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初学訓 / 巻之五

一古の君子は、朝夕只、天道の眼前にあることを思ひて、つねに心も事もおそれ謹みて、天に背かず。今の人は、天道は遙に遠きことにて、わが身に與らざる事と思ひて、天を欺きそむきて恐れず、わが心に惡と思ひながら、行ひてやめず。是、天道をあざむきて、おそれざるなり。凡の人、天の與へ給ふ所のわが心を保たずして、不仁を行ひ、天のあはれみ給へる人物を愛せずして、苦め侮るは、天にそむくなり。天地の子としてつかへ奉る道にはあらず。是、父母の命に背きてつかへざるが如し。天道に不孝なるなり、天道おそるべし。

新字:一古の君子は、朝夕只、天道の眼前にあることを思ひて、つねに心も事もおそれ謹みて、天に背かず。今の人は、天道は遥に遠きことにて、わが身に与らざる事と思ひて、天を欺きそむきて恐れず、わが心に悪と思ひながら、行ひてやめず。是、天道をあざむきて、おそれざるなり。凡の人、天の与へ給ふ所のわが心を保たずして、不仁を行ひ、天のあはれみ給へる人物を愛せずして、苦め侮るは、天にそむくなり。天地の子としてつかへ奉る道にはあらず。是、父母の命に背きてつかへざるが如し。天道に不孝なるなり、天道おそるべし。

書き下し

一古の君子は、朝夕只、天道の眼前にあることを思ひて、つねに心も事もおそれ謹みて、天に背かず。今の人は、天道は遥に遠きことにて、わが身に与らざる事と思ひて、天を欺きそむきて恐れず、わが心に悪と思ひながら、行ひてやめず。是、天道をあざむきて、おそれざるなり。凡の人、天の与へ給ふ所のわが心を保たずして、不仁を行ひ、天のあはれみ給へる人物を愛せずして、苦め侮るは、天にそむくなり。天地の子としてつかへ奉る道にはあらず。是、父母の命に背きてつかへざるが如し。天道に不孝なるなり、天道おそるべし。

現代語訳

昔の君子は、朝夕ただ天道が目の前にあることを思って、常に心も事も畏れ慎んで、天に背きませんでした。今の人は、天道ははるかに遠いことで、わが身に関わらない事と思って、天を欺き背いて恐れず、自分の心で悪と思いながら、行ってやめません。これは天道を欺いて恐れないのです。およそ人が、天が与えてくださった自分の心を保たずに不仁を行い、天が憐れまれる人や物を愛さずに苦しめ侮るのは、天に背くことです。天地の子として仕える道ではありません。これは父母の命令に背いて仕えないのと同じです。天道に対して不孝なのです。天道は畏るべきものです。

解説

天道を遠いものと思うか、目の前にあると思うかで、人の行いは大きく変わると益軒は言います。誰も見ていないと思えば人は悪を行いやすくなります。後漢の楊震が賄賂を断って「天知る、地知る」と言った話のように、天が見ていると思えば身は慎まれるのです。益軒は天地を父母とする考えから、天に背くことを親不孝になぞらえます。人の目がなくても自分を律することができるか。誰も見ていない場面での行いにこそ、その人の本当の姿が表れるのです。

この章句が説くこと

天道慎み不孝良心畏れ

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