和俗童子訓 / 巻之四・手習法
一筆を執るに、眞書は軸を低く、草は高く取る。行は其間なり。眞一行二草三といふ。一腕法三あり。枕腕あり、提腕あり、懸腕あり。枕腕は左の手を右の手の下に枕にさするなり。是小字を書く法なり。提腕は肘は机につけて、腕をあげて書くなり。是中字を書く法なり。懸腕は腕をあげて空中に書くなり。是大字を書く法なり。腕を下につくればはたらかず。是小字中字大字を書く三法なり。
新字:一筆を執るに、真書は軸を低く、草は高く取る。行は其間なり。真一行二草三といふ。一腕法三あり。枕腕あり、提腕あり、懸腕あり。枕腕は左の手を右の手の下に枕にさするなり。是小字を書く法なり。提腕は肘は机につけて、腕をあげて書くなり。是中字を書く法なり。懸腕は腕をあげて空中に書くなり。是大字を書く法なり。腕を下につくればはたらかず。是小字中字大字を書く三法なり。
書き下し
一筆を執るに、真書は軸を低く、草は高く取る。行は其間なり。真一行二草三といふ。一腕法三あり。枕腕あり、提腕あり、懸腕あり。枕腕は左の手を右の手の下に枕にさするなり。是小字を書く法なり。提腕は肘は机につけて、腕をあげて書くなり。是中字を書く法なり。懸腕は腕をあげて空中に書くなり。是大字を書く法なり。腕を下につくればはたらかず。是小字中字大字を書く三法なり。
現代語訳
筆を持つのに、楷書は軸を低く、草書は高く持ちます。行書はその間です。「楷一、行二、草三」と言います。腕の使い方の法は三つあります。枕腕・提腕・懸腕です。枕腕は、左手を右手の下に枕のようにさせることです。これは小さな字を書く法です。提腕は、肘を机につけて、腕を上げて書くことです。これは中くらいの字を書く法です。懸腕は、腕を上げて空中で書くことです。これは大きな字を書く法です。腕を下につけると働きません。これが小字・中字・大字を書く三つの法です。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『和俗童子訓』巻之四・手習法一指を以て筆を動かす事勿れ。大字は肘をうごかし、小字は腕をうごかす。筆のはたらき自由なるべし。指は執る事を主どり、肘腕は動くことを主どる。指はうごかすべからず。一筆の執りやうは正しくして、筆さきの横にあたらざるやうに、筆鋒を正しく直にすべし。筆直に正しければ、筆鋒あらはれずしてよし。筆傾けば鋒あらはる。筆鋒の当る所を、あらはれざるやうに蔵すべし。左の筆を起す所、殊にあらはれざるがよし。鳥の口嘴の如くとがれるは悪しし。又右のかどに肩をあらはすべからず。鋒は常に画中にあらしむべし。これを蔵鋒と云ふ。蔵鋒をよしとす。
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『和俗童子訓』巻之四・手習法世俗文盲なる人、真書を早く学べば、手腕すくむと云ふは誤なり。是書法を知らざる人の言ふ事なり。初学より真書を能く書習ふべし。初学の時、真草ともに小字のみ書きて、大字を書かざれば、手すくみてはたらかず。故に初て手習ふには、真草ともに大に書くべし。其後には、次第に細字をも書習ふべし。手のすくむとはたらくとは、習字の大小にあり、真草によらず。
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『和俗童子訓』巻之四・手習法一字を学ぶには、必まづ真書を大文字に書習ふべし。内閣字府の七十二筆を先うつすべし。次に行書を習ふべし。凡字を書習ふには、真行草共に古人の能書を法とすべし。東坡が曰、真は行を生じ、行は草を生ず。真は人の立つが如く、行は人の行くが如く、草は人の走るが如し。いまだ立たずして、能く行き能く走る者はあらじと云へり。是を以て見るに、真は本なり、草は末なり。唐土には、まづ真書より学ばしむる故に、字画正しく誤なし。倭俗は真字を学ばざる故に、文字を知らず、字画に誤多し。真書を学ばざれば、草書にも誤多し。本邦近代の先輩、さばかり能書の名を得たる人多けれど、真書を学ばざるゆゑ、其筆跡、真草共に多くは誤字あり、証とするに足らず。
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『和俗童子訓』巻之四・手習法一小児の時より、大字を多く書習へば、手くつろぎはたらきてよし。小字を書きて、大字を書かざれば手すくみてはたらかず。字を習ふに、紙を惜まず、大に書くべし。大に書習へば、手はたらきて自由になり、又年長じて後、大字を書くに善し。もし小字のみを書習へば、手腕すくみて、長じて後、大字を書く事なり難し。手習ふには、悪しき筆にて書くべし。後に筆をえらばずして善し。もしよき筆にて書習へば、後悪しき筆にて書く時、筆跡悪しし。時々よき紙に書くべし。悪しき紙にのみ書習へば、よき紙に書く時、手すくみてはたらかず。真字を書く法、大なる字はつづめて小ならしめ、小字はのべて大ならしめ、短字は長く長字は短くすべし。横の筆画は細きがよし。竪の筆画はあらきがよし。横に二字合せて一とする字は、ひろくすべからず。上下二字合せて一とする字は、長くすべからず。疎は密に、密は疎なるべし。骨多きに宜し、肉多きに宜しからず。皆是筆法の習ひなり。
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『和俗童子訓』巻之四・手習法一凡文字を書習ふに、高く墨を取り、端正にすりて、すり口をゆがむべからず。手をけがす事勿れ。高く筆を取り、双鈎し、端正に字を書くべし。双鈎とは筆の取りやうなり。凡字を書くに、一筆一画平正分明にして、老草に書くべからず。老草とは、平正ならず、わがままに疎忽に書くをいふ。手本を能く見て、違はざるやうに、しづかに学ぶべし。才に任せ達者ぶりして、老草に書けば、手跡あがらず。書を写し習ふに平正に書くべし。常の書札など書くにも、手習と思ひて、慎みて正しく書くべし。斯の如くすれば、手跡進み易し。手を習ふには、まづ筆の取りやうを知るべし。
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『和俗童子訓』巻之四・手習法一虚円正緊は、筆を取る四法なり。知らずんばあるべからず。虚とは、指を掌に近づけずして、掌の内を虚しくひろくするを云ふ。鐙の形の如くなるをよしとす。円とは、掌の外、手の甲を円くして、かどなきを云ふ。虚円の二は掌の形なり。正とは、筆をすぐにして、前後左右にかたよらざるを云ふ。斯の如くならざれば、筆鋒あらはれ、横あたりあり。緊とは、筆をきびしく堅く取りて、やはらかならざるを云ふ。上より抜き取られざるやうに執りてよし。斯の如くならざれば、筆に力なくして弱し。正緊の二は筆の形なり。此四法は、筆を執るならひなり。日本流の筆の執りやうは、是に異なり、単鈎に取りて筆鋒を先へ出し、やはらかにして、上より抜き取るをよしとす。
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