葉隠 / 聞書第十一
自火の仕組、公私共に兼て仕置くべき事なり。歷々御大名方にても、自火の時、外聞惡しき事これ有り候。肝要は諸道具一色も直し申さず、燒捨て候覺悟にて、粉骨火を消し、手に及ばざる時、丸燒仕り候へば、仕損有るまじく候。いかやうの急火にても、うろたへ申さず候はゞ、身拵への間とれ無き事はあるまじく候。兼々家內の男女共に、能く申聞かせ召置かるべき事に候。江戸御屋敷にても、仕組、衆々能く有るべき事に候。大事の物仕分け、直し置くべき事なり。
新字:自火の仕組、公私共に兼て仕置くべき事なり。歴々御大名方にても、自火の時、外聞悪しき事これ有り候。肝要は諸道具一色も直し申さず、焼捨て候覚悟にて、粉骨火を消し、手に及ばざる時、丸焼仕り候へば、仕損有るまじく候。いかやうの急火にても、うろたへ申さず候はゞ、身拵への間とれ無き事はあるまじく候。兼々家内の男女共に、能く申聞かせ召置かるべき事に候。江戸御屋敷にても、仕組、衆々能く有るべき事に候。大事の物仕分け、直し置くべき事なり。
書き下し
自火(じか)の仕組(しくみ)、公私共に兼(かね)て仕置くべき事なり。歴々(れきれき)御大名方にても、自火の時、外聞(がいぶん)悪しき事これ有り候。肝要は諸道具一色(ひといろ)も直し申さず、焼き捨て候覚悟にて、粉骨火を消し、手に及ばざる時、丸焼(まるやけ)仕り候えば、仕損(しそん)有るまじく候。いかようの急火にても、うろたえ申さず候わば、身拵(みごしら)えの間(ま)とれ無き事はあるまじく候。兼々(かねがね)家内(かない)の男女共に、能く申聞かせ召置かるべき事に候。江戸御屋敷にても、仕組、衆々(しゅうじゅう)能く有るべき事に候。大事の物仕分け、直し置くべき事なり。
現代語訳
自宅から出火したときは、家財道具をすべて焼き捨てる覚悟で消火に全力を尽くせ。火事への備えは、公私ともにあらかじめ整えておくべきことだ。名だたる大名家でも、自邸から火を出したとき、体裁の悪いふるまいをすることがある。肝心なのは、家財は一つも持ち出そうとせず焼き捨てる覚悟で、力の限り火を消し、手に負えなくなって丸焼けになったとしても、それなら不始末にはならない。どれほど急な火事でも、うろたえさえしなければ、身支度をする時間が取れないことはない。日頃から家中の男女によく言い聞かせておくべきことだ。江戸の屋敷でも、この備えは十分に整えておくべきである。大事な物は仕分けて、しまっておくべきだ。
解説
この章句が説くこと
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説苑・建本豊牆磽下は未だ必ずしも崩れざるも、流行潦至れば、壊るること必ず先んず。樹の本浅く、根垓深からざるは、未だ必ずしも橛れざるも、飄風起こり暴雨至れば、抜けること必ず先んず。君子是の国に居りて、仁義を崇めず賢臣を尊ばざるも、未だ必ずしも亡びざるも、然れども一旦非常の変有らば、車馳せ人走り、指して禍至れば、乃ち始めて喉を干し唇を燋がし、天を仰ぎて歎じ、庶幾わくは天其れ之を救わんと、亦難からずや。孔子曰わく、「其の前を慎まずして其の後を悔ゆれば、悔ゆると雖も及ぶ無し」と。詩に曰わく、「其れ啜りて泣く、何ぞ嗟くも及ばん」と。本を先に正さずして末に憂いを成すを言うなり。
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葉隠・聞書第十一旅宿(りょしゅく)にては、先づ裏道詰(うらみちづま)り、後架(こうか)等見屆(みとど)け、火事の時分、退場(たいじょう)方角心當(こころあ)ていし、家の住居(すまい)、壁、天井、床、戸、障子、緣(えん)、疊(たたみ)等まで氣を附くべし。二重壁、床板取りはなしに拵(こしら)え、又は掛物(かけもの)の下の壁を明(あ)け、夜更けてより盜賊(とうぞく)入込(いりこ)む事あるべし。就中(なかんずく)御本陣(ごほんじん)に心を附くべし。休み候時、跡(あと)にならざる樣に仕るべきなり。
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