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初学訓 / 巻之三

一およそ、善を好まずして惡を行ひ、君に不忠に、親に不孝に、國法を犯しておそれず、人に譏られ惡まれ、身を危くしてつゝしまず、甚しきは、家を破り身を失ふは、なにの故ぞや。おろかにして知なきが故なり。知なきゆゑ、善の行ふべきことも、惡のなすべからざることをも知らず。たとへば、小兒の、知なくして、水火をおそれず、井におち入り火に這入るが如し。又、善の行ふべきことを知らざるは、たとへば、三歲の小兒に、菓と金とを前に列ね置きて取らせんに、必ず菓子をつかみて、金を捨つべし。是知なくして、金の寶なることを知らざればなり。

新字:一およそ、善を好まずして悪を行ひ、君に不忠に、親に不孝に、国法を犯しておそれず、人に譏られ悪まれ、身を危くしてつゝしまず、甚しきは、家を破り身を失ふは、なにの故ぞや。おろかにして知なきが故なり。知なきゆゑ、善の行ふべきことも、悪のなすべからざることをも知らず。たとへば、小児の、知なくして、水火をおそれず、井におち入り火に這入るが如し。又、善の行ふべきことを知らざるは、たとへば、三歳の小児に、菓と金とを前に列ね置きて取らせんに、必ず菓子をつかみて、金を捨つべし。是知なくして、金の宝なることを知らざればなり。

書き下し

一およそ、善を好まずして悪を行ひ、君に不忠に、親に不孝に、国法を犯しておそれず、人に譏られ悪まれ、身を危くしてつつしまず、甚しきは、家を破り身を失ふは、なにの故ぞや。おろかにして知なきが故なり。知なきゆゑ、善の行ふべきことも、悪のなすべからざることをも知らず。たとへば、小児の、知なくして、水火をおそれず、井におち入り火に這入るが如し。又、善の行ふべきことを知らざるは、たとへば、三歳の小児に、菓と金とを前に列ね置きて取らせんに、必ず菓子をつかみて、金を捨つべし。是知なくして、金の宝なることを知らざればなり。

現代語訳

およそ、善を好まずに悪を行い、主君に不忠、親に不孝で、国の法を犯して恐れず、人にそしられ憎まれ、身を危うくして慎まず、はなはだしい者は家を破り身を失うのは、何のためでしょうか。愚かで知がないからです。知がないので、善を行うべきことも、悪をしてはならないことも知りません。たとえば幼い子が、知がないので水や火を恐れず、井戸に落ち、火に這い入るようなものです。また、善を行うべきことを知らないのは、たとえば三歳の子に、菓子と金を前に並べて取らせれば、必ず菓子をつかんで金を捨てるようなものです。これは知がなくて、金が宝であることを知らないからです。

解説

悪を行う原因を、益軒は性格の悪さではなく知の欠如に求めます。幼い子が井戸や火の危なさを知らずに近づくように、善悪の分からない人は自ら災いに飛び込むのだというのです。三歳の子が金より菓子を取る喩えは、目先の楽しみに飛びつき、本当に価値あるものを見逃す人の姿をよく表しています。だからこそ次の条で、知を求めよ、学問せよと説くのです。人を責める前に、その人が知らないだけではないかと考え、教える姿勢を持つことも大切です。

この章句が説くこと

知善悪愚かさ学問価値

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