倭忠経 / 廣爲國章第十一・賢者を多く用いて恩恵を末端まで届ける
下々にをしへ。猶そのうへには。禁制法度をたて。下々よこしまに。おちいらざるやうに掟をさだむ。かくのごとくすれば。上の敎の化大に行はれて。末々の國々里々迄その風にしたがひ。その君になつき。尤まぢかき臣たる者は。和らぎ悅て。國家たいらかなり。此もとは。下より賢なる人をゑらみ。その人に政をまかすれば。其人もとより忠ありて。君の惡をいさめ。我身を君に奉り。一國の民を撫愛するゆへに。上下和睦する事。右のごとし。詩經にも。濟々とおほく。賢臣を用ひ給ひしにより。國家やすく治ると云へり。宜なるかな。國はひろし身は一つなり。たとへ君たる人。いかほど末々まで。めぐみの心ありとても。いかで恩澤の。とほくおよぶ事あらん。かるがゆへに。賢者を多く用ひ。其人々の器量にかなひ。それ〱の役を云付る時は。國は廣もあれ。民はおほくもあれ。末〱はて〱まで。君のめぐみ濡。諸民こと〲く。君の恩澤を蒙らずと云事なし。たとへば大なる家を作るには。あまた材木を用意し。棟梁桁垂木と。それ〱の用を見はからひ。そのほど〱につかへば。其家やすく成就す。君の國を治るに。人の才知を見はからひ。すぐれたるをば。師とし。亦家老とし。勇ある人をば。武の物頭とし。廉直なるをば。物奉行とし。實ある人には。橫目を云付るやうに。その品々に人を用ば。一人としてすたる人なく。善人をあしきと讒する人なく。其國家安穩ならん事疑なし。
新字:下々にをしへ。猶そのうへには。禁制法度をたて。下々よこしまに。おちいらざるやうに掟をさだむ。かくのごとくすれば。上の教の化大に行はれて。末々の国々里々迄その風にしたがひ。その君になつき。尤まぢかき臣たる者は。和らぎ悦て。国家たいらかなり。此もとは。下より賢なる人をゑらみ。その人に政をまかすれば。其人もとより忠ありて。君の悪をいさめ。我身を君に奉り。一国の民を撫愛するゆへに。上下和睦する事。右のごとし。詩経にも。済々とおほく。賢臣を用ひ給ひしにより。国家やすく治ると云へり。宜なるかな。国はひろし身は一つなり。たとへ君たる人。いかほど末々まで。めぐみの心ありとても。いかで恩沢の。とほくおよぶ事あらん。かるがゆへに。賢者を多く用ひ。其人々の器量にかなひ。それ〱の役を云付る時は。国は広もあれ。民はおほくもあれ。末〱はて〱まで。君のめぐみ濡。諸民こと〲く。君の恩沢を蒙らずと云事なし。たとへば大なる家を作るには。あまた材木を用意し。棟梁桁垂木と。それ〱の用を見はからひ。そのほど〱につかへば。其家やすく成就す。君の国を治るに。人の才知を見はからひ。すぐれたるをば。師とし。亦家老とし。勇ある人をば。武の物頭とし。廉直なるをば。物奉行とし。実ある人には。横目を云付るやうに。その品々に人を用ば。一人としてすたる人なく。善人をあしきと讒する人なく。其国家安穏ならん事疑なし。
書き下し
下々にをしへ。猶そのうへには。禁制法度をたて。下々よこしまに。おちいらざるやうに掟をさだむ。かくのごとくすれば。上の敎の化大に行はれて。末々の國々里々迄その風にしたがひ。その君になつき。尤まぢかき臣たる者は。和らぎ悅て。國家たいらかなり。此もとは。下より賢なる人をゑらみ。その人に政をまかすれば。其人もとより忠ありて。君の惡をいさめ。我身を君に奉り。一國の民を撫愛するゆへに。上下和睦する事。右のごとし。詩經にも。濟々とおほく。賢臣を用ひ給ひしにより。國家やすく治ると云へり。宜なるかな。國はひろし身は一つなり。たとへ君たる人。いかほど末々まで。めぐみの心ありとても。いかで恩澤の。とほくおよぶ事あらん。かるがゆへに。賢者を多く用ひ。其人々の器量にかなひ。それ〱の役を云付る時は。國は廣もあれ。民はおほくもあれ。末〱はて〱まで。君のめぐみ濡。諸民こと〲く。君の恩澤を蒙らずと云事なし。たとへば大なる家を作るには。あまた材木を用意し。棟梁桁垂木と。それ〱の用を見はからひ。そのほど〱につかへば。其家やすく成就す。君の國を治るに。人の才知を見はからひ。すぐれたるをば。師とし。亦家老とし。勇ある人をば。武の物頭とし。廉直なるをば。物奉行とし。實ある人には。橫目を云付るやうに。その品々に人を用ば。一人としてすたる人なく。善人をあしきと讒する人なく。其國家安穩ならん事疑なし。
現代語訳
下々に教え、さらにその上に禁制法度を立て、下々が邪に陥らないように掟を定めます。このようにすれば、上の教えの感化が大いに行われ、末々の国々、里々までその風に従い、その君になつき、いちばん近くの臣たる者は、和らぎ喜んで、国家は平らかになります。この本は、下から賢い人を選び、その人に政を任せれば、その人はもとより忠があって君の悪を諫め、わが身を君に捧げ、一国の民を慈しむため、上下が和睦することが、右のとおりになるのです。詩経にも、多くの賢臣を用いられたので国家が安らかに治まったとあります。もっともなことです。国は広く、身は一つです。たとえ君がどれほど末々まで恵みの心があっても、恩沢が遠くまで及ぶことがありましょうか。ですから、賢者を多く用い、その人々の器量に合わせ、それぞれの役を言いつけるときは、国は広くても、民が多くても、末々の果てまで君の恵みが潤い、諸民がことごとく君の恩沢を蒙らないということがありません。たとえば大きな家を造るのに、多くの材木を用意し、棟梁、桁、垂木と、それぞれの用を見計らい、その程度に応じて使えば、その家は無事に完成します。君が国を治めるのも、人の才知を見計らい、優れた人は師とし、また家老とし、勇のある人は武の物頭とし、廉直な人は物奉行とし、実直な人には横目を言いつけるように、その品々に人を用いれば、一人として捨てられる人はなく、善人を悪いと讒言する人もなく、その国家が安穏であることは疑いありません。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『倭忠経』・廣至理章第十二・ゆずる徳が争いを鎮め、和を生む下〻又僞なし。上に讓〻好み給へば下物を諍事なし。凡此ゆづりと云事を。かりそめのやうに心得べからず。聖人の敎の。もとゝする處なり。堯の德を。史官も。允恭克讓といひ。孔子の德をば。溫良恭儉讓と云へるも。みなゆづる德をほめり。尤心より。われをしりぞけ。萬事を他人にをしゆづるうへにいかであしき事侍らん。一さいの事の和せざるは。物をあらそふより。發る事おほし。わづかの小藝を覺え得たるとて。自滿面にあらはれ。他人をそしり笑は。みな是。道にうとき人のなす業なり。むかし虞芮と云所の兩國の君。たがひに田地をあらそひ。此事決せざるにより。周の文王は。聖人なるほどに。訴へしとて。周の都へ行しに。爰には又上位にある人は。讓事を本として禮義正しく。百姓はかへつて。畔をゆづりあひ。道ゆく人は。たがひに路をゆづるを見て。兩國の君みづから恥て。かゝる雪のごとくなる間へ。かやうの墨のごとき。穢はしき事は。申し上られまじとて。其田をたがひにわかちて。諍をやめしとかや。然れば周一國のみならず。他國までも見ならひ。自然と。あらそひをする事なし。是聖人の。德化といふものなり。かくのごとく。ゆづりを好ば。天下の人心やはらぎ。平かにして。四海こと〴〵く正直を用ひて。父母を養君につかへ。己〻が家職をつとめて。生涯を樂しみ。壽命をながくたもち。天命をとげて。不慮の死をまねく事なし。夫。人和する時は。天地の氣も正しく。大風。疫癘。暴雨なし。是を天人合一といふ。聖人のゆたかなる大德は。天地と自然におなじきものなり。右に云へるごとく。天地も誠の一つよりあらはる。是を以て造化をなす。聖人の忠。又何ぞかはらんや。
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『倭忠経』・廣爲國章第十一・国を治めるには正しい臣を選び師とする廣爲國章第十一明君たる人の。國を治るには。いかにも正しき臣を見はからひ。其人に一國の政をうちまかせて。邪なる佞人を。退やうにするなり。邪なる人は。必忠あらず。忠の一念ある人は。かならず諸事正し。たとへその人。いかほどの藝能あり共。邪なる人をば用ゆべからず。根本の忠ある人の。才能あるを。尤用ゆべき事なり。さてその身に道德ある人を。ゑらみ出し。君の師とし。萬事をこの人にしたがひ習べし。たとへば。殷の湯王の伊尹を用ひ師とし。周の成王の周公旦を師とし用ひ給ふがごとし。末の世には。善惡ともに。わが下知にしたがふものを。臣とする事をすき好て。君の惡を正す臣を。好む人まれなり。されば聖人ならぬ人の。いかで生れながら道を知。問ずして道を行ふ人あらんや。玉はみがくによつて光あらはれ。人は學ぶによつて德をなす。然れば道德のある人許容し。其人を師とうやまひ。道を尋ね開給はゞ。たとへ君たる人。生れ付はあしく共。などか明君に。なり給はぬ事かあるべき。次にはその身の賢なる人を用ひ。君のあたりをはなたず。我手足のごとく。ふだん近付。諸事の評定を談じ。和漢理學の書をよませ。國を興すと亡と。民の安ずると苦しむとの。ことはりを會得し。外には武道を正しく。弓馬のみちをたしなみて。其威儀をおごそかにして。下たる人に望み。扨貴賤・上下・君臣・父子・兄弟の。禮を正しく。互に和する道を。
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『倭忠経』・廣至理章第十二・天下の耳目を我が耳目とし、ゆずりを尊ぶ廣至理章第十二古の聖人は。天下の耳目を以。わが耳とし。我目とし給ふ。いかんとなれば。をのれが一分の耳に聞。一分の目に見る處には。必わたくしあり。かるがゆへに。天下の人のきく處を。己が聞所とし。天下の人の見る處を。己が見る處とし給ふ。かくのごとくならば。いかで見聞處に。よこしまの私あらんや。耳目を天下の人と。同くし給ふゆへ。天下の人の心と同くして。人のねがふ處をあたへ。人の嫌處をほどこし給はず。然るゆへに。行義を正しく衣冠して。萬民の上に居て。やすく下を化しおさめ給ふ。かくのごとく。天下國家のやすく治るは上の人の。大なる勳功なれ共。少も自滿の心なく。民の憂に先だちてうれへ民のよろこびにをくれて悦。かるがゆへに。一國平均に治り。萬民安堵に住す。扨聖人の天下をおさむる。至極をなさんと思はゞ。遠もとめず。ちかきよりおさめもてゆけば。おのづからとほく治。ひろまるなり。至極のおさまれる世には。何のするわざもなけれども。天下自然とたいらかなり。萬端に付いたつがはしきは。必治まらぬ國の作法なり。至極の道におゐては。少も煩多なる事なし。たとへば。末〻の藝能も。勘能の人のするわざは。必むつかしくゑようをかざる事なく。やすらかに見ゆるものなり。その藝未練の者は。彼是とたくみ成事多し。聖人の治も尚是と同じ。堯舜の。天下を無爲におさめ給ふと云も。かくのごとし。扨下〻の事を。うたがはざれば。天下擧て上の事を信じ。號令にそむかず。上の法度に私なければ下〻誠を用て。をのづから公なり。めづらしき財寶を。好みたまはざれば。下〻自然と物を貪事なし。上の人奢給はざれば。下儉約をこのむ。上の人諸事眞實を用給へば。
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『春秋左氏伝』成公十八年 悼公、百官を命ず二月、乙酉、朔、晉侯悼公、朝に位に即く。始めて百官に命ず。施舍して責(さい)を已め、鰥寡に逮(およ)ぼし、廢滯を振(すく)ひ、乏困を匡(ただ)し、災患を救ひ、淫慝を禁じ、賦斂を薄くし、罪戾を宥(ゆる)し、器用を節し、時に民を用ゐ、欲して時を犯すこと無し。魏相・士魴・魏頡・趙武をして卿と爲らしむ。荀家・荀會・欒黶・韓無忌を公族大夫と爲し、卿の子弟を訓へて、共儉孝弟ならしむ。士渥濁をして大傅と爲し、范武子の法を脩めしむ。右行辛を司空と爲し、士蒍の法を脩めしむ。弁糾、戎に御し、校正焉に屬す。諸御を訓へて義を知らしむ。荀賓を右と爲し、司士焉に屬す。勇力の士を訓へて時に使はしむ。卿、共御すること無く、軍尉を立てて以て之を攝せしむ。祁奚を中軍尉と爲し、羊舌職之を佐く。魏絳を司馬と爲し、張老を候奄と爲す。鐸遏寇を上軍尉と爲し、籍偃之が司馬と爲り、卒乘を訓へて、親しみて以て命を聽かしむ。程鄭を乘馬御と爲し、六騶焉に屬す。群騶を訓へて禮を知らしむ。凡そ六官の長、皆民の譽(ほま)れなり。舉げて職を失はず、官は方を易へず、爵は德を踰えず、師は正を陵(しの)がず、旅は師に偪らず、民に謗言無し。霸を復する所以なり。公、晉に如く。嗣君に朝するなり。
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史記 田叔列伝趙禹曰く、「吾之を聞く、将門の下には必ず将の類有り。伝に曰く、『其の君を知らずんば其の使ふ所を視よ。其の子を知らずんば其の友とする所を視よ』と。今詔有りて将軍の舎人を挙ぐるは、以て将軍の能く賢者文武の士を得るかを観んと欲するなり。今徒に盎人の子を取りて之を上るも、又智略無し。木偶人の之に綺繡を衣するが如きのみ。将に之を奈何せんとす」と。是に於て趙禹悉く衛将軍の舎人百余人を召し、次を以て之に問ひ、田仁・任安を得て、曰く、「独り此の両人可なるのみ。余は用ふべき者無し」と。衛将軍此の両人の貧しきを見て、意平らかならず。趙禹去り、両人に謂ひて曰く、「各々自ら樾象絳衣を具へよ」と。両人対へて曰く、「家貧しくして用て具ふる無きなり」と。将軍怒りて曰く、「今両君家自ら貧しと為す。何為れぞ此の言を出だす。鞅鞅として我に徳を移す有る者の如きは、何ぞや」と。将軍已むを得ず、籍を上りて以て聞す。詔有りて衛将軍の舎人を召見す。此の二人前みて見ゆ。詔して能略を問ひて相推第せしむ。田仁対へて曰く、「桴鼓を提げて軍門に立ち、士大夫をして死を楽しみて戦闘せしむるは、仁任安に及ばず」と。任安対へて曰く、「夫れ嫌疑を決し、是非を定め、治官を弁じ、百姓をして怨心無からしむるは、安仁に及ばざるなり」と。武帝大いに笑ひて曰く、「善し」と。任安をして北軍を護らしめ、田仁をして辺の田穀を河上に護らしむ。此の両人名を天下に立つ。其の後任安を用ひて益州の刺史と為し、田仁を以て丞相長史と為す。田仁上書して言ふ、「天下の郡の太守多く姦利を為し、三河尤も甚だし。臣請ふ、先づ三河を刺挙せん。三河の太守皆内は中貴人に倚り、三公と親属有り、畏憚する所無し。宜しく先づ三河を正して以て天下の姦吏を警むべし」と。是の時河南・河内の太守は皆御史大夫杜の父兄子弟なり。河東の太守は石丞相の子孫なり。
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『春秋左氏伝』文公十八年 八愷・八元昔高陽氏に才子八人有り、蒼舒・隤敳(たいがい)・檮戭(たういん)・大臨・尨降(ばうかう)・庭堅・仲容・叔達、齊聖廣淵、明允篤誠なり。天下の民、之を八愷と謂ふ。高辛氏に才子八人有り、伯奮・仲堪・叔獻・季仲・伯虎・仲熊・叔豹・季貍、忠肅共懿、宣慈惠和なり。天下の民、之を八元と謂ふ。此れ十六族なり。世々其の美を濟(な)し、其の名を隕(おと)さず、以って堯に至る。堯舉ぐること能はず。舜堯に臣たりて、八愷を舉げ、后土を主(つかさど)らしめ、以って百事を揆(はか)らしむ。時に序せざる莫く、地平らかに天成る。八元を舉げ、五教を四方に布かしむ。父は義、母は慈、兄は友、弟は共、子は孝、內平らかに、外成る。

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