史記 / 貨殖列伝
故言富者皆稱陶朱公。子贛既學於仲尼,退而仕於衛,廢著鬻財於曹、魯之閒,七十子之徒,賜最為饒益。原憲不厭糟糠,匿於窮巷。子貢結駟連騎,束帛之幣以聘享諸侯,所至,國君無不分庭與之抗禮。夫使孔子名布揚於天下者,子貢先後之也。此所謂得埶而益彰者乎?白圭,周人也。當魏文侯時,李克務盡地力,而白圭樂觀時變,故人棄我取,人取我與。夫歲孰取穀,予之絲漆;繭出取帛絮,予之食。太陰在卯,穰;明歲衰惡。至午,旱;明歲美。至酉,穰;明歲衰惡。至子,大旱;明歲美,有水。至卯,積著率歲倍。欲長錢,取下穀;長石斗,取上種。
新字:故言富者皆称陶朱公。子贛既学於仲尼,退而仕於衛,廃著鬻財於曹、魯之閒,七十子之徒,賜最為饒益。原憲不厭糟糠,匿於窮巷。子貢結駟連騎,束帛之幣以聘享諸侯,所至,国君無不分庭与之抗礼。夫使孔子名布揚於天下者,子貢先後之也。此所謂得埶而益彰者乎?白圭,周人也。当魏文侯時,李克務尽地力,而白圭楽観時変,故人棄我取,人取我与。夫歳孰取穀,予之糸漆;繭出取帛絮,予之食。太陰在卯,穰;明歳衰悪。至午,旱;明歳美。至酉,穰;明歳衰悪。至子,大旱;明歳美,有水。至卯,積著率歳倍。欲長銭,取下穀;長石斗,取上種。
書き下し
故に富を言ふ者は皆陶朱公を称す。子贛既に仲尼に学び、退きて衛に仕へ、曹・魯の間に廃著して財を鬻ぐ。七十子の徒、賜最も饒益たり。原憲は糟糠にも厭かず、窮巷に匿る。子貢は駟を結び騎を連ね、束帛の幣以て諸侯に聘享す。至る所、国君庭を分かちて之と礼を抗せざる無し。夫れ孔子の名をして天下に布揚せしめし者は、子貢之を先後すればなり。此れ所謂埶を得て益々彰はるる者か。白圭は周の人なり。魏の文侯の時に当たり、李克は地力を尽くすに務め、而して白圭は時の変を観るを楽しむ。故に人棄つれば我取り、人取れば我与ふ。夫れ歳孰すれば穀を取り、之に糸漆を予ふ。繭出づれば帛絮を取り、之に食を予ふ。太陰卯に在れば穣り、明歳は衰悪す。午に至れば旱し、明歳は美し。酉に至れば穣り、明歳は衰悪す。子に至れば大いに旱し、明歳は美しく、水有り。卯に至れば、積著すること率ね歳ごとに倍す。銭を長ぜんと欲すれば、下穀を取る。石斗を長ぜんとせば、上種を取る。
現代語訳
だから富について語る者はみな陶朱公(越を去ったのちの范蠡)の名を挙げる。子贛(子貢)は仲尼(孔子)に学んだあと、退いて衛に仕え、曹と魯の間で物を安く買い高く売って財をなした。孔子の七十人の弟子の中で、端木賜(子貢)が最も豊かであった。原憲は酒かすや米ぬかさえ満足に食べられず、貧しい路地に隠れ住んでいた。一方、子貢は四頭立ての馬車を連ね騎馬を従え、束ねた絹の贈り物を携えて諸侯を訪問した。行く先々で、国君が庭の両側に分かれて対等の礼で迎えないことはなかった。そもそも孔子の名が天下に広まったのは、子貢が前後を取り持ったからである。これがいわゆる、勢いを得てますます名が表れるということであろう。白圭は周の人である。魏の文侯の時代、李克(李悝)は土地の生産力を尽くすことに努めたが、白圭は時勢の変化を観察することを楽しんだ。だから人が捨てるときに自分は取り、人が取るときに自分は与えた。穀物が実った年には穀物を買い取り、代わりに絹糸や漆を売った。繭が出回る時期には絹や綿を買い取り、代わりに食糧を売った。太陰(木星の反対を回る仮想の星)が卯の方位にあれば豊作で、翌年は不作。午に来れば日照りで、翌年は豊作。酉に来れば豊作で、翌年は不作。子に来れば大日照りで、翌年は豊作だが大水がある。再び卯に来るころには、蓄えはおおむね年ごとに倍になる。銭を増やしたいなら、下等の穀物を買う。穀物の石高を増やしたいなら、上等の種を買う。
解説
関連する章句
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史記 貨殖列伝范蠡既に会稽の恥を雪ぎ、乃ち扁舟に乗りて江湖に浮かび、名を変へ姓を易へ、陶に之きて朱公と為る。朱公陶は天下の中、諸侯四通し、貨物の交易する所と為すと以為し、乃ち産を治め居を積む。時と与に逐ひて人に責めず。故に善く生を治むる者は、能く人を択びて時に任す。十九年の中三たび千金を致し、再び分散して貧交疏昆弟に与ふ。此れ所謂富みて好んで其の徳を行ふ者なり。後年衰老して子孫に聴す、子孫業を修めて之を息し、遂に巨萬に至る。
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史記 貨殖列伝白圭、時変を楽観す、故に人棄つれば我取り、人取れば我与ふ。能く飲食を薄くし、嗜欲を忍び、衣服を節し、用事の僮仆と苦楽を同じくし、時に趨ること猛獣摯鳥の発するがごとし。故に曰く、「吾生産を治むるは、猶ほ伊尹・呂尚の謀、孫吳の兵を用ゐ、商鞅の法を行ふがごときなり。是の故に其の智権変に与るに足らず、勇以て決断するに足らず、仁以て取予する能はず、彊以て守る所有る能はざれば、吾が術を学ばんと欲すと雖も、終に之に告げざるなり」と。蓋し天下治生を言ふ者は白圭を祖とす。
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史記 貨殖列伝大いに鼓鋳し、陂池を規(はか)り、車騎を連ね、諸侯に游び、因りて商賈の利を通じ、游閑の公子の賜与の名有り。然れども其の贏得は当に過ぎ、繊嗇より愈(まさ)り、家は富を致すこと数千金。故に南陽の行賈は尽く孔氏の雍容に法る。魯人の俗は倹嗇にして、曹の邴氏は尤も甚だし。鉄冶を以て起こり、富は巨万に至る。然れども家は父兄子孫より約し、俛して拾ふ有り、仰いで取る有り。貰貸行賈すること郡国に遍し。鄒・魯其の故を以て多く文学を去りて利に趨く者は、曹の邴氏を以てなり。斉の俗は奴虜を賤しむ。而して刀間独り之を愛貴す。桀黠の奴は人の患ふる所なり。唯だ刀間収取し、之をして漁塩商賈の利を逐はしめ、或いは車騎を連ね、守相に交はらしむ。然れども愈々益々之に任ず。終に其の力を得、富を起こすこと数千万。故に曰く、「寧ろ爵せんよりは刀すること毋からんや」と。其の能く豪奴をして自ら饒かにして其の力を尽くさしむるを言ふ。周人既に繊にして、師史は尤も甚だし。轂を転ずること百を以て数へ、郡国に賈し、至らざる所無し。洛陽の街居は斉・秦・楚・趙の中に在り。貧人は富家に事ふるを学び、相矜るに久しく賈するを以てし、数々邑を過ぐれども門に入らず。此の等に設任す。故に師史能く七千万を致す。宣曲の任氏の先は督道の倉吏たり。秦の敗るるや、豪傑皆争ひて金玉を取る。而して任氏独り倉粟を窖(あなぐら)にす。楚漢の滎陽に相距(ふせ)ぐや、民耕種するを得ず、米石ごとに万に至る。而して豪傑の金玉尽く任氏に帰す。任氏此を以て富を起こす。富人争ひて奢侈にす。而して任氏は節を折りて倹を為し、田畜に力む。田畜の人は争ひて賤賈を取る。任氏独り貴善を取る。富むこと数世。然れども任公の家約は、田畜の出す所に非ざれば衣食せず、公事畢らざれば則ち身は酒を飲み肉を食ふを得ず。此を以て閭里の率と為る。故に富みて主上之を重んず。塞の斥(ひら)くるや、唯だ橋姚已に馬千匹、牛は之に倍し、羊万頭、粟は万鍾を以て計ふるを致す。
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史記 仲尼弟子列伝端木賜は、衛の人、字は子貢。孔子より少きこと三十一歳。子貢は利口巧辞、孔子常に其の弁を黜く。問ひて曰く、「汝と回とは孰れか愈れる」と。対へて曰く、「賜や何ぞ敢へて回を望まん。回や一を聞きて以て十を知り、賜や一を聞きて以て二を知る」と。子貢既已に業を受け、問ひて曰く、「賜は何人ぞや」と。孔子曰く、「汝は器なり」と。曰く、「何の器ぞや」と。曰く、「瑚璉なり」と。陳子禽子貢に問ひて曰く、「仲尼焉にか学ぶ」と。子貢曰く、「文武の道未だ地に墜ちず、人に在り、賢者は其の大なる者を識り、不賢者は其の小なる者を識る、文武の道有らざる莫し。夫子焉にか学ばざらん、而して亦何の常師か之れ有らん」と。又問ひて曰く、「孔子是の国に適けば必ず其の政を聞く。之を求めたるか、抑々之を与へたるか」と。子貢曰く、「夫子は温・良・恭・倹・譲以て之を得たり。夫子の之を求むるや、其れ諸れ人の之を求むるに異なるか」と。子貢問ひて曰く、「富みて驕ること無く、貧しくして諂ふこと無きは、何如」と。孔子曰く、「可なり。貧しくして道を楽しみ、富みて礼を好むに如かず」と。
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論語・先進篇子曰く、回や其れ庶からんか、屢々空し。賜は命を受けずして貨殖す。億れば則ち屢々中たる。
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史記 貨殖列伝通邑大都、酤ること一歳に千醸、醯醤千瓨、漿千甔、屠る牛羊彘千皮、販ぐ穀の糶千鍾、薪槁千車、船長千丈、木千章、竹竿万、其の軺車百乗、牛車千両、木器の髤する者千枚、銅器千鈞、素木・鉄器若しくは炧茜千石、馬の蹄躈千、牛千足、羊彘千双、僮の手指千、筋角丹沙千斤、其の帛絮細布千鈞、文采千匹、榻布皮革千石、漆千斗、糱麹塩豉千荅、鮐鮆千斤、鯫千石、鮑千鈞、棗栗千石なる者は之を三にす。狐鼦の裘千皮、羔羊の裘千石、旃席千具、佗の果菜千鍾、子貸金銭千貫。節駔会し、貪賈は之を三にし、廉賈は之を五にす。此れ亦千乗の家に比す。其の大率なり。佗の雑業は什の二に中らずんば、則ち吾が財に非ざるなり。請ふ略々当世千里の中、賢人の富む所以の者を道ひ、後世をして観択するを得しめん。蜀の卓氏の先は趙人なり。鉄冶を用て富む。秦趙を破り、卓氏を遷す。卓氏虜略せられ、独り夫妻輦を推し、行きて遷す処に詣る。諸々の遷虜少しく余財有る者は、争ひて吏に与へ、近き処を求め、葭萌に処る。唯だ卓氏曰く、「此の地は狭薄なり。吾聞く、汶山の下は沃野にして、下に蹲鴟有り、死に至るまで饑ゑず。民は市に工みにして、賈し易し」と。乃ち遠く遷さんことを求む。之を臨邛に致す。大いに喜び、即ち鉄山に鼓鋳し、籌策を運らし、滇蜀の民を傾け、富は僮千人に至る。田池射猟の楽しみ、人君に擬す。程鄭は山東の遷虜なり。亦冶鋳し、椎髻の民に賈し、富は卓氏に埒しく、俱に臨邛に居る。宛の孔氏の先は梁人なり。鉄冶を用て業と為す。秦魏を伐ち、孔氏を南陽に遷す。
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