大和俗訓 / 巻之六・躬行上
人わづかなる財をおくり、或は酒肴をおくるも、うくる人これをよろこぶ。いはんや言ひがたき諫をいひ、みづから知りがたき過を聞くをや。わが身において、かゝる大なる益なし。諫を聞くこと、あに幸ならずや。子路のよろこべる事むべなるかな。過を聞くことをきらひ、諫をふせぐは、惡しきの至なり。諫を聞きて過を改むるは、醫を招きて病をいやすが如し。もし過あれども、諫をふせぎて、人の正すことをきらふは、病をそだてゝ醫をきらふが如し。其身を失へどもかへりみず。かなしむべし。
新字:人わづかなる財をおくり、或は酒肴をおくるも、うくる人これをよろこぶ。いはんや言ひがたき諫をいひ、みづから知りがたき過を聞くをや。わが身において、かゝる大なる益なし。諫を聞くこと、あに幸ならずや。子路のよろこべる事むべなるかな。過を聞くことをきらひ、諫をふせぐは、悪しきの至なり。諫を聞きて過を改むるは、医を招きて病をいやすが如し。もし過あれども、諫をふせぎて、人の正すことをきらふは、病をそだてゝ医をきらふが如し。其身を失へどもかへりみず。かなしむべし。
書き下し
人わづかなる財をおくり、或は酒肴をおくるも、うくる人これをよろこぶ。いはんや言ひがたき諫をいひ、みづから知りがたき過を聞くをや。わが身において、かかる大なる益なし。諫を聞くこと、あに幸ならずや。子路のよろこべる事むべなるかな。過を聞くことをきらひ、諫をふせぐは、悪しきの至なり。諫を聞きて過を改むるは、医を招きて病をいやすが如し。もし過あれども、諫をふせぎて、人の正すことをきらふは、病をそだてて医をきらふが如し。其身を失へどもかへりみず。かなしむべし。
現代語訳
人がわずかな財を贈り、あるいは酒肴を贈るのでも、受ける人は喜びます。まして言いにくい諫めを言い、自分では知りがたい過ちを聞かせてくれるのはなおさらです。自分の身にとって、これほど大きな益はありません。諫めを聞くことは、なんと幸いではありませんか。子路が喜んだのももっともです。過ちを聞くことを嫌い、諫めを拒むのは、悪いことの極みです。諫めを聞いて過ちを改めるのは、医者を招いて病を治すようなものです。もし過ちがあっても、諫めを拒んで人に正されるのを嫌うのは、病を育てて医者を嫌うようなものです。その身を失ってもかえりみません。悲しいことです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『初学訓』巻之三人の過は知りやすく、わが過は知りがたきは、人を見るには私なし、故に明らかなり。我が身には私して、過悪をも知らず。わが身に過あれども知らざるは愚なり。知りて改めざるは悪なり、その罪ふかし。明鏡と雖も、其裏を照さず、智者といへども、わが身を知るには暗し。故に、君子はまづ我が身をかへりみて、其過を知るべし。其上道ある人に交りて、其諫をきき、過を改めて善にうつる、是学者の益なり。子路は、人其過を告げきかすれば喜べり。ここを以て、程子の言に、子路も亦百世の師なりといへり。人、わづかなる酒肴くだものなどの贈物をうけてだに、めで喜ばぬものなし。いはんや、過を告げ善言を進むるをや。これほど大なる恵みあらんや。
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『大和俗訓』巻之六・躬行上一わが身聖人にあらず、過多きはむべなりとて、過を知りながら改めざる人は、無下に道に志なき人なり。自暴自棄と云ふべし。かやうの志なき人にならひて、わが過をゆるすべからず。一人の目は百里の遠きを見れども、其背を見ず。明鏡といへども、其うらを照さず。離婁が明目なるも、其まつげを見ることなし。ここを以て、人知ありといへども、わが身のあやまりを知りがたし。故に君子の学は、専らわが身をかへりみ、人の諫を聞用ひ、あやまちを知りて改むるを宗とす。子路は、我が過を人の告ぐるをよろこべり。故に百世の師なりと程子もいへり。人を知ることまことに難しといへど、わが身の悪しきを知るは、又人を知るよりも猶かたし。ここを以て、わが過をつげ知らする人あらば、まことによろこぶべし。
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『呻吟語』内篇・修身・怨む者の指摘を得、愛する者の掩護する能はず平生の為す所、怨む我が者をして以て指摘するを得しめ、愛する我が者をして掩護する能はざらしむ。此れ身を省みるの大懼なり。士君子之を慎め。故に我に過ち無くして謗語滔天たるも諒とするに足らず、談笑して之を受く可し。我に過ち有りて幸ひに聞くに及ばずんば、當に寢ぬるに席に貼かず、食らふに咽を下らざるべし。
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論語・子張篇子貢曰く、君子の過ちや、日月の食の如し。過つや、人皆之を見る。更むるや、人皆之を仰ぐ。
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尉繚子・兵教下太上は過ち無く、其の次は過ちを補う。
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論語・述而篇陳の司敗問う、「昭公は礼を知れるか。」孔子対えて曰く、「礼を知れり。」孔子退く。巫馬期に揖して之を進めて曰く、「吾聞く、君子は党せずと。君子も亦た党するか。君、呉に取りて同姓と為す。之を呉孟子と謂う。君にして礼を知らば、孰か礼を知らざらん。」巫馬期以て告ぐ。子曰く、「丘や幸いなり。苟くも過ち有れば、人必ず之を知る。」
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