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大和俗訓 / 巻之七・躬行下

一君子は、朝夕つとめて善を行ふ。小人は、朝夕つとめて利を行ふ。君子小人ともに、つとめ行ふといへども、其志は、利と善とかはれり。善に志すは聖人の徒なり。利に志すは盜蹠が徒なりと、孟子のたまへり。利とは、財利をむさぼるのみにあらず、我ひとり勝手よきやうに、便利をはかるも、利心なり。是私なり。私を行へば、必人に害あり。人に害あれば、必わが身の禍となる。善を行はん人は、必先利心を去るべし。利を心にさしはさんでする善は、誠の善にあらず。

新字:一君子は、朝夕つとめて善を行ふ。小人は、朝夕つとめて利を行ふ。君子小人ともに、つとめ行ふといへども、其志は、利と善とかはれり。善に志すは聖人の徒なり。利に志すは盗蹠が徒なりと、孟子のたまへり。利とは、財利をむさぼるのみにあらず、我ひとり勝手よきやうに、便利をはかるも、利心なり。是私なり。私を行へば、必人に害あり。人に害あれば、必わが身の禍となる。善を行はん人は、必先利心を去るべし。利を心にさしはさんでする善は、誠の善にあらず。

書き下し

一君子は、朝夕つとめて善を行ふ。小人は、朝夕つとめて利を行ふ。君子小人ともに、つとめ行ふといへども、其志は、利と善とかはれり。善に志すは聖人の徒なり。利に志すは盗蹠が徒なりと、孟子のたまへり。利とは、財利をむさぼるのみにあらず、我ひとり勝手よきやうに、便利をはかるも、利心なり。是私なり。私を行へば、必人に害あり。人に害あれば、必わが身の禍となる。善を行はん人は、必先利心を去るべし。利を心にさしはさんでする善は、誠の善にあらず。

現代語訳

君子は朝夕努めて善を行います。小人は朝夕努めて利を行います。君子も小人も、ともに努め行うけれども、その志は、利と善とで異なっています。善に志すのは聖人のともがらです。利に志すのは盗跖のともがらだと、孟子は言われました。利とは、財利をむさぼることだけでなく、自分ひとり都合よいように便利を図るのも利の心です。これは私です。私を行えば、必ず人に害があります。人に害があれば、必ず自分の身の禍となります。善を行おうとする人は、必ずまず利の心を去りなさい。利を心にさしはさんでする善は、誠の善ではありません。

解説

『孟子』尽心上篇の、朝早く起きて善を行う者は舜の仲間、利を追う者は大盗賊跖の仲間という話を踏まえています。同じように勤勉でも、何のために努力するかで人の値打ちが分かれるのです。益軒は利を広くとらえ、お金だけでなく、自分だけに都合のよいことを図る心すべてを利と呼びます。それは必ず誰かの害となり、巡って自分に返ってくるというのです。懸命に働くこと自体は同じでも、その志が人のためか自分の都合かを問う視点は、働き方を見直す手がかりになります。

この章句が説くこと

善利君子孟子私

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