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和俗童子訓 / 巻之一・総論上

一幼き時より、必まづ其好むわざをえらぶべし。好む所尤大事なり。婬慾の戲を好み、淫樂などを好む事、又つひえ多き遊、先早くいましむべし。是を好めば、其心必放逸になる。幼きより好めば、其心癖となり、一生、其好やまざるものなり。いかにいとけなくして、いまだ心に辨なくとも、又富貴の家に生れ、萬の事心にかなへりと道に背き、人に害あり、物を苦め、財を費す戲遊の、はかなきわざをば、せざる理なりと云ひ聞かせ、悟らしめて、なさしむべからず。又我が身に用なき無益の藝を習はしむべからず。たとひ用ある藝能といへども、一向に好み過して、其事にのみ心を用ふれば、必其一事に心傾きて、萬事に通ぜず、其好む所につきて、ひが事多く害多し。況や益なき事をすき好むをや。およそ幼きより、好む所習ふ事を、早くえらぶべし。

新字:一幼き時より、必まづ其好むわざをえらぶべし。好む所尤大事なり。婬慾の戯を好み、淫楽などを好む事、又つひえ多き遊、先早くいましむべし。是を好めば、其心必放逸になる。幼きより好めば、其心癖となり、一生、其好やまざるものなり。いかにいとけなくして、いまだ心に弁なくとも、又富貴の家に生れ、万の事心にかなへりと道に背き、人に害あり、物を苦め、財を費す戯遊の、はかなきわざをば、せざる理なりと云ひ聞かせ、悟らしめて、なさしむべからず。又我が身に用なき無益の芸を習はしむべからず。たとひ用ある芸能といへども、一向に好み過して、其事にのみ心を用ふれば、必其一事に心傾きて、万事に通ぜず、其好む所につきて、ひが事多く害多し。況や益なき事をすき好むをや。およそ幼きより、好む所習ふ事を、早くえらぶべし。

書き下し

一幼き時より、必まづ其好むわざをえらぶべし。好む所尤大事なり。婬慾の戯を好み、淫楽などを好む事、又つひえ多き遊、先早くいましむべし。是を好めば、其心必放逸になる。幼きより好めば、其心癖となり、一生、其好やまざるものなり。いかにいとけなくして、いまだ心に弁なくとも、又富貴の家に生れ、万の事心にかなへりと道に背き、人に害あり、物を苦め、財を費す戯遊の、はかなきわざをば、せざる理なりと云ひ聞かせ、悟らしめて、なさしむべからず。又我が身に用なき無益の芸を習はしむべからず。たとひ用ある芸能といへども、一向に好み過して、其事にのみ心を用ふれば、必其一事に心傾きて、万事に通ぜず、其好む所につきて、ひが事多く害多し。況や益なき事をすき好むをや。およそ幼きより、好む所習ふ事を、早くえらぶべし。

現代語訳

幼い時から、必ずまずその好むことを選ばせなさい。好む所がもっとも大事です。淫らな戯れを好んだり、淫らな音楽などを好んだり、また費えの多い遊びは、まず早く戒めなさい。これを好むと、その心は必ずほしいままになります。幼い時から好めば、それが心の癖となって、一生その好みはやまないものです。どれほど幼くて、まだ心に分別がなくても、また富貴の家に生まれて何でも思いどおりになるとしても、道に背き、人に害があり、物を苦しめ、財を費やす戯れや遊びのようなつまらないことは、してはならない道理だと言い聞かせ、悟らせて、させてはなりません。また自分の身に用のない無益な芸を習わせてはなりません。たとえ役に立つ芸能でも、ひたすら好み過ぎて、そのことにばかり心を用いれば、必ずその一事に心が傾いて万事に通じず、その好む所について間違いも害も多くなります。まして益のないことを好むのはなおさらです。およそ幼い時から、好む所、習う事を早く選びなさい。

解説

子どもの好みを早く選び、方向づけよと説く条です。好みは幼い頃に癖となって一生続くので、淫らな遊びや浪費を伴う遊びは早く戒め、役に立つ芸でものめり込み過ぎないようにせよと言います。益軒は好みそのものを否定せず、何を好むかの選択を大人が手伝うことを重んじています。趣味やゲームに没頭する子どもへの向き合い方、また一つの専門にとらわれて全体が見えなくなる働き方への注意としても読めます。好きなことを伸ばす現代の教育観と比べて読むと、違いと共通点が見えてきます。

この章句が説くこと

好み遊び癖教育芸能

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