和俗童子訓 / 巻之四・手習法
一指を以て筆を動かす事勿れ。大字は肘をうごかし、小字は腕をうごかす。筆のはたらき自由なるべし。指は執る事を主どり、肘腕は動くことを主どる。指はうごかすべからず。一筆の執りやうは正しくして、筆さきの横にあたらざるやうに、筆鋒を正しく直にすべし。筆直に正しければ、筆鋒あらはれずしてよし。筆傾けば鋒あらはる。筆鋒の當る所を、あらはれざるやうに藏すべし。左の筆を起す所、殊にあらはれざるがよし。鳥の口嘴の如くとがれるは惡しゝ。又右のかどに肩をあらはすべからず。鋒は常に畫中にあらしむべし。これを藏鋒と云ふ。藏鋒をよしとす。
新字:一指を以て筆を動かす事勿れ。大字は肘をうごかし、小字は腕をうごかす。筆のはたらき自由なるべし。指は執る事を主どり、肘腕は動くことを主どる。指はうごかすべからず。一筆の執りやうは正しくして、筆さきの横にあたらざるやうに、筆鋒を正しく直にすべし。筆直に正しければ、筆鋒あらはれずしてよし。筆傾けば鋒あらはる。筆鋒の当る所を、あらはれざるやうに蔵すべし。左の筆を起す所、殊にあらはれざるがよし。鳥の口嘴の如くとがれるは悪しゝ。又右のかどに肩をあらはすべからず。鋒は常に画中にあらしむべし。これを蔵鋒と云ふ。蔵鋒をよしとす。
書き下し
一指を以て筆を動かす事勿れ。大字は肘をうごかし、小字は腕をうごかす。筆のはたらき自由なるべし。指は執る事を主どり、肘腕は動くことを主どる。指はうごかすべからず。一筆の執りやうは正しくして、筆さきの横にあたらざるやうに、筆鋒を正しく直にすべし。筆直に正しければ、筆鋒あらはれずしてよし。筆傾けば鋒あらはる。筆鋒の当る所を、あらはれざるやうに蔵すべし。左の筆を起す所、殊にあらはれざるがよし。鳥の口嘴の如くとがれるは悪しし。又右のかどに肩をあらはすべからず。鋒は常に画中にあらしむべし。これを蔵鋒と云ふ。蔵鋒をよしとす。
現代語訳
指で筆を動かしてはなりません。大きな字は肘を動かし、小さな字は腕を動かします。筆の働きを自由にしなさい。指は持つことをつかさどり、肘と腕は動くことをつかさどります。指は動かしてはなりません。筆の持ち方は正しくして、筆先が横に当たらないように、筆の穂先を正しくまっすぐにしなさい。筆がまっすぐで正しければ、穂先が表れなくてよいのです。筆が傾けば穂先が表れます。穂先の当たる所を、表れないように隠しなさい。左の、筆を起こす所は、特に表れないのがよいのです。鳥のくちばしのようにとがっているのは悪いのです。また右の角に肩を表してはなりません。穂先は常に点画の中にあるようにしなさい。これを「蔵鋒」と言います。蔵鋒をよしとします。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『和俗童子訓』巻之四・手習法一筆を執るに、真書は軸を低く、草は高く取る。行は其間なり。真一行二草三といふ。一腕法三あり。枕腕あり、提腕あり、懸腕あり。枕腕は左の手を右の手の下に枕にさするなり。是小字を書く法なり。提腕は肘は机につけて、腕をあげて書くなり。是中字を書く法なり。懸腕は腕をあげて空中に書くなり。是大字を書く法なり。腕を下につくればはたらかず。是小字中字大字を書く三法なり。
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『和俗童子訓』巻之四・手習法一小児の時より、大字を多く書習へば、手くつろぎはたらきてよし。小字を書きて、大字を書かざれば手すくみてはたらかず。字を習ふに、紙を惜まず、大に書くべし。大に書習へば、手はたらきて自由になり、又年長じて後、大字を書くに善し。もし小字のみを書習へば、手腕すくみて、長じて後、大字を書く事なり難し。手習ふには、悪しき筆にて書くべし。後に筆をえらばずして善し。もしよき筆にて書習へば、後悪しき筆にて書く時、筆跡悪しし。時々よき紙に書くべし。悪しき紙にのみ書習へば、よき紙に書く時、手すくみてはたらかず。真字を書く法、大なる字はつづめて小ならしめ、小字はのべて大ならしめ、短字は長く長字は短くすべし。横の筆画は細きがよし。竪の筆画はあらきがよし。横に二字合せて一とする字は、ひろくすべからず。上下二字合せて一とする字は、長くすべからず。疎は密に、密は疎なるべし。骨多きに宜し、肉多きに宜しからず。皆是筆法の習ひなり。
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『和俗童子訓』巻之四・手習法一手習の後は、物を書くに硯池の水を染めず。新水を墨する所に入れて、墨をすり、時に臨みて染むべし。一筆に墨を染むる事、大字を書くにも、三分に過ぐべからず。深くひたすは、筆よわくして力なし。細字は猶もみじかく染むべし。
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『和俗童子訓』巻之四・手習法一凡文字を書習ふに、高く墨を取り、端正にすりて、すり口をゆがむべからず。手をけがす事勿れ。高く筆を取り、双鈎し、端正に字を書くべし。双鈎とは筆の取りやうなり。凡字を書くに、一筆一画平正分明にして、老草に書くべからず。老草とは、平正ならず、わがままに疎忽に書くをいふ。手本を能く見て、違はざるやうに、しづかに学ぶべし。才に任せ達者ぶりして、老草に書けば、手跡あがらず。書を写し習ふに平正に書くべし。常の書札など書くにも、手習と思ひて、慎みて正しく書くべし。斯の如くすれば、手跡進み易し。手を習ふには、まづ筆の取りやうを知るべし。
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『和俗童子訓』巻之四・手習法一双鈎とは筆の持ちやうなり。大指と食指中指の二指と対してはさむを云ふ。食指一をかけてはさむをば単鈎と云ふ。単鈎は手かたまらずして、筆に力なし。故に双鈎をよしとす。日本流は多く単鈎を用ふ。双鈎の法は、まづ筆を大指と食指にてはさむに、大指のはらと食指の中節のわきに、筆をあらしむべし。此二指は力を主どる。次に中指をかがめて、筆を指のとがりに附け、筆をおさへ、次に無名指の外、爪と肉とのきはに筆をあて、上におさへあげて、中指と相対してさしはさみ、中指は外より内におさへ、無名指は内より外へおす。此二指は運動を主どる。大指と食指にて、上にて挟みたる筆を、また中指と無名指を以て、下にて挟み、堅固にするなり。次に子指は無名指の下かどにつらねて、無名指の力を助く。筆の左に行き右に行く時、無名指をたすけて導き送る。筆を取る事、五指ともに浅きをよしとす。浅ければ力強くして、はたらき自由なり。
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『和俗童子訓』巻之四・手習法世俗文盲なる人、真書を早く学べば、手腕すくむと云ふは誤なり。是書法を知らざる人の言ふ事なり。初学より真書を能く書習ふべし。初学の時、真草ともに小字のみ書きて、大字を書かざれば、手すくみてはたらかず。故に初て手習ふには、真草ともに大に書くべし。其後には、次第に細字をも書習ふべし。手のすくむとはたらくとは、習字の大小にあり、真草によらず。
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