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大和俗訓 / 自序

あめつちのことわり、人の道は、古の聖人これを經典にしるし給ひ、其明かなる事、日月の天にかゝれるが如くなれば、天下の目ある者は見ざる事なし。いにしへの人、天もし仲尼を生ぜずんば萬世長夜の如くならんといへりしもむべなり。後世の諸賢又よく其志をつぎ、其事を述べ、經義を傳へて來裔をさとし給ふ。かれこれまことに天下後世の大なる幸なるべし。よくよまん人は、其理をしれらん事、たとへば日中に黑白をわかつが如くならん。あに世こぞりてこれをたふとび、身ををはるまで誦せざるべけんや。うらむらくは、わが日の本の俗のならひ、文字にかたくなにて、さばかり聰明の人も、おほくは聖學にうとし。又窮鄕の晩進は、句讀をならひうべき師友にともしく、高貴の家の子弟は、たはぶれあそびをたのしみ、安逸にならひて、學問などに身をくるしめん事いと遠ければ、稼穡の艱難を、すべてしらざるのみならず、五帝三王をも、是何物ぞと思へる疑をまぬかれがたし。

新字:あめつちのことわり、人の道は、古の聖人これを経典にしるし給ひ、其明かなる事、日月の天にかゝれるが如くなれば、天下の目ある者は見ざる事なし。いにしへの人、天もし仲尼を生ぜずんば万世長夜の如くならんといへりしもむべなり。後世の諸賢又よく其志をつぎ、其事を述べ、経義を伝へて来裔をさとし給ふ。かれこれまことに天下後世の大なる幸なるべし。よくよまん人は、其理をしれらん事、たとへば日中に黒白をわかつが如くならん。あに世こぞりてこれをたふとび、身ををはるまで誦せざるべけんや。うらむらくは、わが日の本の俗のならひ、文字にかたくなにて、さばかり聰明の人も、おほくは聖学にうとし。又窮郷の晩進は、句読をならひうべき師友にともしく、高貴の家の子弟は、たはぶれあそびをたのしみ、安逸にならひて、学問などに身をくるしめん事いと遠ければ、稼穡の艱難を、すべてしらざるのみならず、五帝三王をも、是何物ぞと思へる疑をまぬかれがたし。

書き下し

あめつちのことわり、人の道は、古の聖人これを経典にしるし給ひ、其明かなる事、日月の天にかかれるが如くなれば、天下の目ある者は見ざる事なし。いにしへの人、天もし仲尼を生ぜずんば万世長夜の如くならんといへりしもむべなり。後世の諸賢又よく其志をつぎ、其事を述べ、経義を伝へて来裔をさとし給ふ。かれこれまことに天下後世の大なる幸なるべし。よくよまん人は、其理をしれらん事、たとへば日中に黒白をわかつが如くならん。あに世こぞりてこれをたふとび、身ををはるまで誦せざるべけんや。うらむらくは、わが日の本の俗のならひ、文字にかたくなにて、さばかり聰明の人も、おほくは聖学にうとし。又窮郷の晩進は、句読をならひうべき師友にともしく、高貴の家の子弟は、たはぶれあそびをたのしみ、安逸にならひて、学問などに身をくるしめん事いと遠ければ、稼穡の艱難を、すべてしらざるのみならず、五帝三王をも、是何物ぞと思へる疑をまぬかれがたし。

現代語訳

天地の理と人の道は、古の聖人が経典に書き記されました。その明らかなことは、日と月が天にかかっているようなものですから、天下の目のある者で見ない者はありません。昔の人が「天がもし孔子を生まなかったら、万世は長い夜のようであっただろう」と言ったのも、もっともなことです。後の世の賢人たちもまたよくその志を継ぎ、その事を述べ、経書の意味を伝えて子孫を諭してくださいました。これらはまことに天下後世にとって大きな幸いです。よく読む人がその理を知ることは、たとえば真昼に白と黒を見分けるようなものでしょう。どうして世を挙げてこれを尊び、生涯これを口ずさまずにいられましょうか。残念なのは、わが日本の世間の習わしが文字にうとく、あれほど聡明な人でも多くは聖人の学問にうといことです。また田舎に住む後進は、句読を習えるような師や友に乏しく、身分の高い家の子弟は遊び戯れを楽しみ、安楽に慣れて、学問などに身を苦しめることからはほど遠いので、農作業の苦労をまったく知らないばかりか、五帝三王についてさえ「これは何者だ」と思うような疑いを免れがたいのです。

解説

自序の書き出しで、益軒は聖人の教えが経書に明らかに記されているのに、日本ではそれが読まれていないことを嘆いています。「天が仲尼を生まなければ万世は長夜のよう」は宋代に広まった言葉で、孔子の教えの大きさをたとえたものです。益軒は、学ぶ機会のない地方の若者と、学ぶ気のない裕福な家の子を並べて挙げます。学べない人と学ばない人は、今もどちらもいます。良い本が手に届くことと、それを読む習慣があることは別の問題なのだと気づかされます。

この章句が説くこと

学問聖人経書読書教育

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