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五常訓 / 巻之二・仁之上

いたりて不仁にして、又愚なりと云ふべし。人の子として、親に事へずして、親の用にたゝず、かへりて親にそむき、不孝にして親を苦むるが如し。されば親によく事ふるを孝とし、親に背くを不孝とす。天地によく事ふるを仁とし、天地に背くを不仁とす。仁と孝とは一理なり。天地の恩と父母の恩とは同じ。父母に事ふる心を以て、天地に事ふるは仁なり。天地に事ふる心を以て、父母に事ふるは孝なり。又天理にそむきて人欲を行ふは、我が父母に不孝にして、他人の父母を親むが如し。かへすがへす、たゞ人はあだなる世の迷を悟りて、大恩をうけて人と生れ、身をよせたる處の、いたりて貴き天地の道に朝暮したがひ、身を終るまで天道を畏れつゝしみて、天に事へ奉るべき事にこそあれ。

新字:いたりて不仁にして、又愚なりと云ふべし。人の子として、親に事へずして、親の用にたゝず、かへりて親にそむき、不孝にして親を苦むるが如し。されば親によく事ふるを孝とし、親に背くを不孝とす。天地によく事ふるを仁とし、天地に背くを不仁とす。仁と孝とは一理なり。天地の恩と父母の恩とは同じ。父母に事ふる心を以て、天地に事ふるは仁なり。天地に事ふる心を以て、父母に事ふるは孝なり。又天理にそむきて人欲を行ふは、我が父母に不孝にして、他人の父母を親むが如し。かへすがへす、たゞ人はあだなる世の迷を悟りて、大恩をうけて人と生れ、身をよせたる処の、いたりて貴き天地の道に朝暮したがひ、身を終るまで天道を畏れつゝしみて、天に事へ奉るべき事にこそあれ。

書き下し

いたりて不仁にして、又愚なりと云ふべし。人の子として、親に事へずして、親の用にたたず、かへりて親にそむき、不孝にして親を苦むるが如し。されば親によく事ふるを孝とし、親に背くを不孝とす。天地によく事ふるを仁とし、天地に背くを不仁とす。仁と孝とは一理なり。天地の恩と父母の恩とは同じ。父母に事ふる心を以て、天地に事ふるは仁なり。天地に事ふる心を以て、父母に事ふるは孝なり。又天理にそむきて人欲を行ふは、我が父母に不孝にして、他人の父母を親むが如し。かへすがへす、ただ人はあだなる世の迷を悟りて、大恩をうけて人と生れ、身をよせたる処の、いたりて貴き天地の道に朝暮したがひ、身を終るまで天道を畏れつつしみて、天に事へ奉るべき事にこそあれ。

現代語訳

きわめて不仁で、また愚かというべきです。人の子として、親に仕えず、親の役に立たず、かえって親にそむき、不孝で親を苦しめるようなものです。それゆえ親によく仕えるのを孝とし、親にそむくのを不孝とします。天地によく仕えるのを仁とし、天地にそむくのを不仁とします。仁と孝とは一つの理です。天地の恩と父母の恩とは同じです。父母に仕える心で天地に仕えるのが仁です。天地に仕える心で父母に仕えるのが孝です。また天の理にそむいて人欲を行うのは、自分の父母に不孝で、他人の父母に親しむようなものです。かえすがえすも、ただ人は、はかない世の迷いを悟って、大恩を受けて人と生まれ、身を寄せている所の、きわめて貴い天地の道に朝夕したがい、身を終えるまで天の道を畏れ慎んで、天にお仕えすべきです。

解説

天地に仕えることを仁、父母に仕えることを孝とし、両者は一つの理だと説いています。天理にそむいて人欲にしたがうのは、自分の親に不孝をして他人の親に親しむようなものだというたとえは鋭いものです。「かへすがへす」と重ねる語り口に、晩年の益軒の切実な思いがにじみます。親孝行と、自然や社会への感謝と責任とを一つのものとして捉える見方は、身近な家族への思いやりを大きな世界への責任へとつなげる考え方として参考になります。

この章句が説くこと

仁孝天地父母恩

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