士道心得書 / 兵は戰を止める為
鄭原曰。孫子十三篇。不獨武人根本。文士亦當盡心。云云。至於淮陰南陽輩。往々用孫子書。以翊明主。匡時難。起赤子於湯火之內也。(淮陰韓信 南陽孔明)夫人之耳目心府一也。人之精心志慮一也。書者耳目心府之寄也。精心志慮之留也。故善者得之。則益以濟其善。愚者得之。則益以濟其惡。善用之。野無橫敵。對無立國。非好戰也。戰所以止戰也。由是强大者伏節。旱悍者革心。睥睨者寢謀。奸僞者戰志。釁孽不萌。禍亂不作。顚連困窮之民樂其生。侯甸男衞之邦奉其職。蛟行蠕動之類若其性。彫題辨髮之氓率其化。凡聖人之仁所以覆天下者。則皆兵之爲也。聖人以武裁亂。用仁持之。以仁立國、用武維之。故天下旣平。天子大愷。春蒐夏苗。秋獮冬狩。明不忘戰也。故曰。國雖大。好戰必亡。天下雖安。忘戰必危。云云。
新字:鄭原曰。孫子十三篇。不独武人根本。文士亦当尽心。云云。至於淮陰南陽輩。往々用孫子書。以翊明主。匡時難。起赤子於湯火之内也。(淮陰韓信 南陽孔明)夫人之耳目心府一也。人之精心志慮一也。書者耳目心府之寄也。精心志慮之留也。故善者得之。則益以済其善。愚者得之。則益以済其悪。善用之。野無横敵。対無立国。非好戦也。戦所以止戦也。由是強大者伏節。旱悍者革心。睥睨者寝謀。奸偽者戦志。釁孽不萌。禍乱不作。顛連困窮之民楽其生。侯甸男衛之邦奉其職。蛟行蠕動之類若其性。彫題弁髪之氓率其化。凡聖人之仁所以覆天下者。則皆兵之為也。聖人以武裁乱。用仁持之。以仁立国、用武維之。故天下既平。天子大愷。春蒐夏苗。秋獮冬狩。明不忘戦也。故曰。国雖大。好戦必亡。天下雖安。忘戦必危。云云。
書き下し
鄭原曰く、孫子十三篇は、獨り武人の根本のみならず、文士も亦當に心を盡すべし、云云。淮陰・南陽の輩に至りては、往々孫子の書を用ひ、以て明主を翊け、時の難を匡し、赤子を湯火の内より起こすなり。(淮陰は韓信、南陽は孔明)夫れ人の耳目心府は一なり。人の精心志慮は一なり。書は耳目心府の寄なり、精心志慮の留まるなり。故に善者之を得れば、則ち益々以て其の善を濟し、愚者之を得れば、則ち益々以て其の惡を濟す。善く之を用ふれば、野に橫敵無く、對して立つ國無し。戰を好むに非ざるなり。戰は戰を止むる所以なり。是に由りて强大なる者は節に伏し、旱悍なる者は心を革め、睥睨する者は謀を寢め、奸僞なる者は志に戰く。釁孽萌さず、禍亂作らず、顚連困窮の民は其の生を樂しみ、侯甸男衞の邦は其の職を奉じ、蛟行蠕動の類は其の性に若ひ、彫題辨髮の氓は其の化に率ふ。凡そ聖人の仁の天下を覆ふ所以は、則ち皆兵の爲すなり。聖人は武を以て亂を裁し、仁を用て之を持す。仁を以て國を立て、武を用て之を維ぐ。故に天下旣に平らかなれば、天子大愷し、春は蒐し夏は苗し、秋は獮し冬は狩す。明らかに戰を忘れざるなり。故に曰く、國大なりと雖も、戰を好めば必ず亡ぶ。天下安しと雖も、戰を忘るれば必ず危し、云云と。
現代語訳
鄭原は言います。孫子十三篇は武人だけの根本ではなく、文を学ぶ者もまた心を尽くして学ぶべきだ、と。淮陰侯韓信や南陽の諸葛孔明らは、しばしば孫子の書を用いて名君を助け、時代の難儀を正し、民を水火の苦しみから救い起こしました。人の耳目や心のはたらきは皆同じで、人の精神や思慮も同じです。書物は耳目や心のはたらきを預けるもの、精神や思慮をとどめるものです。だから善人がこれを得ればいよいよその善を成し遂げ、愚か者が得ればいよいよその悪を成し遂げます。善く用いれば、野に敵はなく、向かい合って立ちはだかる国もありません。それは戦を好むからではなく、戦をもって戦を止めるためです。こうして強大な者は節度に従い、荒々しい者は心を改め、様子をうかがう者は謀をやめ、よこしまな者は志を恐れます。禍の芽は出ず、乱も起きず、困窮した民は生活を楽しみ、諸侯の国々は職務を果たし、虫けらのような類も本来の性にかない、辺境の民も教化に従います。聖人の仁が天下を覆うのは、すべて軍事の働きによるのです。聖人は武で乱を裁き、仁でそれを保ち、仁で国を立て、武でそれを維持します。だから天下がすでに平らかでも、天子は凱旋の楽を奏し、春夏秋冬に狩りを行って、戦を忘れていないことを示すのです。ゆえに言います。国が大きくても戦を好めば必ず滅び、天下が安らかでも戦を忘れれば必ず危うい、と。
解説
この章句が説くこと
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