導師導古典を学びたいすべての人に

論語と算盤 / 実業と士道・天然の抵抗を征服せよ

然るに爰に遺憾なりしは、米大陸が其の半腹に帯の如き一地峡の存するに由り、地勢は為に蜿蜒長蛇の如く南北に走りて、徒らに太西太平両海洋の聯絡を遮断することであつた、而して此の障壁を除却することに就ては、レセツプ氏以下何れも多大の辛酸を甞められたのであるけれども、不幸にして比々失敗し去つたのであつた、併し其儘に終ることはあるまいと思つて居ると、我が東隣友邦の雄大なる経営に依りて、遂に巴奈馬地峡開鑿の一大工事が竣成し、南北の水は乃ち相通じ、東西の半球は全く比隣と化し去らんとしつ〻ある、

書き下し

しかるにここに遺憾なりしは、米大陸がその半腹に帯のごとき一地峡の存するにより、地勢はために蜿蜒長蛇のごとく南北に走りて、いたずらに大西太平両海洋の聯絡を遮断することであった。そしてこの障壁を除却することについては、レセップス氏以下いずれも多大の辛酸を嘗められたのであるけれども、不幸にして比々失敗し去ったのであった。しかしそのままに終わることはあるまいと思っていると、我が東隣友邦の雄大なる経営によりて、ついにパナマ地峡開鑿の一大工事が竣成し、南北の水はすなわち相通じ、東西の半球は全く比隣と化し去らんとしつつある。

現代語訳

ところがここで残念だったのは、アメリカ大陸がその中ほどに帯のような一つの地峡を持っているために、地形が長い蛇のようにうねって南北に走り、むなしく大西洋と太平洋の連絡を遮っていたことであった。そしてこの障壁を取り除くことについては、レセップス氏をはじめ誰もが大変な苦労をなめたのだが、不幸にしてことごとく失敗に終わったのであった。しかしそのままで終わることはあるまいと思っていると、我が国の東隣の友邦(アメリカ)の雄大な事業によって、ついにパナマ地峡を開削する大工事が完成し、南北の水はつながり、東西の半球はまったく隣り合うものに変わろうとしつつある。

解説

スエズの次はパナマである。スエズ運河を成功させたレセップスは、同じ手法でパナマに挑んだが、熱病と難工事で破綻した。その後アメリカが事業を引き継ぎ、一九一四年に運河を開通させた。渋沢はこの経緯を、失敗の連続のあとについに成し遂げられた人類の事業として語る。一人の英雄が成功した運河で失敗し、別の国がそれを完成させる。事業は個人を超えて引き継がれていくものだという実感が、この段にはある。アメリカを「東隣友邦」と呼ぶのも渋沢らしい。彼は日米関係の悪化を憂い、晩年まで民間外交に力を尽くした。移民問題で両国がぎくしゃくし始めた時期に、あえて友邦と書いている。障壁の多い大事業ほど、一代で終わらず、他者の手で完成されることがある。その覚悟で始めることの意味を考えさせる。

関連する章句

古典の入門書『人生の教科書』の表紙

人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。

古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。

本の中身を見る
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)+師導1か月=700円 本を見る