大和俗訓 / 巻之六・躬行上
一人と生れては、道に志して、つねに仁を心にたもちて、每日人に利益ある善事を行ふべし。主君、父母、舅姑、兄長などによくつかへ、家人を愛するは皆善なり。又人をめぐみ救ふこと、また善なり。是皆心をつくして行ふべし。人をめぐみ救ふことは、必財を用ふることの多少によらず。唯人の難儀をすくへば、其功大なり。富める者には、財を多くあたへても益なし。貧しき者に施せば、少しあたへても其利益大なり。たとへば、食にあきたる者に又食をあたふるは益なくして却て病となる。うゑたる者には、少し食を與へても利益ふかきが如し。財を多くつひやしても、無益の事に用ふれば人の助とならず。たとへば、萬燈をともしても、あたら油をつひやしたるのみにて利益なし。
新字:一人と生れては、道に志して、つねに仁を心にたもちて、毎日人に利益ある善事を行ふべし。主君、父母、舅姑、兄長などによくつかへ、家人を愛するは皆善なり。又人をめぐみ救ふこと、また善なり。是皆心をつくして行ふべし。人をめぐみ救ふことは、必財を用ふることの多少によらず。唯人の難儀をすくへば、其功大なり。富める者には、財を多くあたへても益なし。貧しき者に施せば、少しあたへても其利益大なり。たとへば、食にあきたる者に又食をあたふるは益なくして却て病となる。うゑたる者には、少し食を与へても利益ふかきが如し。財を多くつひやしても、無益の事に用ふれば人の助とならず。たとへば、万灯をともしても、あたら油をつひやしたるのみにて利益なし。
書き下し
一人と生れては、道に志して、つねに仁を心にたもちて、毎日人に利益ある善事を行ふべし。主君、父母、舅姑、兄長などによくつかへ、家人を愛するは皆善なり。又人をめぐみ救ふこと、また善なり。是皆心をつくして行ふべし。人をめぐみ救ふことは、必財を用ふることの多少によらず。唯人の難儀をすくへば、其功大なり。富める者には、財を多くあたへても益なし。貧しき者に施せば、少しあたへても其利益大なり。たとへば、食にあきたる者に又食をあたふるは益なくして却て病となる。うゑたる者には、少し食を与へても利益ふかきが如し。財を多くつひやしても、無益の事に用ふれば人の助とならず。たとへば、万灯をともしても、あたら油をつひやしたるのみにて利益なし。
現代語訳
人と生まれたからには、道に志して、いつも仁を心に保ち、毎日人に利益のある善事を行いなさい。主君・父母・舅姑・兄や年長者などによく仕え、家の者を愛するのはみな善です。また人を恵み救うことも善です。これらはみな心を尽くして行いなさい。人を恵み救うことは、必ずしも財を用いることの多少によりません。ただ人の難儀を救えば、その功は大きい。富んだ者には、財を多く与えても益がありません。貧しい者に施せば、少し与えてもその利益は大きい。たとえば、食に飽きた者にまた食を与えるのは益がなく、かえって病となります。飢えた者には、少し食を与えても利益が深いようなものです。財を多く費やしても、無益なことに用いれば人の助けにはなりません。たとえば、万灯をともしても、惜しい油を費やしただけで利益はありません。
解説
この章句が説くこと
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『大和俗訓』巻之六・躬行上其費を以て貧人をやしなはば、大なる利益なるべし。善を行ふとは、ただ人の利益になることを行ふにあり。人を利益すれば、天地神明の御心にかなひて、つひに其むくいありて、さいはひを得る理古来そのためし多し。およそ善を行ひて人をすくふこと、上は王公より、下は乞丐にいたるまで、行ふべき道あり。富貴貧賤によらず、ただ善を行ふ志だにあらば、善行はれずといふことなし。善を行ふべき時にあたりて、心をつくすべし。怠るべからず。まづしく賤しき人も、仁に志して行へば、其身に応じ、日々に人に利益あること多し。いはんや富貴の人其志あれば、人を救ふことひろく、其功大なり。たかきも賤しきも、怠なく久しく行へば、善をつむこと限りなし。
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論語・八佾篇子曰く、人にして仁ならずんば、礼を如(いかん)せん;人にして仁ならずんば、楽を如せん。
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論語・憲問篇「克・伐・怨・欲、行われずんば、以て仁と為す可きか。」子曰く、「以て難しと為す可し。仁は則ち吾知らざるなり。」
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論語・里仁篇子曰わく、不仁者は久しく約に処るべからず、長く楽に処るべからず。仁者は仁に安んじ、知者は仁を利とす。
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論語・里仁篇子曰わく、ただ仁者のみよく人を好み、よく人を悪む。
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論語・雍也篇宰我問いて曰く、「仁者は之に告げて『井に仁有り』と曰うと雖も、其れ之に従わんか。」子曰く、「何為れぞ其れ然らんや。君子は逝かしむ可きも、陥る可からず。欺く可きも、罔う可からず。」
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