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初学訓 / 巻之一

一天地の生ずる所人を貴とす。是仁義禮智の五常の性をうけて、人倫の道あり。是人の萬物にすぐれてたふとき所なり。此五常をうしなふべからず。これを失へば、天地にそむきて人にあらず。そのうへ、人は天地の生ずる五穀のよき味、鳥獸魚介のうまき肉を食ひて身を養ひ、布帛をあたゝかに著家に居て、風寒暑濕をふせぎて身をやすんず。衣食家居の養は、父母主君の恩によれりといへども、其本は皆天地の生じ出せるたまものなり。されば、人は、かくのごとく天地のきはまりなき御めぐみを受くること、萬物にすぐれたり。かゝる大恩をうけて知らざるは、むげにおろかなり。天恩を忘れて、人と斯く生れたる身の貴き理をいたづらになすは、口をし。

新字:一天地の生ずる所人を貴とす。是仁義礼智の五常の性をうけて、人倫の道あり。是人の万物にすぐれてたふとき所なり。此五常をうしなふべからず。これを失へば、天地にそむきて人にあらず。そのうへ、人は天地の生ずる五穀のよき味、鳥獣魚介のうまき肉を食ひて身を養ひ、布帛をあたゝかに著家に居て、風寒暑湿をふせぎて身をやすんず。衣食家居の養は、父母主君の恩によれりといへども、其本は皆天地の生じ出せるたまものなり。されば、人は、かくのごとく天地のきはまりなき御めぐみを受くること、万物にすぐれたり。かゝる大恩をうけて知らざるは、むげにおろかなり。天恩を忘れて、人と斯く生れたる身の貴き理をいたづらになすは、口をし。

書き下し

一天地の生ずる所人を貴とす。是仁義礼智の五常の性をうけて、人倫の道あり。是人の万物にすぐれてたふとき所なり。此五常をうしなふべからず。これを失へば、天地にそむきて人にあらず。そのうへ、人は天地の生ずる五穀のよき味、鳥獣魚介のうまき肉を食ひて身を養ひ、布帛をあたたかに著家に居て、風寒暑湿をふせぎて身をやすんず。衣食家居の養は、父母主君の恩によれりといへども、其本は皆天地の生じ出せるたまものなり。されば、人は、かくのごとく天地のきはまりなき御めぐみを受くること、万物にすぐれたり。かかる大恩をうけて知らざるは、むげにおろかなり。天恩を忘れて、人と斯く生れたる身の貴き理をいたづらになすは、口をし。

現代語訳

天地が生むものの中で、人を貴いものとします。人は仁・義・礼・智の五常の性を受けていて、人倫の道があります。これが人が万物にすぐれて尊いところです。この五常を失ってはいけません。これを失えば、天地に背いて人ではなくなります。そのうえ、人は天地が生む五穀のよい味や、鳥獣魚介のうまい肉を食べて身を養い、布や絹を暖かく着て家に住み、風・寒さ・暑さ・湿気を防いで身を安らかにしています。衣食住の養いは父母や主君の恩によるといっても、その本はみな天地が生み出した賜物です。だから人は、このように天地の限りない恵みを受けることが、万物にすぐれています。これほどの大恩を受けながら知らないのは、まったく愚かなことです。天の恩を忘れて、人としてこのように生まれた身の尊さをむだにするのは、残念なことです。

解説

人が万物の中で貴いのは、生まれつき五常という徳の性を持つからだと益軒は言います。朱子学では、人も物も天地の気から生まれるが、人だけが最も正しく通った気を受けて本性を十分に発揮できると考えました。だからこそ、その本性を失えば人ではなくなるというのです。現代でも、豊かな衣食住を当たり前と思いがちですが、それは多くの恵みの上に成り立っています。恵まれた身であることを自覚し、それにふさわしい生き方をしようという呼びかけです。

この章句が説くこと

五常人の貴さ衣食住天恩徳

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