新書 / 階級
鄙諺曰:「欲投鼠而忌其器。」此善喻也。鼠近於器,尚憚而弗投,恐傷器也,況乎貴大臣之近於主上乎!廉恥禮節以治君子,故有賜死而無僇辱。是以係、縛、榜、笞、髡、刖、黥、劓之罪,不及士大夫,以其離主上不遠也。禮,不敢齒君之路馬,蹴其芻者有罪;見君之凡杖則起,遭君之乘輿則下,入正門則趨;君之寵臣雖或有過,刑僇不加其身,尊君之勢也。此則所以爲主上豫遠不敬也,所以體貌羣臣而厲其節也。今自王侯三公之貴,皆天子之所改容而禮也。古天子之所謂伯父伯舅也,今與衆庶、徒隸同黥、劓、髡、刖、笞、傌、棄市之法,然則堂下不亡陛乎?被僇辱者不太迫乎?廉耻不行也,大臣無乃握重權,大官而有徒隸無耻之心乎?夫望夷之事,二世見當以重法者,投鼠而不忌器之習也。
新字:鄙諺曰:「欲投鼠而忌其器。」此善喩也。鼠近於器,尚憚而弗投,恐傷器也,況乎貴大臣之近於主上乎!廉恥礼節以治君子,故有賜死而無僇辱。是以係、縛、榜、笞、髡、刖、黥、劓之罪,不及士大夫,以其離主上不遠也。礼,不敢歯君之路馬,蹴其芻者有罪;見君之凡杖則起,遭君之乗輿則下,入正門則趨;君之寵臣雖或有過,刑僇不加其身,尊君之勢也。此則所以為主上予遠不敬也,所以体貌羣臣而厲其節也。今自王侯三公之貴,皆天子之所改容而礼也。古天子之所謂伯父伯舅也,今与衆庶、徒隸同黥、劓、髡、刖、笞、傌、棄市之法,然則堂下不亡陛乎?被僇辱者不太迫乎?廉耻不行也,大臣無乃握重権,大官而有徒隸無耻之心乎?夫望夷之事,二世見当以重法者,投鼠而不忌器之習也。
書き下し
鄙諺に曰く、「鼠に投げんと欲して其の器を忌む」と。此れ善き喩えなり。鼠の器に近づく、尚お憚りて投げざるは、器を傷つけんことを恐るればなり。況んや貴大臣の主上に近き者をや。廉恥礼節を以て君子を治む。故に死を賜うこと有りて僇辱すること無し。是を以て係・縛・榜・笞・髡・刖・黥・劓の罪は、士大夫に及ばず、其の主上を離るること遠からざるを以てなり。礼に、敢えて君の路馬を歯えず、其の芻を蹴る者は罪有り。君の凡杖を見れば則ち起ち、君の乗輿に遭えば則ち下り、正門に入れば則ち趨る。君の寵臣 或いは過ち有りと雖も、刑僇 其の身に加えざるは、君の勢いを尊ぶなり。此れ則ち主上の為に不敬を豫め遠ざくる所以にして、群臣を体貌して其の節を厲ます所以なり。今 王侯三公の貴より、皆 天子の容を改めて礼する所なり。古の天子の所謂 伯父・伯舅なり。今 衆庶・徒隷と同じく黥・劓・髡・刖・笞・罵・棄市の法あり。然らば則ち堂下 陛亡からざるか。僇辱を被る者は太だ迫らざるか。廉恥 行われず、大臣 無乃 重権を握りて、大官にして徒隷無恥の心有らんか。夫れ望夷の事、二世 見て重法を以て当てらるるは、鼠に投げて器を忌まざるの習いなり。
現代語訳
諺に「ネズミに物を投げつけたいが、そばの器が惜しい」といいます。これはよいたとえです。ネズミが器に近づいているとき、なお遠慮して投げないのは、器を傷つけることを恐れるからです。まして、主君の近くにいる貴い大臣ならなおさらです。廉恥と礼節で君子を治める。だから死を賜うことはあっても、辱めを与えることはありません。そのため、縛る、鞭で打つ、髪を剃る、足を切る、入れ墨を入れる、鼻を削ぐといった刑は士大夫に及びません。主君からそう遠くないからです。礼では、君の路馬の歯を数えてはならず、その飼い葉を蹴る者は罪があります。君の机や杖を見たら立ち上がり、君の車に出会ったら降り、正門に入れば小走りします。君の寵臣がたとえ過ちを犯しても、刑罰を身に加えないのは、君の勢いを尊ぶからです。これは主君のために不敬を前もって遠ざけるためであり、群臣を体面ある者として扱って、その節操を励ますためです。いま王侯や三公の貴さは、みな天子が居ずまいを正して礼する相手です。昔の天子がいう伯父、伯舅にあたります。それが今は庶民や徒隷と同じく、入れ墨、鼻削ぎ、髪剃り、足切り、鞭打ち、罵り、棄市の法を受けます。そうなると、堂の下に階段がないのと同じではありませんか。辱めを受ける者は、あまりにも追い詰められるのではないでしょうか。廉恥が行われず、大臣が重い権力を握りながら、大官でありながら徒隷のような恥知らずの心を持つようになるのではないでしょうか。望夷宮の事件で、二世が重い刑で処せられたのは、鼠に投げて器を忌まない習慣のせいです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『新書』階級故に古者は、礼 庶人に及ばず、刑 君子に至らず、寵臣の節を厲ます所以なり。古者 大臣に不廉に坐して廃せらるる者有るも、不廉と謂わず、「簠簋 飾らず」と曰う。穢汚して姑婦姊姨母に坐し、男女 別無き者は、汚穢と謂わず、「帷箔 修まらず」と曰う。罷軟にして任に勝えざるに坐する者は、罷軟と謂わず、「下官 職あらず」と曰う。故に貴大臣 定めて其の罪有るも、猶お未だ斥然として以て之を呼ばず、尚お遷就して之が為に諱む。故に其の大譴・大何域に在る者は、譴訶を聞けば則ち白冠釐纓、盤水に剣を加え、請室に造りて其の罪を請うのみ。上は執縛・係引して行かしめず。其の中罪の者は、命を聞きて自ら弛し、上は頸を盭げて加えしめず。其の大罪有る者は、令を聞けば北面して再拝し、跪きて自裁す。上は捽抑して刑せしめず。曰く、「子大夫 自ら過ち有るのみ、吾 子を遇すること礼有りき」と。之を遇すること礼有り、故に群臣は自ら喜ぶ。厲ますに廉恥を以てし、故に人は節行に務む。上 廉恥礼義を設けて以て其の臣を遇し、而して君臣 節行を以て其の上に報いざれば、即ち人類に非ざるなり。
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『新書』階級臣 之を聞く。曰く、履 鮮やかなりと雖も以て枕に加えず、冠 弊ると雖も以て履に苴かず。夫れ嘗て貴寵の位に在り、天子 容を改めて嘗て之を体貌し、吏民 嘗て俯伏して以て之を敬畏す。今にして過ち有らば、之を廃せしむるも可なり、之を退けしむるも可なり、之に死を賜うも可なり。若し夫れ之を束縛し、之を係絏し、司空に輸し、徒官に編し、司寇・牢正・徒長・小吏 罵詈して之を榜笞するは、殆ど衆庶をして見しむる所以に非ず。夫れ卑賤なる者 尊貴の事を習い知り、一旦 吾も亦た乃ち加う可しとするは、天下に習わしむる所以に非ず、尊尊貴貴の化に非ざるなり。夫れ天子の嘗て寵する所、衆庶の嘗て寵する所なれば、死するは死するのみ。賤人 安んぞ宜しく此を得て之を頓辱すべけんや。
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『新書』階級人主の尊きは、辟えば堂の異なること無し。陛を階すること九級なる者は、堂の高大 幾そ六尺なり。若し堂に陛級無き者は、堂の高き治かに尺に過ぎず。天子は堂の如く、群臣は陛の如く、衆庶は地の如し。此れ其の辟えなり。故に陛 五級より上は、廉 地より遠ければ則ち堂 高し。陛に級亡く、廉 地に近ければ則ち堂 卑し。高き者は攀ぢ難く、卑き者は陵ぎ易きは、理勢の然らしむるなり。故に古者の聖王は列等を制為り、内に公卿大夫士有り、外に公侯伯子男有り、然る後に官師小吏有り、施して庶人に及ぶ。等級 分明にして天子 焉に加わる。故に其の尊きこと及ぶ可からず。
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『新書』等齊天子の宮門を司馬と曰い、闌入する者は城旦と為す。諸侯の宮門も司馬と曰い、闌入する者は城旦と為す。殿門は俱に殿門為り、闌入の罪も亦た俱に棄市。宮墻門衛名を同じくし、其の厳一等にして、罪已に鈞し。天子の言は令と曰い、令甲令乙是れなり。諸侯の言も令と曰い、令儀の言是れなり。天子の卑号は皆陛下と称し、諸侯の卑号も陛下と称す。天子の車は乗輿と曰い、諸侯の車も乗輿と曰い、乗輿等し。衣被次斉貢死経緯、苟くも工巧にして志之を欲すれば、唯だ上を冒し主の次を軼ぐ。然れば則ち所謂主なる者は安くに居り、臣なる者は安くに在るか。人の情は面目を異にせず、状貌類を同じくし、貴賤の別は人人の天根の形容に著るるに非ざるなり。持して以て貴賤を別ち尊卑を明らかにする所の者は、等級・勢力・衣服・号令なり。乱れて且に息まざらんとし、滑曼として紀無く、天理は則ち同じく、人事に別無し。然れば則ち所謂臣主なる者は相臨むの具、尊卑の経有るに非ず、面形を持して之を膚するのみ。昼に近習し、貌に近くして然る後に能く識れば、則ち疏遠は放う所無く、衆庶は以て期する無し、則ち下は悪くんぞ其の上を疑わざるを得ん。君臣倫を同じくし、服を異にし等を異にす。服を同じくすれば則ち上は悪くんぞ其の下に□ざらん。
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『新書』階級故に化 成り俗 定まれば、則ち人臣と為る者は、主の醜には身を亡ぼし、国の醜には家を亡ぼし、公の醜には私を忘れ、利は苟くも就かず、害は苟くも去らず、唯だ義の在る所のみ、主上の化なり。故に父兄の臣は誠に宗廟に死し、法度の臣は誠に社稷に死し、輔翼の臣は誠に君上に死し、守衛捍敵の臣は誠に城郭封境に死す。故に曰く「聖人に金城有り」とは、物に比し志に比するなり。彼は且に我が為に死せんとす、故に吾は之と俱に生くるを得。彼は且に我が為に亡びんとす、故に吾は之と俱に存するを得。夫れ将に我が為に危うからんとす、故に吾は之と皆 安きを得。行を顧みて利を忘れ、節を守りて義に服す、故に以て不御の権を託す可く、以て五尺の孤を託す可し。此れ廉恥を厲まし礼義を行うの致す所なり、主上 何をか喪わん。此を為さずして、顧って彼の行うことを為す。故に曰く、長太息す可き者なり。
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『新書』大政上誅賞に之れ慎む、故に其の不辜を殺さんよりは、寧ろ有罪を失せん。故に夫れ罪は、疑えば則ち之を附して己より去らしむ。夫れ功は、疑えば則ち之を附して己に与う。則ち此れ無罪にして誅せらるる有ること毋く、有功にして賞無き者有ること毋し。戒めよ、戒めよ。誅賞に之れ慎む、故に古の刑を立つるや、以て不肖を禁じ、以て怠惰の民を起こすなり。是を以て一罪疑わしければ則ち遂には誅せず、故に不肖は改むるを得るなり。故に一功疑わしければ則ち必ず倍かず、故に愚民は勧む可きなり。是を以て上に仁誉有りて下に治名有り。疑わしき罪は去るに従うは、仁なり。疑わしき功は与うるに従うは、信なり。戒めよ、戒めよ。其の下に慎む、故に誅して忌まず、賞して曲げず、民の罪を反して之を重くせず、民の功を滅して之を棄てず。故に上非を為せば、則ち諫めて之を止め、道を以て之を紀す。下非を為せば、則ち矜れみて之を恕し、道びきて之を赦し、柔らげて之を仮す。故に不肖の民有りと雖も、化して之に則る。故に昔者の帝王の、其の臣を貴ぶ所の者は、此くの如きのみ。
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