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初学訓 / 巻之一

一天地のうめる所の萬物、皆是天地の氣をうけたりといへども、其中につきて、人ばかり貴きものなし。いかんとなれば、人は、仁義禮智信の五常の性あり。是、天地の心をうけて、本性とするなり。此身、五倫に交り、生れつきたる五常の本性のまゝに順へば、五倫の道行はる。是まづ、人の貴き大本なり。其上、目に五色をわかち、耳に五音をわきまへ、口に五味を知り、鼻に五臭をかぐ。書をよみ、古を學んでは、天地人の道をさとり、萬物の理に通じ、古今天下のことを知る。是人の萬物にすぐれて、いと貴き所なり。故に、尙書に、人は萬物の靈といへり。靈とは、すぐれて明かなるたましひあるをいふ。人は、全く天地の御心をうけて心とせり。此故に、其心靈なり。

新字:一天地のうめる所の万物、皆是天地の気をうけたりといへども、其中につきて、人ばかり貴きものなし。いかんとなれば、人は、仁義礼智信の五常の性あり。是、天地の心をうけて、本性とするなり。此身、五倫に交り、生れつきたる五常の本性のまゝに順へば、五倫の道行はる。是まづ、人の貴き大本なり。其上、目に五色をわかち、耳に五音をわきまへ、口に五味を知り、鼻に五臭をかぐ。書をよみ、古を学んでは、天地人の道をさとり、万物の理に通じ、古今天下のことを知る。是人の万物にすぐれて、いと貴き所なり。故に、尚書に、人は万物の霊といへり。霊とは、すぐれて明かなるたましひあるをいふ。人は、全く天地の御心をうけて心とせり。此故に、其心霊なり。

書き下し

一天地のうめる所の万物、皆是天地の気をうけたりといへども、其中につきて、人ばかり貴きものなし。いかんとなれば、人は、仁義礼智信の五常の性あり。是、天地の心をうけて、本性とするなり。此身、五倫に交り、生れつきたる五常の本性のままに順へば、五倫の道行はる。是まづ、人の貴き大本なり。其上、目に五色をわかち、耳に五音をわきまへ、口に五味を知り、鼻に五臭をかぐ。書をよみ、古を学んでは、天地人の道をさとり、万物の理に通じ、古今天下のことを知る。是人の万物にすぐれて、いと貴き所なり。故に、尚書に、人は万物の霊といへり。霊とは、すぐれて明かなるたましひあるをいふ。人は、全く天地の御心をうけて心とせり。此故に、其心霊なり。

現代語訳

天地が生んだ万物は、みな天地の気を受けているとはいえ、その中で人ほど貴いものはありません。なぜなら、人には仁・義・礼・智・信の五常の性があるからです。これは天地の心を受けて本性としているのです。この身が五倫の人間関係に交わるとき、生まれつきの五常の本性のままに従えば、五倫の道が行われます。これがまず、人の貴さの大本です。そのうえ、目で五つの色を見分け、耳で五つの音をわきまえ、口で五つの味を知り、鼻で五つの香りをかぎます。書物を読み、昔を学んでは、天地人の道を悟り、万物の理に通じ、古今天下のことを知ります。これが人が万物にすぐれて、とても貴いところです。だから『尚書』に「人は万物の霊」とあります。霊とは、すぐれて明らかな魂があることをいいます。人は天地の御心をそのまま受けて心としています。だからその心は霊妙なのです。

解説

「人は万物の霊」は『尚書』泰誓篇の言葉で、日本でも「万物の霊長」として広く知られています。益軒は人の貴さを二つ挙げます。一つは五常の本性、もう一つは五感と学びによって天地万物の理に通じる力です。とくに書を読み昔を学ぶことが人の貴さに数えられているのは、学問を勧める初学訓らしいところです。人が特別なのは力が強いからではなく、学んで道理を知ることができるからです。その力を使わなければ、せっかくの貴さを生かせないのです。

この章句が説くこと

万物の霊五常学問尚書心

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