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初学訓 / 巻之四

一およそ、農工商の三民は、君に仕へずして祿なし。みづから利養を求むるを專とす。されど、義理を捨てて利養を求むるは、天道に背き、人事を妨げて、たとひ、一旦の利を得るといへど、必ず天の咎人のにくみ有りて、後の禍にあふ。おろかなるものは、眼前の利をのみ謀りて、後の禍を知らず。不善を行ひて、利をむさぼること小なれば、財を失ふ。甚しければ、家を破り身を亡す。天のせめ人のにくみ遁れがたし、愚なるにあらずや。誠は天の道なり。之を誠にするは、人の道なり。四時行はれ、百物生る。善にさいはひし惡にわざはひす。是天道のまことなり、古今たがはず。人の道は、これを則として、つとめて誠にするにあり。こゝをもつて、人の心は誠を主とす。誠あらざれば物なし。君父によく仕へ、いかなる善を行ひても、誠なければ爲す事皆ひがごとなり。是を物なしといふ。つとめて善を行ふも、誠なければ、みづから欺き、人を欺くに至る、惜むべし。欺くとは僞るなり。故に、萬の事誠を本とすべし。孔子の主忠信とのたまふも、此意なり。忠信は誠の心なり。

新字:一およそ、農工商の三民は、君に仕へずして禄なし。みづから利養を求むるを専とす。されど、義理を捨てて利養を求むるは、天道に背き、人事を妨げて、たとひ、一旦の利を得るといへど、必ず天の咎人のにくみ有りて、後の禍にあふ。おろかなるものは、眼前の利をのみ謀りて、後の禍を知らず。不善を行ひて、利をむさぼること小なれば、財を失ふ。甚しければ、家を破り身を亡す。天のせめ人のにくみ遁れがたし、愚なるにあらずや。誠は天の道なり。之を誠にするは、人の道なり。四時行はれ、百物生る。善にさいはひし悪にわざはひす。是天道のまことなり、古今たがはず。人の道は、これを則として、つとめて誠にするにあり。こゝをもつて、人の心は誠を主とす。誠あらざれば物なし。君父によく仕へ、いかなる善を行ひても、誠なければ為す事皆ひがごとなり。是を物なしといふ。つとめて善を行ふも、誠なければ、みづから欺き、人を欺くに至る、惜むべし。欺くとは偽るなり。故に、万の事誠を本とすべし。孔子の主忠信とのたまふも、此意なり。忠信は誠の心なり。

書き下し

一およそ、農工商の三民は、君に仕へずして禄なし。みづから利養を求むるを専とす。されど、義理を捨てて利養を求むるは、天道に背き、人事を妨げて、たとひ、一旦の利を得るといへど、必ず天の咎人のにくみ有りて、後の禍にあふ。おろかなるものは、眼前の利をのみ謀りて、後の禍を知らず。不善を行ひて、利をむさぼること小なれば、財を失ふ。甚しければ、家を破り身を亡す。天のせめ人のにくみ遁れがたし、愚なるにあらずや。誠は天の道なり。之を誠にするは、人の道なり。四時行はれ、百物生る。善にさいはひし悪にわざはひす。是天道のまことなり、古今たがはず。人の道は、これを則として、つとめて誠にするにあり。ここをもつて、人の心は誠を主とす。誠あらざれば物なし。君父によく仕へ、いかなる善を行ひても、誠なければ為す事皆ひがごとなり。是を物なしといふ。つとめて善を行ふも、誠なければ、みづから欺き、人を欺くに至る、惜むべし。欺くとは偽るなり。故に、万の事誠を本とすべし。孔子の主忠信とのたまふも、此意なり。忠信は誠の心なり。

現代語訳

およそ農工商の三民は、主君に仕えないので俸禄がありません。自分で利養を求めることを専らとします。けれども、義理を捨てて利養を求めるのは、天道に背き、人の世の事を妨げて、たとえ一時の利を得ても、必ず天のとがめ、人の憎しみがあって、後に禍にあいます。愚かな者は目の前の利ばかりを謀って、後の禍を知りません。不善を行って利を貪ることが小さければ財を失い、はなはだしければ家を破り身を滅ぼします。天の責め、人の憎しみは逃れがたい。愚かではないでしょうか。誠は天の道です。これを誠にするのは人の道です。四季が巡り、万物が生じ、善に幸いし悪に禍する、これが天道のまことであり、古今違いません。人の道はこれを手本として、努めて誠にすることにあります。このため人の心は誠を主とします。誠がなければ物はありません。主君や父によく仕え、どんな善を行っても、誠がなければすることはみな間違いです。これを物なしといいます。努めて善を行っても、誠がなければ、自分を欺き、人を欺くに至ります。惜しむべきことです。欺くとは偽ることです。だからあらゆる事は誠を本とすべきです。孔子が「忠信を主とせよ」とおっしゃったのも、この意味です。忠信とは誠の心です。

解説

前半は利を求める農工商への戒め、後半は誠の意義を説きます。「誠は天の道なり、之を誠にするは人の道なり」「誠ならざれば物無し」はいずれも『中庸』の言葉です。四季が必ず巡るように、天は偽らない。人もそれにならって誠であれというのです。どんな善行も誠がなければ偽りになり、自分をも人をも欺くことになります。企業の不正や偽装が発覚すると、それまでの実績まで信用を失います。誠実さはあらゆる行いの土台なのです。

この章句が説くこと

誠中庸忠信義理利

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