和俗男子訓 / 巻二・宝とは何か、民を養う米粟
一むかし元成宗帝の大德年中に、西域の賈人、珠一顆をもち來りて、うらんとす、其價六十萬錠なり、左丞尚文といふもの、珠の德を問に、賈人こたえて、此珠を口にふくめば、渇せず、面をなづれば、目よく見ゆるといふ、文が云、一人ふくみて、千萬人渇せずんば、まことにたからなり、たゞ一人をすくはゞ、用すでにすこしきなり、吾所謂寶は、米粟なり、一日食せざれば饑、三日食せざれば疾し、七日食せざれば死す、有ば百姓やすく、無れば天下飢る、功用をくらぶるに、此珠の德には、はるかに超たりといひしかば、皆人これに服しけりとあり、
新字:一むかし元成宗帝の大徳年中に、西域の賈人、珠一顆をもち来りて、うらんとす、其価六十万錠なり、左丞尚文といふもの、珠の徳を問に、賈人こたえて、此珠を口にふくめば、渇せず、面をなづれば、目よく見ゆるといふ、文が云、一人ふくみて、千万人渇せずんば、まことにたからなり、たゞ一人をすくはゞ、用すでにすこしきなり、吾所謂宝は、米粟なり、一日食せざれば饑、三日食せざれば疾し、七日食せざれば死す、有ば百姓やすく、無れば天下飢る、功用をくらぶるに、此珠の徳には、はるかに超たりといひしかば、皆人これに服しけりとあり、
書き下し
一むかし元成宗帝の大德年中に、西域の賈人、珠一顆をもち來りて、うらんとす、其價六十萬錠なり、左丞尚文といふもの、珠の德を問に、賈人こたえて、此珠を口にふくめば、渇せず、面をなづれば、目よく見ゆるといふ、文が云、一人ふくみて、千萬人渇せずんば、まことにたからなり、たゞ一人をすくはゞ、用すでにすこしきなり、吾所謂寶は、米粟なり、一日食せざれば饑、三日食せざれば疾し、七日食せざれば死す、有ば百姓やすく、無れば天下飢る、功用をくらぶるに、此珠の德には、はるかに超たりといひしかば、皆人これに服しけりとあり、
現代語訳
昔、元の成宗帝の大徳年間に、西域の商人が真珠を一粒持ってきて売ろうとしました。その値は六十万錠でした。左丞の尚文という者が、珠の効能を問うと、商人は、この珠を口に含めば渇かず、顔をなでれば目がよく見える、と答えました。文は言いました。一人が含んで、千万人が渇かないのなら、まことに宝です。ただ一人を救うだけなら、その用はすでにわずかです。私の言う宝は、米や粟です。一日食べなければ飢え、三日食べなければ病み、七日食べなければ死にます。あれば百姓は安らかで、なければ天下は飢えます。その功用を比べれば、この珠の徳にははるかに超えています、と言ったので、皆の人がこれに服したということです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『韓非子』詭使第四十五官爵は、民を勧むる所以なり。而るに名義を好みて仕に進まざる者、世之を「烈士」と謂ふ。刑罰は、威を擅にする所以なり。而るに法を軽んじて刑戮死亡の罪を避けざる者、世之を「勇夫」と謂ふ。民の名に急なるや、其の利を求むるより甚だし。此くの如くんば、則ち士の饑餓乏絶する者、焉んぞ巌居苦身して以て名を天下に争ふこと無きを得んや。故に世の治まらざる所以の者は、下の罪に非ず、上其の道を失へばなり。常に其の乱るる所以を貴びて、其の治まる所以を賤しむ、是の故に下の欲する所は、常に上の治を為す所以と相詭ふなり。今下にして其の上に聴くは、上の急とする所なり。而るに惇慤純信にして、心を用ひ言を怯るれば、則ち之を「窶」と謂ふ。法を守ること固く、令を聴くこと審らかなれば、則ち之を「愚」と謂ふ。上を敬ひ罪を畏るれば、則ち之を「怯」と謂ふ。言時節あり、行中適すれば、則ち之を「不肖」と謂ふ。二心私学無く、吏に聴き教へに従ふ者は、則ち之を「陋」と謂ふ。致し難き之を「正」と謂ひ、予へ難き之を「廉」と謂ひ、禁じ難き之を「斉」と謂ひ、令有れども聴従せざる之を「勇」と謂ひ、上に利無き之を「愿」と謂ひ、少欲・寛恵・行徳之を「仁」と謂ひ、重厚自尊之を「長者」と謂ひ、私学群を成す之を「師徒」と謂ひ、閑静安居之を「有思」と謂ひ、仁を損ひ利を逐ふ之を「疾」と謂ひ、険躁佻反覆する之を「智」と謂ひ、先づ人の為にして後に自ら為し、名号を類し、言ひて天下を汎愛する之を「聖」と謂ひ、大本を言ひ、称して用ふべからず、行ひて世に乖く者之を「大人」と謂ひ、爵禄を賤しみ、上に撓まざる者之を「傑」と謂ふ。下漸く行ふこと此くの如くんば、入りては則ち民を乱し、出でては則ち便ならざるなり。上宜しく其の欲を禁じ、其の迹を滅すべし、而るに止めず、又従ひて之を尊ぶ、是れ下に上を乱すを教へて以て治を為すなり。凡そ上の治むる所以の者は、刑罰なり。今私に義を行ふ者有りて尊ばる。社稷の立つ所以の者は、安静なり。而るに躁険讒諛なる者任ぜらる。
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