎ退くべし。
現代語訳
敵に勝たなければ、必ず攻め滅ぼされて身を失います。内外の敵に勝って身を保つのも、その術を知ってよく防ぐことによるのです。生まれつき気が強くても、術を知らなければ身を守れません。たとえば武将が、勇気はあっても知恵がなく兵法を知らなければ、敵に勝てないようなものです。内敵に勝つには、心を強くして「忍」の字を用いるべきです。忍とはこらえることです。飲食や好色などの欲は、心を強くしてこらえ、ほしいままにしてはなりません。心が弱くては内の欲に勝てません。内の欲に勝つことは、猛将が敵を押しつぶすようにすべきです。これが内敵に勝つ兵法です。外敵に勝つには、「畏」の字を用いて早く防ぐべきです。たとえば城の中にこもって四方に敵を受け、油断なく敵を防いで城を固く守るようにすべきです。風・寒・暑・湿に遭ったら、恐れて早く防ぎ退くべきです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『養生訓』巻第一・総論上忍の字を禁じて、外邪をこらへて久しくあたるべからず。古語に、風を防ぐ事箭を防ぐが如くすといへり。四気の内風寒尤おそるべし。久しく風寒にあたるべからず。凡是外敵をふせぐ兵法なり。内敵にかつには、けなげにして強くかつべし。外敵をふせぐは、おそれて早くしりぞくべし。けなげなるは悪しし。
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『養生訓』巻第一・総論上一およそ人の身は、弱くもろくしてあだなる事、風前の灯のきえやすきが如し。あやふきかな。つねに慎みて身をたもつべし。況んや内外より身をせむる敵多きをや。先飲食の欲、好色の欲、睡臥の欲、或は怒悲憂を以て身をせむ。是等は皆我が身の内よりおこりて、身をせむる欲なれば内敵なり。中について、飲食好色は内欲より外敵を引き入る。尤恐るべし。風寒暑湿は身の外より入りて我を攻むる物なれば、外敵なり。人の身は金石に非ず、やぶれやすし。況や内外に大敵をうくる事かくの如くにして、内の慎外の防なくしては、多くの敵にかちがたし。至りてあやふきかな。此の故に人々長命をたもちがたし。用心きびしくして、常に内外の敵をふせぐ計策なくんばあるべからず。
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『養生訓』巻第一・総論上一養生の術は、先わが身をそこなふ物を去るべし。身をそこなふ物は、内慾と外邪となり。内慾とは、飲食の慾、好色の慾、睡の慾、言語をほしいままにするの慾と、喜怒憂思悲恐驚の七情の慾を云ふ。外邪とは天の四気なり、風寒暑湿を云ふ。内慾をこらへて少くし、外邪をおそれてふせぐ。是を以て元気をそこなはず、病なくして天年を永くたもつべし。
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『養生訓』巻第一・総論上一風寒暑湿は外邪なり。是にあたりて病となり、死ぬるは天命なり。聖賢といへども免れがたし。されども、内気実してよくつつしみ防がば、外邪のおかす事も亦まれなるべし。飲食色慾によりて病生ずるは、全く我身より出づる過なり。是天命にあらず、わが身のとがなり。万の事、天より出づるは力に及ばず、わが身に出づる事は力を用ひて為しやすし。風寒暑湿の外邪をふせがざるは怠なり。飲食好色の内慾を忍ばざるは過なり。怠と過とは、皆慎まざるよりおこる。
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『養生訓』巻第一・総論上慾をおさへ、心を平にし、気を和かにして暴くせず、静かにして騒がしからず、心はつねに和楽なるべし。憂ひ苦むべからず。是皆内慾をこらへて、元気を養ふ道なり。又風寒暑湿の外邪を防ぎてやぶられず。此の内外の数の慎は、養生の大なる条目なり。是をよく慎み守るべし。
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『養生訓』巻第一・総論上いかんとなれば、兵のおこらぬさきに戦はずして勝てばなり。又曰、古の善く勝つ者は、勝ち易きに勝つ者なり。養生の道も、亦かくの如くすべし。心の内、わづかに一念の上に力を用ひて、病のいまだおこらざる時、勝ちやすき慾に勝てば病おこらず。良将の戦はずして、勝ちやすきに勝つが如し。是上策なり。是未病を治するの道なり。
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