和俗童子訓 / 巻之五・教女子法
女子に見せしむる草紙もえらぶべし。古の事しるせるふみの類は害なし。聖賢の正しき道を敎へずして、ざればみたる小唄淨瑠理本など見せしむる事なかれ。又伊勢物語、源氏物語など、其詞は風雅なれども、かやうの淫俗の事を記せるふみを、早く見せしむべからず。又女子も、物を正しく書き、算數を習ふべし。物書き算を知らざれば、家の事を記し、財を計ること能はず。必是を敎ふべし。
新字:女子に見せしむる草紙もえらぶべし。古の事しるせるふみの類は害なし。聖賢の正しき道を教へずして、ざればみたる小唄浄瑠理本など見せしむる事なかれ。又伊勢物語、源氏物語など、其詞は風雅なれども、かやうの淫俗の事を記せるふみを、早く見せしむべからず。又女子も、物を正しく書き、算数を習ふべし。物書き算を知らざれば、家の事を記し、財を計ること能はず。必是を教ふべし。
書き下し
女子に見せしむる草紙もえらぶべし。古の事しるせるふみの類は害なし。聖賢の正しき道を教へずして、ざればみたる小唄浄瑠理本など見せしむる事なかれ。又伊勢物語、源氏物語など、其詞は風雅なれども、かやうの淫俗の事を記せるふみを、早く見せしむべからず。又女子も、物を正しく書き、算数を習ふべし。物書き算を知らざれば、家の事を記し、財を計ること能はず。必是を教ふべし。
現代語訳
女子に見せる草紙も選びなさい。昔のことを記した書物の類は害がありません。聖賢の正しい道を教えずに、しゃれた小唄や浄瑠璃の本などを見せてはなりません。また伊勢物語や源氏物語などは、その言葉は風雅ですけれども、このような淫らな俗事を記した書物を、早くから見せてはなりません。また女子も、物を正しく書き、算数を習いなさい。読み書きと算数を知らなければ、家のことを記録し、財を計算することができません。必ずこれを教えなさい。
解説
この章句が説くこと
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『和俗童子訓』巻之五・教女子法一七歳より和字を習はしめ、又をとこもじをも習はしむべし。淫思なき古歌を多く読ましめて、風雅の道を知らしむべし。是また男子の如く、初は数目有る句、短き事ども許多よみ覚えさせて後、孝経の首章、論語学而篇、曹大家が女誠など読ましめ、孝順貞潔の道を教ふべし。十歳より外に出ださず、閨門の内にのみ居て、おりぬひ、うみつむぐわざを習はしむべし。仮にも淫佚なる事を聞かせ知らしむべからず。小唄浄瑠理三味線の類、淫声を好めば、心をそこなふ。かやうの賤しきたはぶれたる事を以て、女子の心をなぐさむるはあしし。風雅なるよき事を習はしめて、心をなぐさむべし。此比の婦人は、淫声を好んで女子に教ふ。是甚風俗心術をそこなふ。幼き時悪しき事を見聞き習ひては、早く移り易し。
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『和俗童子訓』巻之五・教女子法一男子は外に出でて、師に従ひ、物を学び、朋友に交り、世上の礼法を見聞するものなれば、親の教のみにあらず、外にて見聞する事多し。女子は常に内に居て、外に出でざれば、師友にしたがひて、道を学び、世上の礼義を見習ふべきやうなし。ひとへに親の教を以て、身を立つるものなれば、父母の教怠るべからず。親の教なくて育てぬる女は、礼義を知らず、女の道にうとく、女徳を慎まず、且女功のまなびなし。是皆父母の子を愛する道を知らざればなり。
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『和俗童子訓』巻之五・教女子法一女子を育つるも、初は大やう男子と異なる事なし。女子は他家に行きて、他人に事ふるものなれば、ことさら不徳にては、舅姑夫の心に叶ひ難し。幼くて生先こもれる窓の内より、能く教ふべき事にこそ侍れ。不徳なる事あらば、早く戒むべし。子を思ふ道に迷ひ、愛に溺れ、姑息して其悪しきことをゆるし、其性をそこなふべからず。年に随ひて、まづ早く女徳を教ふべし。女徳とは、女の心ざまの正しくして善なるを云ふ。凡女は、容より心の優れるこそめでたかるべけれ。女徳をえらばず、容を本としてかしづくは、いにしへ今の世の悪しきならはしなり。古の賢き人は、容の勝れてみにくきをも嫌はで、心ざまの勝れたるをこそ、后妃にもかしづき備へさせ給ひけれ。
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『和俗童子訓』巻之五・教女子法一およそ此十三ヶ条を、女子のいまだ嫁せざる前に、能く教ふべし。又書きつけて与へ、をりをり読ましめ、忘るることなく、これを守らしむべし。凡世の人の女子を嫁せしむるに、必、其家の分限に過ぎて、甚おごり、花美をなし、多くの財を費し用ひ、衣服器物などを、いくらも買ひととのへ、其余の饗応贈答のつひえも亦夥し、これ世の習はしなり。されど女子をいましめ教へて、其身を慎み治めしむること、衣服器物をかざれるより、女子のため甚利益ある事を知らず、幼き時より嫁して後に至るまで、何の教もなくて、唯其生れつきに任せぬれば、身を慎み家を治る道を知らず、夫の家に行きて、おごり怠り、しうと夫に順はずして、人に疎まれ、夫婦和順ならず。
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『和俗童子訓』巻之五・教女子法一凡女子は、家にありては父母に事へ、夫に嫁しては、しうと夫に親しくなれ近づきて事ふる者なれば、其身をきよくして、けがらはしくすべからず。是また女子のつとむべきわざなり。一父母となる者、女子のいとけなきより、男女の別を正しくし、行儀をかたくいましめ教ふべし。父母の教なく、たはれたる行あれば、一生の身を徒にすて、名をけがし、父母兄弟に恥を与へ、見聞く人に爪はじきをせられん事こそ、口惜しく浅ましきわざなれ。万いみじくとも、塵ばかりもかかる事あらば、玉の盃のそこなきにも劣りなん。俗の諺に、万能一心と云へるも、かかる事なり。是を以て、女は心一つを貞しく潔くして、如何なる変にあひて、たとひ命を失ふとも、節義を堅く守るこそ、此生後の世までの面目ならめ。
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『和俗童子訓』巻之五・教女子法常に心遣ひをして、身を守る事堅きに過ぎたらん程はよかるべし。人に向ひ、やはらかにざればみて、かろらかなるは、必節義を失ひあやまちの出来るもとゐなり。和順を女徳とすると、たはれの心の、やはらかにして守りなく、かろびたると、其すぢかはれること、云ふにおよばず。古人は、兄弟といへども、幼より男女席を同じくせず、夫の衣桁に妻の衣服を懸けず、衣服も同じ器にをさめず、衣裳をも通用せず、ゆあみする所もことなり。是夫婦すら、別を正しくするなり。況や夫婦ならざる男女は、云ふに及ばず。男女の分、内外の別を正しくするは、古の道なり。
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