初学訓 / 巻之四
一人となりて、君のため父のため助とならず、世間の用をなさずして、天地の道に少しの補なく、人を憐む德もなく、人を救ふ功もなくして、天地の物をそこなひ費すは、禽獸草木の民用を助くるにも如かず、と古人いへり。わが輩の世にあること、かくの如し。みづから恥づべし、天道おそるべし。
新字:一人となりて、君のため父のため助とならず、世間の用をなさずして、天地の道に少しの補なく、人を憐む徳もなく、人を救ふ功もなくして、天地の物をそこなひ費すは、禽獣草木の民用を助くるにも如かず、と古人いへり。わが輩の世にあること、かくの如し。みづから恥づべし、天道おそるべし。
書き下し
一人となりて、君のため父のため助とならず、世間の用をなさずして、天地の道に少しの補なく、人を憐む徳もなく、人を救ふ功もなくして、天地の物をそこなひ費すは、禽獣草木の民用を助くるにも如かず、と古人いへり。わが輩の世にあること、かくの如し。みづから恥づべし、天道おそるべし。
現代語訳
人として生まれて、主君のため父のために助けとならず、世間の役に立たず、天地の道に少しの補いもなく、人を憐れむ徳もなく、人を救う功もなくて、天地の物を損ない費やすのは、禽獣や草木が民の用を助けるのにも及ばない、と古人は言いました。私たちがこの世にいるのは、このようなものです。自ら恥じるべきです。天道は畏るべきです。
解説
巻之四の結びで、益軒は自らを含めて厳しく省みます。人の役に立たず天地の物を費やすだけなら、人の暮らしを支える鳥獣や草木にも劣るという古人の言葉を引き、「わが輩の世にあること、かくの如し」と自分に向けるのです。多くの著作を残した益軒がなお自らを恥じるという謙虚さに打たれます。私たちも、自分は誰の役に立っているかを時々問い直したいものです。大きなことでなくても、周りの人や社会に何かを返そうとする心が大切なのです。
この章句が説くこと
報恩自省天道役割謙虚
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