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新論 / 國體下

貨幣者所以權輕重、物多則物輕而金重、金重則其數雖寡、亦不乏於用、故古者貨幣甚寡、而天下不甚患貧、慶長以來、産金極多、造幣亦夥、貨幣多則輕、輕則百物隨重、工商生活、所用之物既重、則必貴其所造作貿易者、以償衣食之費、故百物愈重、而貨幣愈輕、愈輕則雖多亦猶乏也、〈西夷亦謂自西洋通東方諸國所謂亞墨利加者以來、歳歳交易、所獲金銀甚多、故西土金銀漸賤、而米穀用物漸貴、識者以爲後來當受多金之累、然獲利既厚、雖知不能絶、是戎狄之智、亦猶知多金之爲累、今在 中國、反未之知、可乎、〉

新字:貨幣者所以権軽重、物多則物軽而金重、金重則其数雖寡、亦不乏於用、故古者貨幣甚寡、而天下不甚患貧、慶長以来、産金極多、造幣亦夥、貨幣多則軽、軽則百物随重、工商生活、所用之物既重、則必貴其所造作貿易者、以償衣食之費、故百物愈重、而貨幣愈軽、愈軽則雖多亦猶乏也、〈西夷亦謂自西洋通東方諸国所謂亜墨利加者以来、歳歳交易、所獲金銀甚多、故西土金銀漸賤、而米穀用物漸貴、識者以為後来当受多金之累、然獲利既厚、雖知不能絶、是戎狄之智、亦猶知多金之為累、今在 中国、反未之知、可乎、〉

書き下し

貨幣なる者は軽重を権る所以なり。物多ければ則ち物軽くして金重し。金重ければ則ち其の数寡しと雖も、亦用に乏しからず。故に古者貨幣甚だ寡くして、天下甚だしくは貧を患へず。慶長以来、金を産すること極めて多く、幣を造ること亦夥し。貨幣多ければ則ち軽く、軽ければ則ち百物随ひて重し。工商の生活、用ゐる所の物既に重ければ、則ち必ず其の造作貿易する所の者を貴くして、以て衣食の費を償ふ。故に百物愈々重くして、貨幣愈々軽し。愈々軽ければ則ち多しと雖も亦猶乏しきがごとし。(西夷も亦謂ふ、西洋より東方の諸国所謂亜墨利加なる者に通じてより以来、歳々交易し、獲る所の金銀甚だ多し。故に西土の金銀漸く賤しくして、米穀用物漸く貴しと。識者以為へらく、後来当に多金の累を受くべしと。然れども利を獲ること既に厚ければ、知ると雖も絶つ能はずと。是れ戎狄の智すら、亦猶多金の累為るを知る。今中国に在りて、反つて未だ之を知らず、可ならんや。)

現代語訳

貨幣は物の軽重(価値)をはかるためのものである。物が多ければ物は軽く金は重い。金が重ければ、その数が少なくても用は足りる。だから昔は貨幣がごく少なかったのに、天下はそれほど貧しさに苦しまなかった。慶長以来、金の産出がきわめて多く、貨幣の鋳造もおびただしい。貨幣が多ければその価値は軽くなり、軽くなればもろもろの物はそれにつれて重く(高く)なる。職人や商人の暮らしは、使う物がすでに高くなっているので、必ず自分の作る物や売り買いする物の値を上げて、衣食の費用を埋め合わせる。だから物はいよいよ高くなり、貨幣はいよいよ軽くなる。いよいよ軽くなれば、多くあってもやはり足りないのと同じである(西洋人もまた言っている。西洋から東方の国々、いわゆるアメリカ(亜墨利加)に通じて以来、毎年交易して得た金銀がきわめて多い。そのため西洋では金銀がしだいに安くなり、米穀や日用品がしだいに高くなった。識者は、将来きっと金の多さの害を受けるだろうと考えている。しかし得る利益がすでに大きいので、害を知りながらもやめることができない、と。夷狄の知恵でさえ、金の多さが害になることを知っている。いま我が国にいて、かえってそれを知らないというのは、それでよいのだろうか)。

解説

正志斎はここで貨幣の量と物価の関係を論じる。慶長以来の金銀の大量産出と鋳造で貨幣の価値が下がり、物価が上がり、職人や商人が値上げで応じてさらに物価が上がる、という連鎖である。割注では、新大陸の銀が流入して西欧の物価が上がった、いわゆる価格革命についての西洋人の見解を引き、夷狄でさえ知る「多金の累」を知らないのかと問う。西洋の知識を退けず論拠に使っている点が興味深い。文政期には幕府が貨幣の改鋳を重ねていた。現代でも、通貨の量と物価の関係は、インフレを考えるときの基本の論点である。

この章句が説くこと

貨幣物価経済インフレ価格革命新論

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