和俗童子訓 / 巻之二・総論下
故に長命なる人、多くは下戶なり。たとひ生れつきて酒を好むとも、若き時より愼みて、多く飮むべからず。凡上戶の過失甚多し。醉に乘りては、謹厚なる人も狂人となり、言ふまじき事を言ひ、爲すまじき事をなし、ことば少なき者も、言葉多くなる。戒むべし。酒後のことば、愼みて多くすべからず。又醉中の怒を愼み、醉中に書狀を人に送るべからず。むべも昔の人は、酒を名づけて狂藥とは云へりけん。貧賤なる人は、酒を好めば、必財を失ひ、家を保たず。富貴なる人酒にふければ、德行亂れて、家を破る。高き賤しき、其わざはひは逃れず。戒むべし。
新字:故に長命なる人、多くは下戸なり。たとひ生れつきて酒を好むとも、若き時より慎みて、多く飲むべからず。凡上戸の過失甚多し。酔に乗りては、謹厚なる人も狂人となり、言ふまじき事を言ひ、為すまじき事をなし、ことば少なき者も、言葉多くなる。戒むべし。酒後のことば、慎みて多くすべからず。又酔中の怒を慎み、酔中に書状を人に送るべからず。むべも昔の人は、酒を名づけて狂薬とは云へりけん。貧賤なる人は、酒を好めば、必財を失ひ、家を保たず。富貴なる人酒にふければ、徳行乱れて、家を破る。高き賤しき、其わざはひは逃れず。戒むべし。
書き下し
故に長命なる人、多くは下戸なり。たとひ生れつきて酒を好むとも、若き時より慎みて、多く飲むべからず。凡上戸の過失甚多し。酔に乗りては、謹厚なる人も狂人となり、言ふまじき事を言ひ、為すまじき事をなし、ことば少なき者も、言葉多くなる。戒むべし。酒後のことば、慎みて多くすべからず。又酔中の怒を慎み、酔中に書状を人に送るべからず。むべも昔の人は、酒を名づけて狂薬とは云へりけん。貧賤なる人は、酒を好めば、必財を失ひ、家を保たず。富貴なる人酒にふければ、徳行乱れて、家を破る。高き賤しき、其わざはひは逃れず。戒むべし。
現代語訳
ですから長生きする人は、多くは下戸です。たとえ生まれつき酒が好きでも、若い時から慎んで、多く飲んではなりません。およそ上戸の過失ははなはだ多いのです。酔いに乗ると、慎み深い人も狂人のようになり、言ってはならないことを言い、してはならないことをし、口数の少ない者も口数が多くなります。戒めなさい。酒の後の言葉は、慎んで多くしてはなりません。また酔っている時の怒りを慎み、酔っている時に手紙を人に送ってはなりません。なるほど昔の人は、酒を名づけて「狂薬」と言ったのでしょう。貧しい人は酒を好めば必ず財を失い、家を保てません。富貴な人が酒にふければ、徳行が乱れて家を破ります。身分の高い者も低い者も、その禍からは逃れられません。戒めなさい。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『和俗童子訓』巻之二・総論下一子孫幼き時より、堅くいましめて酒を多く飲ましむべからず。飲みならへば、下戸も上戸となりて、後年に至りては、いよいよ多く飲み、恣になり易し。癖となりては一生改まらず。礼記にも、酒は老を養ふ所以なり、病を養ふ所以なりと云へり。尚書には、神を祭るにのみ酒を用ふべき由を云へり。然れば、酒は老人病者の身を養ひ、又神前に備へん料に造れるものなれば、年少の人の、恣に飲むべき理にあらず。酒をむさぼる者は、人のよそ目も見苦しく、威儀を失ひ、口のあやまり、身のあやまりありて、徳行をそこなひ、時日を費し、財宝を失ひ、名をけがし、家を破り、身を亡すも、多くは酒の失よりおこる。又酒を好む人は、必血気を破り、脾胃をそこなひ、病を生じて、命みじかし。
-
『楽訓』巻之上・総論一酒は天の美禄なり。少し飲めば、心を寛くし、憂をけし、興をやり、元気を補ひ、血気をめぐらし、人と歓を合せ、楽を助けて、其益多し。もし多く飲んで酩酊すれば、人の見る目も見ぐるしく、言おほく、妄に語り、すがたも常にかはりて慎なく、心あらくして狂するが如し。古人是を狂薬といへるもむべなり。其上病を生じてくすしがたく、大なるわざはひとなる。若き時より多飲をいましめざれば、習ひてくせとなる、うらめし。是を以て、古語に、酒は微酔にのみ、花は半開に見るといへり。酒を飲まば微酔を限りとして、楽を失はざるべし。ほしいままに飲んで、苦を求むべからず。天の美禄として、楽を生ずるめでたき物なるを以て、かへつて狂薬とし大なる禍をなして、憂を生ずるは、むげの事なり。
-
『養生訓』巻第四・飲酒一酒を飲むには、各人によりてよき程の節あり。少し飲めば益多く、多く飲めば損多し。性謹厚なる人も、多飲を好めばむさぼりて見ぐるしく、平生の心を失ひ、乱に及ぶ。言行ともに狂せるがごとし。其平生とは似ず、身をかへりみ慎むべし。若き時より、早くかへりみてみづから戒め、父兄もはやく子弟を戒むべし。久しくならへば性となる。くせになりては一生改まりがたし。生れつきて飲量すくなき人は、一二盞飲めば酔ひて気快く楽あり。多く飲む人と其楽同じ。多飲するは害多し。白楽天が詩に、一飲一石の者、徒らに多きを以て貴しと為す。其の酩酊の時に及んでは、我と亦異なること無し。笑ひて多飲の者に謝す、酒銭徒らに自ら費すとといへるはむべなり。
-
『養生訓』巻第四・飲酒一五湖漫聞といへる書に、多く長寿の人の姓名と年数を載せて、其人皆老に至りて衰へず、之に問へば皆酒を飲まずといへり。今わが里の人を試みるに、すぐれて長命の人、十人に九人は皆酒を飲まざる人なり。酒を多く飲む人の長命なるはまれなり。酒は半酔に飲めば長生の薬となる。
-
『家道訓』巻之二・総論中古人も、酒は微酔にのみ、花は半開に見るといへり。主も客も、少したらざる程に飲むべし。十分にゑふは、必ず後のうれひとなる。殊に下部は、ほしいままに飲めば、狂してわざはひとなる。吉田兼好がいへる事むべなり。およそ、酒をほしいままにすれば、たかきいやしき家をやぶり身を失ふ。いましむべし。人の家をやぶり身を失ふは、多くは酒の禍なり。
-
『養生訓』巻第四・飲酒一酒は天の美禄なり。少し飲めば、陽気を助け、血気をやはらげ、食気をめぐらし、愁を去り興を発して、甚人に益あり。多く飲めば、又よく人を害する事、酒に過ぎたる物なし。水火の人をたすけて、又よく人に災あるが如し。邵堯夫の詩に、美酒は飲みて微酔せしむる後といへるは、酒を飲むの妙を得たりと時珍いへり。少し飲み少し酔へるは、酒の禍なく、酒中の趣を得て楽多し。人の病酒によつて得るもの多し。酒を多く飲んで、飯をすくなく食ふ人は命短し。かくのごとく多く飲めば、天の美禄を以て、却て身をほろぼす也。かなしむべし。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る