新論 / 國體中
夫兵地着而 天皇受命於天、是天地人合爲一也、苟能因而立之規制、訓練講習、戢而時動、以光天地之威令、鼓鬼神之功用、則功烈之盛、可勝言乎、而大勢一變、人不奉天、天人懸隔、莫由以一億兆之心焉、鎌倉室町之統兵權也、豪族大姓、據有國郡、及其末年、東滅西起、交相攻伐、天下兵士各異所趨向、海内瓦解、而兵力益分、但其所可恃者兵猶未離地也、夫兵之地着、譬之地中有水、雖遐陬僻壤、而無所之而非兵者、寸土尺地、莫不有守也、
新字:夫兵地着而 天皇受命於天、是天地人合為一也、苟能因而立之規制、訓練講習、戢而時動、以光天地之威令、鼓鬼神之功用、則功烈之盛、可勝言乎、而大勢一変、人不奉天、天人懸隔、莫由以一億兆之心焉、鎌倉室町之統兵権也、豪族大姓、拠有国郡、及其末年、東滅西起、交相攻伐、天下兵士各異所趨向、海内瓦解、而兵力益分、但其所可恃者兵猶未離地也、夫兵之地着、譬之地中有水、雖遐陬僻壤、而無所之而非兵者、寸土尺地、莫不有守也、
書き下し
夫れ兵地着して天皇命を天に受くるは、是れ天地人合して一と為るなり。苟も能く因りて之が規制を立て、訓練講習し、戢めて時に動かし、以て天地の威令を光かし、鬼神の功用を鼓せば、則ち功烈の盛んなる、勝げて言ふべけんや。而るに大勢一変して、人天を奉ぜず、天人懸隔して、由りて以て億兆の心を一にする莫し。鎌倉・室町の兵権を統ぶるや、豪族大姓、国郡に拠有し、其の末年に及び、東に滅び西に起こり、交々相攻伐し、天下の兵士各々趨向する所を異にし、海内瓦解して、兵力益々分かる。但だ其の恃むべき所の者は、兵猶未だ地を離れざるなり。夫れ兵の地着するは、之を地中に水有るに譬ふ。遐陬僻壌と雖も、之くとして兵に非ざる所無く、寸土尺地も守り有らざる莫し。
現代語訳
そもそも兵が土地に根づき、天皇が天から命を受けるというのは、天・地・人が合わさって一つになることである。もしこれに基づいて規制を立て、訓練し講習し、ふだんは武器を収めて時に応じて動かし、天地の威光ある命令を輝かせ、鬼神の働きを奮い起こすならば、その功業の盛んなことは言い尽くせないほどであろう。ところが大勢が一変して、人は天を奉じなくなり、天と人とが隔たって、万民の心を一つにするすべがなくなった。鎌倉・室町が兵権を握っていたころ、豪族や大家が国や郡を領有し、その末期には東で滅べば西で起こり、互いに攻め合って、天下の兵士はそれぞれ向かう先を異にし、国中が瓦のように崩れて、兵力はますます分散した。ただ頼みになったのは、兵がまだ土地から離れていなかったことである。兵が土地に根づいているのは、たとえれば地中に水があるようなものだ。辺鄙な土地であっても、どこへ行っても兵のいないところはなく、わずかな土地にも守りがあった。
解説
この章句が説くこと
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『新論』國體中古者兵器を神社に蔵し、征戦する毎に必ず神祇を礼祭す。是れ天子と雖も敢へて以て自ら専らにせず、而して必ず命を天神に受くるなり。是を以て民志一にして其の力分かれず。是れ天神の兵なり。身毒の法中国に入るに及びて、民志遂に分かれ、其の天神を敬戴するや専らならずして、其の命を天に受くる所以の意明らかならず。兵専ら人事と為る。一変なり。源頼朝よりして後、鎌倉・室町相継ぎて天下の兵馬を管轄す。再変なり。古より兵は皆地着なり。四海鼎沸するに及び、豪傑其の土を離れ、四方に客遊す。禍乱既に平らぎ、天下の兵、各々都城に聚処して、土に兵無く、兵に土無し。三変なり。此の三者は特に其の制に変革有るのみに非ずして、其の勢の大いに変ずる者なり。
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『新論』國體中夫れ兵は地を守る所以、地は兵を養ふ所以なり。兵と地と、相離るるを得ず。離るれば則ち地空虚にして、兵寡弱なり。是れ自然の勢なり。故に休養生息、日を為すこと已に久しく、戸口古に倍して、兵の寡きこと此の如く其れ甚だし。其の帰、遂に本末共に弱きを致さば、則ち亦東照宮の太平の基を立つる所以の意に非ざるなり。世徒に治強の名有りて、衰弱の実に居る。包桑の戒め、将た焉んぞ思はざるを得んや。今俗日に驕淫に趨き、諸侯僭奢にして、其の心未だ必ずしも皆恭順ならず。而して其の背叛する無き者は、侈惰に狃れて貧弱に苦しめばなり。細民怨咨し、騒擾無きに非ざるも、而も未だ兵を用ゐるに至らざる者は、志気尩怯にして、首唱する者兵を知らざればなり。姦民閭閻に横行し、異化の徒天下に充斥し、禍端萌さざるに非ざるも、而も天下未だ動揺せざる者は、撫御仁柔を務め、事姑息多くして、未だ激せざるの変なればなり。
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『新論』國體中夫れ節義を以て士衆を磨励するは、必ず東照宮当日の意に倣傚す。本を強くする所以なり。邦君をして強を国に養ふを得しめ、士大夫をして強を邑に養はしめ、兵に土有り、土に兵有らしむるは、末を強くする所以なり。本末共に強く、兵甲既に衆く、天下の民、勇有りて方を知り、義気海内に溢れ、海内の全力を用ゐて、以て膺懲の師を興し、醜虜をして跡を屏け形を竄して敢へて辺に近づかざらしめば、庶幾くは国体を忝めざらん。
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『新論』國體中然れども事の時を逐ひて変革するは、天下の常勢なり。兵制の如きは、其の変一ならず。古者来目・物部の兵を用ゐて、参ふるに民兵を以てし、国造・県主も亦各兵有りて、以て民社を保つ。国家制を立つるの初め、大約之の如し。而して一変して軍団と為り、再変して募兵と為る。是に於てか兵は皆世業にして、号して弓馬の家と為し、兵農の分、始めて此に起こる。天下戦国と為るに及び、英雄割拠し、遂に封建の勢を成し、兵制も亦随ひて変ず。此れ其の大略なり。兵制屡々変ずるも、如し其の大勢を論ぜば、則ち亦其の変ずる者三あり。
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『新論』國體中故に朝廷衰ふと雖も、天下乱ると雖も、天下の勢猶未だ其の強為るを失はず。是を以て能く胡元の賊船を却け、朝鮮の国都を抜き、兵威の海外に震ふこと、猶尚ほ此の如きなり。豊臣氏天下の太だ強きを患へ、有土の君を挙げて尽く之を大阪に処き、或いは之を土木に役し、或いは之を戦伐に用ゐ、之をして一日も強を其の国に養ふを得ざらしむ。東照宮の興るや、其の務めも亦本を強くして末を弱くするに在り。武士をして各々都城に聚処せしめ、之をして一日も強を其の邑に養ふを得ざらしめ、庶民をして耳に金鼓を聞かず目に干戈を見ざらしむ。是に於てか兵寡く民愚にして、天下始めて弱く、而して一時の人豪、息を屏めて命を聴く。英算偉略の独り天下を運らす所以の者、其の効速やかなりと謂ふべし。
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『新論』國體上数世の後に及び、藤氏権を専らにし、公卿大夫、僭奢風を成し、争ひて荘園を置き、以て土地人民を私し、弓馬の家も又権勢に依附し、郡を割き邑を連ね、以て己が有と為し、所在に良民を駆りて以て奴隷と為し、天下の地、亀分瓜裂して、割拠の勢成る。源頼朝の天下の総追捕使と為るに及びては、則ち土地人民を挙げて尽く之を鎌倉に帰す。鎌倉・室町の将軍為る、時に盛衰治乱の同じからざる有りと雖も、概ね皆土地人民の権に拠り、動もすれば朝命に逆ひ、恭順なる能はず。而して旧姓豪族も、亦各土地人民を擁し、以て相争奪し、弱肉強食、乱賊武を接し、天下鼎沸し、万姓靡爛して、民各適従する所を異にす。勇闘力戦して能く其の主の為に死すと雖も、名義の明かならざる、其の忠は忠に非ず、其の孝は孝に非ず、忠孝の教、日に以て消鑠す。足利義満の如きに至りては、則ち膝を屈して臣を明に称す。内は王臣為りて、臣を外に称するは、人臣の節に非ず。
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