大和俗訓 / 巻之四・心術下
一怒と慾とによりて、少の間、少の事を堪忍せずして、莫大のあやまりとなり、一生のわざはひとなる。はては身をうしなふにいたる事あり。つゝしむべし。すこしの間、つつしまずして、災にいたるは、いたりて愚なり。
書き下し
一怒と慾とによりて、少の間、少の事を堪忍せずして、莫大のあやまりとなり、一生のわざはひとなる。はては身をうしなふにいたる事あり。つつしむべし。すこしの間、つつしまずして、災にいたるは、いたりて愚なり。
現代語訳
怒りと欲によって、少しの間、少しのことを堪忍せずに、莫大な誤りとなり、一生の災いとなります。果ては身を失うに至ることもあります。つつしみなさい。少しの間つつしまずに災いに至るのは、きわめて愚かなことです。
解説
短いながら重い一条です。怒りや欲に駆られた一瞬の振る舞いが、取り返しのつかない過ちとなり、ときに命まで失わせると益軒は警告します。その多くは、ほんの少しの間こらえれば避けられたものです。カッとなって口にした一言、衝動的な買い物や投資、あおり運転のような一瞬の激情が人生を狂わせる例は、今も後を絶ちません。「少しの間」をこらえる力こそが一生を守るという教えは、怒りのピークは数秒で過ぎるという現代の知見とも重なります。
この章句が説くこと
堪忍怒り欲災い慎み
関連する章句
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『大和俗訓』巻之四・心術下一万の事、つらつら思案して、後のあやまりなく、悔なからん事をはかるべし。思案なくして、いかりと慾を去らざれば、後の災となる。是智者のしわざにあらず。事を思案せずして、かるがるしく行へば、必あやまりあり。後悔あり。もし急なる事あらば、ことさらよく思案して、詳かに行ふべし。此の如くせば、後のあやまりなかるべし。いそぎて心さわがしく、静ならざれば、思案なくして、必あやまりあり。悔あり。
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『大和俗訓』巻之三・心術上一易に、懲忿窒慾といへり。忿をこらすとは、いかりをおさふるなり。怒は陽に属して、火の物をやくが如し。おこりやすくして人を害し、我が心の徳をそこなふこと甚し。いかる時、先いかりをわすれ、心を和平にして、後理の是非を見るべし。又いかる時、言をいだすべからず。いかる時言を出す詞は、必ひが事ありて後悔多し。つつしみこらへて、言ふべからず。人のいふこと、行ふこと、悪しき事あらば、怒らずして、弥気を平かにし、心を和かにして、其是非を詳かに述ぶべし。人随はずともいかりて心を動かし、気をあらくすべからず。心気和平ならざれば、たとひ其いふこと理に当るとも、其心はまづ非なり。いはんや怒りて心をうごかせば、其いふこと理にあたらざるをや。
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『大和俗訓』巻之三・心術上慾とは、唯財宝をむさぼるのみにあらず、名利、酒食、好色、或は、淫楽、器物、酒宴、佚遊を好みおぼれて、我が私をなすは、皆慾なり。慾をふさぐとは、慾心おこらば、はやく其慾をおさふるを云ふ。すでに慾さかんになりぬれば、心まよひて慾にかちがたし。慾のはじめておこる時、早くふさげば、力を用ふる事すこしにして、其しるし多し。慾は陰に属す。たとへば水の人をおほらすが如く、おぼれやすし。およそ万の悪は、多くは怒と慾よりおこる。七情の内の二の者、尤害多し。我が身をそこなひ、人をそこなふ。おそるべし。又怒と慾との二は、養生の道に甚害あり。
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