初学訓 / 巻之五
是、古の書に記し、近代の語り傳ふる所、諸人のまのあたり見聞せる所あきらかなり。およそ福を得禍をのがれんと思はば、福を求め、禍をのがるゝ道を知るべし。其道を知らずしてみだりに求めても、その驗なし。福を求め禍をのがるゝ道は、いかんぞや。人の困窮をめぐみ、人の害をのぞき、患をふせぎ、飢寒をたすけ、鰥寡孤獨の貧人をすくひ、諸の善を行ふに及べる祈禱は、さらになし。此外には、そくばくの財をつくして、祈り求むとも、是に及ぶべからず。心あらん人は、是を行ひて、善を積み重ぬるをつとめとすべし。其惠をうくること、多くの人に益あり。わが身にも、亦たのしみあり。つひには、身の福となる。同じく財をつひやし用ひて、功德と思へども、天道にかなはず、人民をすくはず、無益のことに用ふれば、世のたからをつひやして、かへつて世のつひえとなる。
新字:是、古の書に記し、近代の語り伝ふる所、諸人のまのあたり見聞せる所あきらかなり。およそ福を得禍をのがれんと思はば、福を求め、禍をのがるゝ道を知るべし。其道を知らずしてみだりに求めても、その験なし。福を求め禍をのがるゝ道は、いかんぞや。人の困窮をめぐみ、人の害をのぞき、患をふせぎ、飢寒をたすけ、鰥寡孤独の貧人をすくひ、諸の善を行ふに及べる祈祷は、さらになし。此外には、そくばくの財をつくして、祈り求むとも、是に及ぶべからず。心あらん人は、是を行ひて、善を積み重ぬるをつとめとすべし。其恵をうくること、多くの人に益あり。わが身にも、亦たのしみあり。つひには、身の福となる。同じく財をつひやし用ひて、功徳と思へども、天道にかなはず、人民をすくはず、無益のことに用ふれば、世のたからをつひやして、かへつて世のつひえとなる。
書き下し
是、古の書に記し、近代の語り伝ふる所、諸人のまのあたり見聞せる所あきらかなり。およそ福を得禍をのがれんと思はば、福を求め、禍をのがるる道を知るべし。其道を知らずしてみだりに求めても、その験なし。福を求め禍をのがるる道は、いかんぞや。人の困窮をめぐみ、人の害をのぞき、患をふせぎ、飢寒をたすけ、鰥寡孤独の貧人をすくひ、諸の善を行ふに及べる祈祷は、さらになし。此外には、そくばくの財をつくして、祈り求むとも、是に及ぶべからず。心あらん人は、是を行ひて、善を積み重ぬるをつとめとすべし。其恵をうくること、多くの人に益あり。わが身にも、亦たのしみあり。つひには、身の福となる。同じく財をつひやし用ひて、功徳と思へども、天道にかなはず、人民をすくはず、無益のことに用ふれば、世のたからをつひやして、かへつて世のつひえとなる。
現代語訳
これは昔の書に記され、近ごろも語り伝えられ、人々が目の当たりに見聞きしていることで明らかです。およそ福を得て禍を逃れようと思うなら、福を求め禍を逃れる道を知るべきです。その道を知らずにむやみに求めても、その効き目はありません。福を求め禍を逃れる道とはどういうものでしょうか。人の困窮に恵み、人の害を除き、患いを防ぎ、飢えや寒さを助け、鰥寡孤独の貧しい人を救い、もろもろの善を行うことに及ぶ祈祷は、まったくありません。このほかには、多くの財を尽くして祈り求めても、これに及ぶものではありません。心ある人は、これを行って善を積み重ねることを務めとすべきです。その恵みを受けることは多くの人に益があり、わが身にもまた楽しみがあり、ついには身の福となります。同じく財を費やし用いて功徳と思っても、天道にかなわず、人民を救わず、無益のことに用いれば、世の宝を費やして、かえって世の損失となります。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『初学訓』巻之五一善を行ひ、人民を愛すれば、必ず天の恵ありて益あり。善を行ひて、必ず益を得る。愚者は、益なきことを行ひて、禍をのがれず。人は、只智者のするわざをなすべし、愚者のわざをなすべからず。一天地の御心にしたがひて、人をあはれみ、人の患をすくひ、飢をたすけ、嘆をやめ、善をつねに行ふ人は、必ず天地のめぐみあり、神明の助あり。是、人を救へば、わが身のさいはひとなる。然れば、是に及べる大なる祈祷なく、功徳なし。世の人、此理を知らず、神仏に洽く諂ひ、又は、功徳をなすと思ひて、民に益なきことに、そくばくの財をつひやし用ふれども、不仁にして人倫を愍まざれば、いかほど財と力とを用ひて祈れども、天道神明の助なくして、身にも子孫にもさいはひなし。
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『初学訓』巻之四一道に志あらん人は、つねに、仁を以て心に保ちて、毎日、人に利益ある善事を為すべし。善を行ふは、必ず財をもちふることの多少によらず、ただ人の難儀を救へば、其功大なり。財を多く費しても、益なきことに用ふれば、人の助とならず。およそ、善を行ひて人を救ふこと、上は王公より、下は乞丐に至るまで、行はれずといふことなし。善を行ふべき時に当りて、心を尽すべし。貧賤なる人も、仁に志して行へば、其身に応じ、日々人に利益あること多し。飢ゑたるものに一飯をあたへ、渇けるものに湯水を与へ、道路に、茨枳殼、はりある物、かどある石、人の足を害ふ物を取り棄て、溝の内なるふみ石を、一二置きかへ、小なる溝に小橋をかくる程のことは、如何なる貧乏の人もすべきことなり。是亦、人に益ある善行なり。いはんや富貴の人、その志あれば、人を救ふこと弘く、其功大なり。高きもいやしきも、怠りなく久しく行へば、善を積むこと限なし。あに楽まざるべきや。
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『初学訓』巻之四一富貴の人は、其力に随ひて、ひろく人を恵み助くべし。人生の楽は、人の苦を救ひて、人を楽ましむることにあり。貧窮にして、人を助くる力なくとも、善をする志だにあらば、其功あるべし。人に善を勧め、悪を止めさせ、人の害を除き、人の心を和ぐるは、必ず財をもちひずとも行はる。もし、余財あらば、無用のつひえをせずして、人の艱難を救ふべし、財を惜むべからず。程子の、財を惜みては、善を行ふことなり難しといへるも、まことに然り。財は多けれど、をしみて人を救はざるは、不仁の人なり、善を行ふこと難し。
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『慎思録』巻之一善を作せば、天より之を佑けて、百祥を降す。不善を作せば、天より之を害して、百殃を降す。故に善を作すは、是れ百福来集の基なり。神仏に諧ふに勝ること、何ぞ百倍に止まらん。君子は道の為にし、衆人は福の為にす。衆人も亦須らく天道の善に福し淫に禍するの理を知りて、天を畏れ奉若し、災ひを避け祥を求むべし。此の理、古今華夷の往迹に、歴歴として見るべし。是れ天道の至教、必然の理にして、信ずべく畏るべくして、疑ふべからず。
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『初学訓』巻之五善人には福をあたへ、悪人には禍をたまふ。善悪ともに、天道より其返報をくだし給ふ。天道は広大にして、にはかに、其しるしなけれど、後は必ず報あり。天道は畏るべし。おろかなる人は、此理を知らずして、天道をおそれず、悪を去りて善を行ふ志はなくて、悪を行ひても、只神仏に諂祈りて、さいはひを求め、禍をのがれんとす。心あらん人は、よく思案すべし。人間の内にても、心明らかに、私少き正直なる人は、人のへつらひ求むるを好まず、理を曲げて人に私せず。いはんや、神は、聰明正直にして私なければ、何ぞ人の平生善を行はずして、只、へつらひ求むる者に私して、さいはひを与へ、禍をゆるし給はんや。此理明かにして、知りやすし。又古語に、神は非礼を享けずといへり。
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『大和俗訓』巻之六・躬行上其費を以て貧人をやしなはば、大なる利益なるべし。善を行ふとは、ただ人の利益になることを行ふにあり。人を利益すれば、天地神明の御心にかなひて、つひに其むくいありて、さいはひを得る理古来そのためし多し。およそ善を行ひて人をすくふこと、上は王公より、下は乞丐にいたるまで、行ふべき道あり。富貴貧賤によらず、ただ善を行ふ志だにあらば、善行はれずといふことなし。善を行ふべき時にあたりて、心をつくすべし。怠るべからず。まづしく賤しき人も、仁に志して行へば、其身に応じ、日々に人に利益あること多し。いはんや富貴の人其志あれば、人を救ふことひろく、其功大なり。たかきも賤しきも、怠なく久しく行へば、善をつむこと限りなし。
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