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和俗男子訓 / 巻一・三治の教えと奇正の理

一軍書に、三治といふ事あり、三治とは、一ッには、大將道を好み、二ッには、任にあたれる人をあつめて、諫をきゝ、三ッには、君臣のあいだ、近くして、下の情よく上に通じ、民に心をつくるをいふ、以上の三ッを、備ふるときは、身おさまり、家おさまり、國おさまる、此故に、三治といふ、天智天皇御製に「秋の田のかりほのいほのとまをあらみわがころもでは露にぬれつゝ」とあり、是民に御心をつけ給ひしなり、一同書曰、戰の利は、奇正のふたつに出ず、奇は陰なり正は陽なり、奇は隱なり正は顯なり、世にあらゆると、皆奇正の二ッにかぎれり、隱顯は、天地の常なり、天に日月あり、人に心氣あり、時に寒暑あり、陰陽虛實を曉す時は、外に勝負の理なし、兵法にては、陰陽を奇正となづく、奇を躰にすれば、正は用なり、正を躰にすれば、奇は用なり、陰陽虛實の理を、よく辨知るの工夫有べし、

新字:一軍書に、三治といふ事あり、三治とは、一ッには、大将道を好み、二ッには、任にあたれる人をあつめて、諫をきゝ、三ッには、君臣のあいだ、近くして、下の情よく上に通じ、民に心をつくるをいふ、以上の三ッを、備ふるときは、身おさまり、家おさまり、国おさまる、此故に、三治といふ、天智天皇御製に「秋の田のかりほのいほのとまをあらみわがころもでは露にぬれつゝ」とあり、是民に御心をつけ給ひしなり、一同書曰、戦の利は、奇正のふたつに出ず、奇は陰なり正は陽なり、奇は隠なり正は顕なり、世にあらゆると、皆奇正の二ッにかぎれり、隠顕は、天地の常なり、天に日月あり、人に心気あり、時に寒暑あり、陰陽虚実を暁す時は、外に勝負の理なし、兵法にては、陰陽を奇正となづく、奇を体にすれば、正は用なり、正を体にすれば、奇は用なり、陰陽虚実の理を、よく弁知るの工夫有べし、

書き下し

一軍書に、三治といふ事あり、三治とは、一ッには、大將道を好み、二ッには、任にあたれる人をあつめて、諫をきゝ、三ッには、君臣のあいだ、近くして、下の情よく上に通じ、民に心をつくるをいふ、以上の三ッを、備ふるときは、身おさまり、家おさまり、國おさまる、此故に、三治といふ、天智天皇御製に「秋の田のかりほのいほのとまをあらみわがころもでは露にぬれつゝ」とあり、是民に御心をつけ給ひしなり、一同書曰、戰の利は、奇正のふたつに出ず、奇は陰なり正は陽なり、奇は隱なり正は顯なり、世にあらゆると、皆奇正の二ッにかぎれり、隱顯は、天地の常なり、天に日月あり、人に心氣あり、時に寒暑あり、陰陽虛實を曉す時は、外に勝負の理なし、兵法にては、陰陽を奇正となづく、奇を躰にすれば、正は用なり、正を躰にすれば、奇は用なり、陰陽虛實の理を、よく辨知るの工夫有べし、

現代語訳

軍書に三治ということがあります。三治とは、一つには、大将が道を好むこと、二つには、任にあたる人を集めて諫めを聞くこと、三つには、君臣の間が近く、下の情が上によく通じ、民に心を尽くすことをいいます。この三つを備えれば、身が治まり、家が治まり、国が治まります。このため三治というのです。天智天皇の御製に、「秋の田のかりほのいほのとまをあらみわがころもでは露にぬれつゝ」とあります。これは民に御心をかけられたものです。また同じ書に言うには、戦いの利は奇と正の二つから出ます。奇は陰、正は陽です。奇は隠れ、正は顕れることです。世にあるものは、みな奇正の二つに限られます。隠と顕は天地の常です。天には日月があり、人には心気があり、季節には寒暑があります。陰陽と虚実を悟るときは、外に勝負の理はありません。兵法では、陰陽を奇正と名づけます。奇を体とするなら正は用であり、正を体とするなら奇は用です。陰陽虚実の理を、よくわきまえる工夫があるべきです。

解説

前半の三治は、リーダーが道を好み、諫言を聞き、上下の意思疎通を良くして民に心を配ることで、身・家・国が治まるという教えです。天智天皇の歌はその例として引かれています。後半の奇正は、表立った正攻と意表をつく奇襲を、状況に応じて入れ替える考え方です。現代の管理職に置き換えると、諫言を受け入れる場と、報連相が上に届く仕組みを整えることが組織を安定させます。また、定石と工夫の両方を持ち、状況で使い分ける柔軟さも求められます。

この章句が説くこと

『和俗男子訓』井沢蟠竜三治奇正諫言天智天皇

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