潜夫論 / 本訓
當此之時,正氣所加,非唯於人,百穀草木,禽獸魚鱉,皆口養其氣,聲入於耳,以感於心。男女聽以施精神,資和以兆衃。民之胎,含嘉以成體,及其生也,和以養性,美在其中,而暢於四肢,實於血脈,以心性誌耳意目精欲,無不貞廉潔懷履行者。此五帝三王所以能畫法像而民不違,正己德而世自化也。是故法令刑賞者,乃所以治民事而致整理爾,未足以興大化而升太平也。夫欲曆三正之絕跡,臻帝皇之極功者,必先原元而本本,興道而致和。以淳粹之氣,生敦烝之民,明德義之表,作信厚之心,然後化可美而功可成也。
新字:当此之時,正気所加,非唯於人,百穀草木,禽獣魚鱉,皆口養其気,声入於耳,以感於心。男女聴以施精神,資和以兆衃。民之胎,含嘉以成体,及其生也,和以養性,美在其中,而暢於四肢,実於血脈,以心性誌耳意目精欲,無不貞廉潔懐履行者。此五帝三王所以能画法像而民不違,正己徳而世自化也。是故法令刑賞者,乃所以治民事而致整理爾,未足以興大化而升太平也。夫欲暦三正之絶跡,臻帝皇之極功者,必先原元而本本,興道而致和。以淳粋之気,生敦烝之民,明徳義之表,作信厚之心,然後化可美而功可成也。
書き下し
此の時に当たり、正気の加わる所は、唯だ人に於いてのみに非ず、百穀・草木、禽獣・魚鱉、皆な口に其の気を養い、声は耳に入りて、以て心に感ず。男女は聴きて以て精神を施し、和を資りて以て衃を兆す。民の胎は、嘉きを含みて以て体を成し、其の生まるるに及びては、和以て性を養い、美は其の中に在りて、四肢に暢び、血脈に実ち、心性・誌耳・意目・精欲を以て、貞廉潔懐して行いを履まざる無し。此れ五帝三王の能く法像を画きて民違わず、己の徳を正して世自ずから化する所以なり。是の故に法令・刑賞なる者は、乃ち民事を治めて整理を致す所以のみ。未だ以て大化を興して太平に升るに足らず。夫れ三正の絶跡を曆み、帝皇の極功に臻らんと欲する者は、必ず先ず元に原づき本に本づき、道を興して和を致す。淳粋の気を以て、敦烝の民を生み、徳義の表を明らかにして、信厚の心を作り、然る後に化は美しくすべく、功は成すべきなり。
現代語訳
このとき、正しい気が及ぶのは、人だけではなく、百穀や草木、鳥獣や魚鼈もみな、口にその気を養い、声が耳に入って心に感じました。男女はそれを聞いて精神を施し、和を資って胎の兆しを成しました。民の胎は、善きものを含んで体を成し、生まれてからは、和によって性を養い、美しさはその中にあり、四肢に伸び、血脈に満ち、心性・志・意・耳目・精欲のどれもが、貞廉で潔く、行いを実践しないものはありませんでした。これが、五帝三王が法象を示して民が違わず、自らの徳を正して世がおのずと感化された理由です。だから法令や刑賞は、民の事を治めて整えるためのものにすぎません。まだ大いなる感化を起こして太平に上るには足りません。三正の絶えた跡をたどり、帝皇の極めた功に至ろうとする者は、必ずまず根源に立ち返り本に基づき、道を興して和を致します。純粋な気によって、厚く豊かな民を生み、徳義の手本を明らかにして、誠実で厚い心を作り、その後に感化は美しくなり、功は成し遂げられるのです。
解説
この章句が説くこと
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『潜夫論』德化夫れ化の民心を変ずるは、猶お政の民体を変ずるがごとし。徳政の民に加わるや、則ち涤暢・姣好、堅強・考寿多く、悪政の民に加わるや、則ち罷癃・尢病、夭昏・紥瘥多し。故に《尚書》は「考終命」を美して、「凶短折」を悪む。国に明を傷つくるの政有れば、則ち民に目を病む者多し。有とは道の使いなり。必ず其の根有りて、其の気乃ち生じ、必ず其の使い有りて、変化乃ち成る。是の故に道の物たるや、至神にして以て妙。其の功たるや、至強にして以て大。天の以て動くや、地の以て静かなるや、日の以て光あるや、月の以て明らかなるや、四時五行、鬼神人民、億兆の醜類、変異吉凶、何れか気の然らしむるに非ざらん。其の乖戻するに及びては、天の尊きも、気裂く。地の大なるも、気動く。山の重きも、気徙す。水の流るるも、気之を絶つ。日月の神なるも、気之を蝕す。星辰の虚なるも、気之を隕す。旦に昼晦き有り、宵に大風有り、飛車は樹を抜き、僨電は氷と為り、温泉は湯と成り、麟龍・鸞鳳、蝥□・蝝蝗、気の為す所ならざる莫し。此れを以て観れば、気運の感動も、亦た誠に大なり。変化の為す、何物か能わざらん。是の故に上聖は故より民事を治むるに務めず、而して民心を治むるに務む。
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『潜夫論』德化民の胎するや、中和を合わせて以て成り、其の生まるるや、方正を立てて以て長ず。是を以て仁義の心、廉恥の志を為し、骨に著き脈に通じ、体と俱に生まれて粗穢の気無く、邪淫の欲無し。之を大荒の外に放ち、之を幽冥の内に措くと雖も、終に礼に違うの行い無し。之を危亡の地に投じ、之を鋒鍔の間に納るるも、終に苟くも全うするの心無し。世を挙げての人、行い皆此くの若くならば、則ち又烏くにか亡ぶる所あらん。夫れ奸乱の民にして辟を加えんや。上天の載は、馨無く臭無し、文王に儀形すれば、万邦孚と作る、此れ姫氏の崇美を前に以てし、而して刑錯を後に致す所以なり。聖人は其れ徳礼を尊びて刑罰を卑しみ、故に舜は先ず契に敕して敬みて五教を敷かしめ、而る後に皋陶に命じて五刑三居せしむ。是の故に凡そ法を立つる者は、民の短を司りて過誤を誅する所以に非ず、乃ち奸悪を防ぎて禍敗を救い、淫邪を撿して正道を内るる所以のみ。詩に云う、「民の秉夷、是の懿徳を好む」と。故に民に心有るは、猶お種を為すに園有るがごとし。和気に遭えば、則ち秀茂して実を成し、水旱に遇えば、則ち枯槁して孽を生ず。民善化を蒙れば、則ち士君子の心有り、悪政を被れば、則ち人奸乱の慮を懐く。故に善き者の天民を養うや、猶お良工の曲豉を為すがごとし。
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『潜夫論』德化上聖は気を和して以て民心を化し、表儀を正して以て群下を率い、故に能く民をして比屋封ずべからしむ、堯舜是れなり。其の次は道徳を躬らし慈愛を敦くし、教訓を美しくし礼譲を崇び、故に能く民をして争心無からしめて刑錯を致す、文武是れなり。其の次は好悪を明らかにし法禁を顕らかにし、賞罰を平らかにして阿私無く、故に能く民をして奸邪を辟けて公正に趨かしめ、弱乱を理めて以て治強を致す、中興是れなり。天下を治むるに、身は汙に処りて情を放にし、民事を怠りて酒楽を急にし、頑童に近づきて賢才を遠ざけ、諂諛に親しみて正直を疎んじ、賦税を重くして以て無功を賞し、妄りに喜怒を加えて以て無辜を傷つくる、故に能く其の政を乱して以て其の民を敗り、其の身を弊して以て其の国を喪う者は、幽厲是れなり。孔子曰く、「三人行えば必ず我が師有り。其の善き者を択びて之に従い、其の不善なる者は、我則ち之を改む」と。詩に美す「宜しく殷に鑑みて、自ら多福を求むべし」と。是の故に世主誠に能く六合の内、世を挙げての人をして咸な方厚の情を懐き、浅薄の悪無からしめ、各おの公政の心を奉じて、奸陬の慮無からしむれば、則ち羲農の俗復た茲に見われ、麟龍鸞鳳復た郊に畜われん。
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『潜夫論』德化人君の治は、道より大なるは莫く、徳より盛んなるは莫く、教えより美なるは莫く、化より神なるは莫し。道とは、之を持する所以なり。徳とは、之を苞む所以なり。教えとは、之を知らしむる所以なり。化とは、之を致す所以なり。民に性有り、情有り、化有り、俗有り。情性とは、心なり、本なり。化俗とは、行いなり、末なり。末は本より生じ、行いは心より起こる。是を以て上君の世を撫するや、其の本を先にして其の末を後にし、其の心を慎みて其の行いを理む。心精苟くも亡ければ、則ち奸匿の作す所、邪意の載する所無し。
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『潜夫論』德化起居は其の時を以てし、寒温は其の適を得れば、則ち一蔭の曲豉、美を尽くして量多し。其の愚拙の工なれば、則ち一蔭の曲豉、皆臭敗して棄損す。今六合も亦た一蔭のごときなり、黔首の属は、猶お豆麦のごときなり。変化雲為は、将たる者に在るのみ。良吏に遭えば、則ち皆忠信を懐きて仁厚を履み、悪吏に遇えば、則ち皆奸邪を懐きて浅薄を行う。忠厚積めば則ち太平を致し、奸薄積めば則ち危亡を致す。是を以て聖帝明王は、皆徳化を敦くして威刑を薄くす。徳とは、己を修むる所以なり、威とは、人を治むる所以なり。上智なれば則ち下愚の民少なく、而して中庸の民多し。中民の世に生くるや、猶お鑠金の壚に在るがごときなり。篤きに従いて変化し、唯だ冶の為す所にして、方円薄厚は、鎔製に随うのみ。是の故に世の善否、俗の薄厚は、皆君に在り。
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『潜夫論』本訓上古の世、太素の時、元気窈冥にして、未だ形兆有らず。万精合并し、混じて一と為り、製する莫く禦する莫し。斯くの若くして之を久しくし、翻然として自ら化し、清濁分別し、変じて陰陽を成す。陰陽に体有りて、実に両儀を生じ、天地壹鬱として、万物化して淳く、和気人を生じ、以て之を統理す。是の故に天は諸れを陽に本づき、地は諸れを陰に本づき、人は中和に本づく。三才は務めを異にし、相い待ちて成り、各おの其の道に循えば、和気乃ち臻り、璣衡乃ち平らかなり。天道は日に施し、地道は日に化し、人道は日に為す。為すとは、蓋し所謂る陰陽に感通して珍異を致すなり。人の行いの天地を動かすは、譬えば猶お車上に四馬を御し、蓬中に舟船を擢するがごとし。覆載せらるる所と為ると雖も、然れども亦た我が何れの所に之くべきかに在り。孔子曰く、「時に六龍に乗りて以て天を御す」と。言行は、君子の天地を動かす所以なり、慎まざるべけんや。此れ従り観れば、天は其の兆を呈し、人は其の勲を序す。《書》に故に曰く、「天の功は、人其れ之に代わる」と。如し蓋し其の政を理めて以て天気を和し、以て其の功を臻さん。是の故に道徳の用は、気より大なるは莫し。道は之の根なり、気は変ずる所なり、神気の動かす所なり。
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