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大和俗訓 / 巻之二・為学下

一程子の曰、人の不善をするは、唯知らずとす。言ふ意は、世人の惡をするは、惡のすまじき理を知らざればなり。よく知れらば、などか人の爲わがため惡しきひが事をば行ふべき。たとへば赤子のはらばひて井に入らんとするは、赤子のとがにあらず。いまだ知あらずして、井に入れば死ぬる事を知らざればなり。世の人の惡をするも亦かくのごとし。あはれむべし。故に學問して知をひらき、道を知る事をつとむるは、人間の一大事なり。

新字:一程子の曰、人の不善をするは、唯知らずとす。言ふ意は、世人の悪をするは、悪のすまじき理を知らざればなり。よく知れらば、などか人の為わがため悪しきひが事をば行ふべき。たとへば赤子のはらばひて井に入らんとするは、赤子のとがにあらず。いまだ知あらずして、井に入れば死ぬる事を知らざればなり。世の人の悪をするも亦かくのごとし。あはれむべし。故に学問して知をひらき、道を知る事をつとむるは、人間の一大事なり。

書き下し

一程子の曰、人の不善をするは、唯知らずとす。言ふ意は、世人の悪をするは、悪のすまじき理を知らざればなり。よく知れらば、などか人の為わがため悪しきひが事をば行ふべき。たとへば赤子のはらばひて井に入らんとするは、赤子のとがにあらず。いまだ知あらずして、井に入れば死ぬる事を知らざればなり。世の人の悪をするも亦かくのごとし。あはれむべし。故に学問して知をひらき、道を知る事をつとむるは、人間の一大事なり。

現代語訳

程子は「人が不善をするのは、ただ知らないからである」と言いました。その意味は、世の人が悪をするのは、悪をしてはならない理を知らないからだということです。よく知っていれば、どうして他人のためにも自分のためにも悪い間違いを行うでしょうか。たとえば赤ん坊がはいはいして井戸に落ちそうになるのは、赤ん坊の罪ではありません。まだ知恵がなく、井戸に落ちれば死ぬことを知らないからです。世の人が悪をするのもまたこのようなものです。憐れむべきです。ですから学問して知恵を開き、道を知ることに努めるのは、人間の一大事なのです。

解説

宋の儒者程子(程頤・程顥)の言葉を引き、悪は無知から生まれると説く条です。井戸に這い寄る赤ん坊は悪くない、ただ危険を知らないだけだというたとえは、『孟子』の「孺子まさに井に入らんとす」の場面を思わせます。益軒はここから、悪人を責めるより憐れめと言い、だからこそ学問で知恵を開くことが一大事だと結びます。人の過ちを見たとき、怒る前に「知らないのではないか」と考える視点は、子育てや部下指導にも役立ちます。

この章句が説くこと

知不善学問程子憐れみ

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