新書 / 過秦下
秦王懷貪鄙之心,行自奮之智,不信功臣,不親士民,廢王道而立私愛,焚文書而酷刑法,先詐力而後仁義,以暴虐爲天下始。夫幷兼者高詐力,安危者貴順權,以此言之,取與、攻守不同術也。秦雖離戰國而王天下,其道不易,其政不改,是其所以取之也,孤獨而有之,故其亡可立而待也。借使秦王論上世之事,幷殷周之迹,以制御其政,後雖有淫驕之主,猶未有傾危之患也。故三王之建天下,名號顯美,功業長久。
新字:秦王懐貪鄙之心,行自奮之智,不信功臣,不親士民,廃王道而立私愛,焚文書而酷刑法,先詐力而後仁義,以暴虐為天下始。夫幷兼者高詐力,安危者貴順権,以此言之,取与、攻守不同術也。秦雖離戦国而王天下,其道不易,其政不改,是其所以取之也,孤独而有之,故其亡可立而待也。借使秦王論上世之事,幷殷周之迹,以制御其政,後雖有淫驕之主,猶未有傾危之患也。故三王之建天下,名号顕美,功業長久。
書き下し
秦王貪鄙の心を懐き、自奮の智を行い、功臣を信ぜず、士民に親しまず、王道を廃して私愛を立て、文書を焚きて刑法を酷にし、詐力を先にして仁義を後にし、暴虐を以て天下の始めと為す。夫れ併兼する者は詐力を高び、安危する者は順権を貴ぶ。此を以て之を言えば、取与・攻守は術を同じくせざるなり。秦、戦国を離れて天下に王たりと雖も、其の道易えず、其の政改めず、是れ其の之を取りし所以にして、孤独にして之を有つ、故に其の亡ぶこと立ちて待つ可し。借使い秦王上世の事を論じ、殷周の迹を併せ、以て其の政を制御せば、後に淫驕の主有りと雖も、猶お未だ傾危の患有らざるなり。故に三王の天下を建つるや、名号顕美にして、功業長久なり。
現代語訳
秦王は貪欲で卑しい心を抱き、自分の知恵に酔って事を行い、功臣を信じず、士民に親しまず、王道を捨てて私的な愛憎を立て、書物を焼いて刑法を厳しくし、欺きと力を先にして仁義を後にし、暴虐を天下の先頭に置きました。そもそも併合する者は欺きと力を尊び、安危を治める者は時に順い権を貴びます。この点から言えば、取るときと与えるとき、攻めるときと守るときでは、やり方が同じではありません。秦は戦国の世を離れて天下に王となりましたが、その道を改めず、その政を変えず、これが天下を取った方法であり、ただ一人で天下を持ったため、その滅亡は立ったまま待てるほど近いものでした。もし秦王が上世の事を論じ、殷や周の跡を併せ考えて政を治めていたなら、後に淫らで驕る君主が出ても、傾き危うくなる患いはなかったでしょう。三王が天下を建てたとき、名は顕かで美しく、功業は長く続いたのです。
解説
この章句が説くこと
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史記 秦始皇本紀秦海内を并せ、諸侯を兼ね、南面して帝と称し、以て四海を養ふ。天下の士斐然として風に郷ふ。是の若きは何ぞや。曰く、近古の王無きこと久し。周室卑微にして、五霸既に歿し、令天下に行はれず。是を以て諸侯力政し、彊は弱を侵し、衆は寡を暴し、兵革休まず、士民罷敝す。今秦南面して天下に王たり、是れ上に天子有るなり。既に元元の民其の性命を安んずるを得んことを冀ひ、心を虚しくして上を仰がざる莫し。此の時に当たり、威を守り功を定むるは、安危の本此に在り。秦王貪鄙の心を懐き、自奮の智を行ひ、功臣を信ぜず、士民に親しまず、王道を廃し、私権を立て、文書を禁じて刑法を酷にし、詐力を先にして仁義を後にし、暴虐を以て天下の始めと為す。夫れ并兼する者は詐力を高び、安定する者は順権を貴ぶ。此れ取ると守ると術を同じくせざるを言ふなり。秦戦国を離れて天下に王たるも、其の道易へず、其の政改めず。是れ其の之を取る所以と之を守る所以と異なる無きなり。孤独にして之を有つ、故に其の亡ぶこと立ちて待つ可し。借使秦王上世の事を計り、殷周の跡を并せ、以て其の政を制御せば、後に淫驕の主有りと雖も、未だ傾危の患ひ有らざるなり。故に三王の天下を建つるや、名号顕美にして、功業長久なり。今秦の二世立つや、天下領を引きて其の政を観ざる莫し。夫れ寒ゆる者は裋褐を利とし、饑うる者は糟糠を甘しとす。天下の嗷嗷たるは、新主の資なり。此れ労民の仁を為し易きを言ふなり。
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『新書』過秦下秦王己に足れりとして問わず、遂に過ちて変えず。二世之を受け、因りて改めず、暴虐以て禍を重ぬ。子嬰孤立して親無く、危弱にして輔無し。三主の惑い、終身悟らず、亡ぶこと宜しからずや亦た宜なるかな。此の時に当たりて、世に深謀遠慮化を知るの士無きに非ず。然るに敢えて忠を尽くし過ちを払わざる所以は、秦の俗忌諱の禁多ければなり。忠言未だ口に卒らざるに、身糜没す。故に天下の士をして耳を傾けて聴き、足を重ねて立ち、口を闔じて言わざらしむ。是を以て三主道を失いて、忠臣諫めず、智士謀らざるなり。天下已に乱れて、奸臣上に聞せず、豈に悲しからずや。先王壅蔽の国を傷るを知る、故に公卿大夫士を置き、以て法を飾り刑を設けて天下治まる。其の彊きや、暴を禁じ乱を誅して天下服し、其の弱きや、五霸征して諸侯従い、其の削らるるや、内は守り外は附きて社稷存す。故に秦の盛んなるや、法を繁くし刑を厳しくして下震うこと無く、其の衰うるに及びては、百姓怨みて海内叛く。故に周王の序は其の道を得て、千余載絶えず、秦は本末并せ失い、故に長かる能わず。此に由りて之を観れば、安危の統相去ること遠し。
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『新書』過秦下秦、周の祀を滅ぼし、海内を併せ、諸侯を兼ね、南面して帝を称し、四海を以て養わる。天下の士斐然として風に嚮うこと、是くの若きは何ぞや。曰く、近古王者無きこと久し。周室卑微にして、五霸既に滅び、令天下に行われず、是を以て諸侯力もて正し、強は弱を凌ぎ、衆は寡を暴し、兵革休まず、士民罷弊す。今秦南面して天下に王たり、是れ上に天子有るなり。即ち元元の民、其の性命を安んずるを冀い、虚心にして上を仰がざる莫し。此の時に当たりて、威を専らにし功を定むるは、安危の本、此に在り。
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『新書』過秦上且つ夫れ天下は小弱に非ざるなり。雍州の地、崤函の固き、自若たり。陳渉の位は、斉・楚・燕・趙・韓・魏・宋・衛・中山の君より尊きに非ざるなり。鉏耰棘矜は、鈎戟長鎩より銛からざるなり。適戍の衆は九国の師に亢するに非ざるなり。深謀遠慮、行軍用兵の道は、郷時の士に及ぶに非ざるなり。然り而して成敗変を異にし、功業相反するは、何ぞや。試みに山東の国をして陳渉と長を度り大を絜り、権を比べ力を量らしめば、則ち年を同じくして語る可からず。然るに秦は区区の地を以て、万乗の勢に至り、八州を序して同列を朝せしむること、百有余年なり。然る後六合を以て家と為し、崤函を宮と為す。一夫難を作して七廟堕ち、身は人の手に死し、天下の笑いと為るは、何ぞや。仁心施さずして、攻守の勢異なればなり。
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『新書』過秦上秦に余力有りて其の弊を制し、亡ぐるを追い北ぐるを逐い、伏尸百万、流血櫓を漂わせ、利に因り便に乗じて、天下を宰割し、山河を分裂し、疆国は伏せんことを請い、弱国は入朝す。施びて孝文王・荘襄王に及び、国を享くるの日浅く、国家事無し。
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史記 秦始皇本紀此の世に当たり、賢智并び列し、良将其の師を行り、賢相其の謀を通ず。然れども阻険に困しみて進む能はず。秦乃ち延き入れて戦ひ、之が為に関を開く。百万の徒逃北して遂に壊る。豈に勇力智慧足らざらんや。形利あらず、勢ひ便ならざればなり。秦は小邑も大城に并し、険塞を守りて軍し、塁を高くして戦ふ毋く、関を閉ぢ阨に拠り、戟を荷ひて之を守る。諸侯は匹夫より起こり、利を以て合し、素王の行ひ有るに非ず。其の交はり未だ親しまず、其の下未だ附かず。名は亡秦と為すも、其の実は之を利す。彼秦の阻みの犯し難きを見ば、必ず師を退かん。土を安んじ民を息ひ、以て其の敝るるを待ち、弱きを収め罷れたるを扶け、以て大国の君に令せば、意を海内に得ざるを患へず。貴きこと天子為り、富は天下を有ち、而るに身禽と為る者は、其の敗を救ふこと非なればなり。秦王は己を足れりとして問はず、遂に過ちて変ぜず。二世之を受け、因りて改めず、暴虐以て禍を重ぬ。子嬰孤立して親無く、危弱にして輔無し。三主惑ひて終身悟らず、亡ぶること、亦宜ならずや。此の時に当たりてや、世に深慮知化の士無きに非ざるなり。然れども敢へて忠を尽くし過ちを拂はざる所以の者は、秦の俗に忌諱の禁多く、忠言未だ口に卒はらずして身戮没と為ればなり。故に天下の士をして、耳を傾けて聴き、足を重ねて立ち、口を拑みて言はざらしむ。是を以て三主道を失ひ、忠臣敢へて諫めず、智士敢へて謀らず、天下已に乱るるも、姦上聞せず。豈に哀しからずや。先王は雍蔽の国を傷ふを知る。故に公卿大夫士を置き、以て法を飾り刑を設けて、天下治まる。其の彊きや、暴を禁じ乱を誅して天下服す。其の弱きや、五伯征して諸侯従ふ。其の削らるるや、内守り外附きて社稷存す。故に秦の盛んなるや、法を繁くし刑を厳しくして天下振るふ。其の衰ふるに及びてや、百姓怨望して海内畔く。
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