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大和俗訓 / 巻之六・躬行上

一人に四恩あり。天地の恩、父母の恩、主君の恩、聖人の恩。此四恩わするべからず。天地は人の大父母なり。父母の氣は、卽天地の氣なり。人は天地の氣より生る。又むまれて後は、天地の養をうけて身をたつ。故に天地の恩は、廣大にしてきはまりなし。何を以てか、其恩をむくいんや。天地の御心にしたがひて背かざる、是天地につかへ奉りて、孝をつくし、其恩の萬一を報ずる道なり。天地の御心にしたがふとは何ぞや。人たるものは、天地の、萬物を產みやしなひ給ふ、其御心をうけて心とす。是仁なり。仁とはあはれみの心なり。仁を失はざるは、天地の心にしたがふなり。仁を行ふ道、いかん。天地は、其產める所の人をあつく愛し、次には萬物を愛し給ふ。

新字:一人に四恩あり。天地の恩、父母の恩、主君の恩、聖人の恩。此四恩わするべからず。天地は人の大父母なり。父母の気は、即天地の気なり。人は天地の気より生る。又むまれて後は、天地の養をうけて身をたつ。故に天地の恩は、広大にしてきはまりなし。何を以てか、其恩をむくいんや。天地の御心にしたがひて背かざる、是天地につかへ奉りて、孝をつくし、其恩の万一を報ずる道なり。天地の御心にしたがふとは何ぞや。人たるものは、天地の、万物を産みやしなひ給ふ、其御心をうけて心とす。是仁なり。仁とはあはれみの心なり。仁を失はざるは、天地の心にしたがふなり。仁を行ふ道、いかん。天地は、其産める所の人をあつく愛し、次には万物を愛し給ふ。

書き下し

一人に四恩あり。天地の恩、父母の恩、主君の恩、聖人の恩。此四恩わするべからず。天地は人の大父母なり。父母の気は、即天地の気なり。人は天地の気より生る。又むまれて後は、天地の養をうけて身をたつ。故に天地の恩は、広大にしてきはまりなし。何を以てか、其恩をむくいんや。天地の御心にしたがひて背かざる、是天地につかへ奉りて、孝をつくし、其恩の万一を報ずる道なり。天地の御心にしたがふとは何ぞや。人たるものは、天地の、万物を産みやしなひ給ふ、其御心をうけて心とす。是仁なり。仁とはあはれみの心なり。仁を失はざるは、天地の心にしたがふなり。仁を行ふ道、いかん。天地は、其産める所の人をあつく愛し、次には万物を愛し給ふ。

現代語訳

人には四つの恩があります。天地の恩、父母の恩、主君の恩、聖人の恩です。この四恩を忘れてはいけません。天地は人の大いなる父母です。父母の気は、すなわち天地の気です。人は天地の気から生まれます。また生まれてのちは、天地の養いを受けて身を立てます。だから天地の恩は広大できわまりがありません。何によってその恩に報いましょうか。天地の御心に従って背かないこと、これが天地に仕えて孝を尽くし、その恩の万分の一を報いる道です。天地の御心に従うとはどういうことでしょうか。人たる者は、天地が万物を生み養われる、その御心を受けて心とします。これが仁です。仁とはあわれみの心です。仁を失わないのは、天地の心に従うことです。仁を行う道はどうでしょうか。天地は、その生んだ人を厚く愛し、次に万物を愛されます。

解説

頭注によれば、四恩はもと仏教の言葉(天地・国王・父母・衆生など)で、益軒は聖人の恩を加えて儒学風に言い換えています。天地は人の大いなる父母であり、その恩に報いるには、万物を生み育てる天地の心、つまり仁を自分の心として生きることだと説きます。自然を親とみなし、自然への孝行を仁の実践と結びつける考えは、益軒の思想の根幹です。環境を大切にし、命あるものを慈しむという今日の価値観にも、この天地への感謝の思想は深く響き合います。

この章句が説くこと

四恩天地仁孝報恩

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